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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第六章 再戦! 成長した勇者達!
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第三十五話 肥大した人形

「やーれやれ、ようやくお出ましか」


拳太はむくりと起き上がると、馬車から飛び出て花崎達の前へと降り立つ


「相変わらずのハーレムっぷりだな、羨ましい事だぜ」


「拳太、今ここでお前を倒す!」


聞く耳を持たぬ姿勢の花崎を見て拳太はうんざりした様子でため息を吐く


「まーだ操り人形なのか? 少しは自分の目で確かめてから物事を判断すればどうだ?」


「ああ、この目で見たさ、お前がセルビアさんに犯した、許されない罪をな!」


拳太の言いたいことをこれっぽっちも理解していない花崎に拳太は再び重々しいため息をつく


「……あっそ、ならさっさと来たらどうだ? (オレ)を倒すんだろ、勇者(ヒーロー)


「言われなくてもっ!」


手をチョイチョイと上げて挑発する拳太目掛けて花崎は背負った大剣を勢いよく引き抜き、飛びかかって拳太を真っ二つにしようと大剣を振りかぶる


「動きが単調だぜ!」


拳太は半身を捻って花崎の大剣をかわし、路地裏へと走り去って行く


「待て!」


「待てと言われて待つ奴がいるか!」


迷うこと無く走り続ける拳太、しかし彼は一度だけ振り向き、馬車から出てきたバニエット達を見つけるとほんの少しだけ声を発した


「お前ら、やれるな!」


拳太の声に振り向いたバニエット達は自信満々に頷く、拳太はそれを満足そうに見ると速度を上げて後を追う花崎と共に姿を消した。
















「あんた達……拳太がどんな奴か分かってるの!?」


バニエットとアニエスは赤い髪をポニーテールに纏めた少女、折邑香織の前へと立ちはだかる


「分かっているから、ここにいるんじゃないですか」


バニエットは普段の優しい表情を消して、眉間に深い皺を刻んで剣の切っ先を折邑へと向ける、その姿は幼い子供から発せられるとは思えない程の闘気を纏っていた。


「……ッ、あ、あんた達は拳太に騙されてんのよ! 私達はあんた達を保護しに来たの!

それにラビィ族のあんた、顔を怪我してるじゃない! 拳太にやられたんでしょ!?

私達はあんた達を助けるためにここに来たのよ! だから道を開けなさい! もうあんな奴の言うことなんて聞くこと無いわ!」


バニエットの闘気を受けて気圧される折邑だったが、彼女はそれでもバニエット達へと『説得』の言葉を浴びせかける


「……ふざけないで、欲しいのです」


だがそこで、バニエットの隣にいたアニエスが肩を震わせて折邑を睨み付ける、その両目には涙が潤んでおり、完全に折邑への怒りが頂点に達していた。


当然、限られた視点と偏見でしか物事を見れなかった折邑にはその訳が理解できない


「いい加減にして欲しいのです! 貴方達勇者はいつもいつも! 自分の都合ばかり押して! 私達を傷つけて悪いことには見て見ぬふり! 私達がなにをしたのですか! ケンタさんがなにをしたのですか! 貴方達勇者の方が、よっぽど『悪』じゃないですかぁ!」


わがままを喚き散らす子供のように、涙を流して大声で折邑……いや、勇者と言う存在その物を糾弾するアニエス

その姿に、その言葉に、折邑は胸を鈍器で殴られたような衝撃を受けて目を見開く


なぜ? どうして? と折邑の頭の中が疑問符へと埋め尽くされる


他人は知らない、遠藤拳太がバニエットのため、かつての約束のために立ち上がり、再び歩み始めた事を

彼女は知らない、遠藤拳太がアニエスだけでなく、罪人となり裁かれるはずのナーリンすら救った事を

彼らは知らない、遠藤拳太が倒れていただけの、それも魔族であるレベッカに手を差しのべた事を

勇者は知らない、遠藤拳太がアニエスを庇って傷つき、バニエットを守りきれなかったことで心まで削っている事を


そして、世界は知らない、遠藤拳太が『奪う』ためでなく『守る』ために戦う事を


「なん……でよ……」


折邑は理解できない、できたとしても、したくない

彼女は、元の世界でも、この世界でも、常に『正義』のために動き続けた。


それなのに、まるで自分が全ての元凶のようなこの状況を、受け入れる事が出来なかった。


「私は間違ってない! 間違ってるのは拳太の方よッ!!」


「ふざけるなッ!」


折邑の言葉にバニエットが今まで出したことが無いような怒声を飛ばし、折邑を圧倒する


「何も見ていないクセに! 知った風な口を聞くなぁー!」


「う、あああああ!!」


駆け出したのは同時だった。


まず最初に折邑が柄まで鉄製の重い槍をバニエットへと叩きつけるように振り下ろす。

バニエット達を保護するという目的も忘れて折邑は全力で振るった。まるで聞きたくない話を流すラジオを電源コードごと引き抜いて無理矢理止めるように


「そんな攻撃!」


バニエットは脚の力を爆発させて一気に跳躍し、向こう側への壁へと飛び移る

壁にしっかりと足を着けて折邑の方を見ると、丁度アニエスが槍を振り下ろした隙を狙って杖を鈍器に見立てて構えている所だった。


「アニエスちゃん! 行きますよ!」


「はい!」


アニエスの攻撃に合わせるようにバニエットは壁を蹴って一直線に折邑の元へと向かっていく

アニエスが杖を振ると同時、バニエットも剣を向けた。


そして、その武器が折邑へと触れる刹那――


「『炎の衝撃(ヒート・バーン)』!」


熱気を伴った不可視の衝撃が全方位へと襲いかかり、バニエットとアニエスの小柄な体を吹き飛ばす。


「きゃあ!」


「……安心して、手加減はしたわ」


地面に埋まった槍の穂先を引き抜いて彼女は静かに言い放つ


「だけど、洗脳が解けるまでは大人しくしてもらうわ」


バニエット達を『敵』と認識した折邑は、片手で結構な重量のあるはずの槍を回して構え直した。


「……まだまだいけますよね?」


「もちろんなのです!」


だがそれでも、圧倒的な力を持つ折邑を前にしても彼女達は立ち上がった。


彼女達が慕う、あの少年のように















「ふーん……あんたが魔族か、始めて見たで」


「…………」


レベッカと草薙千早はある一軒家の屋上に立っていた。

風魔法で跳躍して拳太を追撃しようとした千早に対してレベッカもまた風魔法と己の翼を駆使して飛び上がり、一気に屋根まで移動したのだ。


「先に拳太クンを倒そ思たけど……邪魔するんやったらウチが相手なるで」


「……『見えざる騎士(インビジブル・ナイト) 』」


レベッカは静かに魔法を発動させ、レイピアが独りでに踊るようにレベッカの周りを旋回する


「ケンタはやらせない」


決して激しくはないが、確かに熱を持った眼でレベッカは千早を射抜く

千早もそれに応えるように弓を構えて臨戦態勢を取った。


「なぁ、一つ聞かせろや」


千早は弓を構えたままレベッカへと問いかける、まるで戦争の将軍同士の舌戦のように


「あんたら魔族はなんで世界を乱すん? 日常の平穏をなんで崩すんや」


「…………」


レベッカは何も言わない、千早の言い分もあながち間違っては無かったからだ。

レベッカ自身、特に何かしたわけでは無いが、『魔王』を始めとする様々な魔族の大抵は争い、その規模を世界へと拡げつつある、その事実は否定できない


だからレベッカは、彼女自身の言葉で答えた。


「君は知っているハズだよ」


「……?」


「君の言う平穏にだって、誰かが必ず『不幸』になる」


そう、例えば偏見でしか見てもらえずに独りになっていた拳太のように

例えばヒルブ王国の人間至上主義のせいで奴隷となったバニエットのように

例えば力が無いから話を聞いてもらえず、肩身の狭い思いをしたアニエスとレベッカのように


世界にとってはなんてことはない『日常』、だがその『日常』に苦しみ、絶望してきた。


「誰かがずっと苦しんでまで保たなきゃいけない『平和』なんて間違ってる!

不可能と分かっていても、幸せのために戦わなきゃいけないし、戦っていいはずだよ!」


「……!」


その言葉は、皆での『幸せ』を願っていた千早の胸に深く刺さる言葉だった。


千早は皆が笑い合う明日のために尽力してきたし、これからもそうだった。

しかし、その『皆』に入れなかった者達の事は考えてなかった。考えようとしなかった。

元の世界で、拳太の事に触れなかったのがいい例だ。もし彼女が本気で全ての者の大円団を目指すなら、少なくとも一度は拳太と接触するはずだ。

それは、彼女にとっての『皆』に入らない者に対する差別の事実だった。


その間違いから目を反らすように千早は己の感情をぶつける


「やからって……他の人の幸せ壊してまでやってええ事ちゃうやろ!」


しかしレベッカは揺らがずに、自分自身を表す言葉で返す。


「変化の無い人生なんて、そんなの生きているなんて言えないよ!」


「ッ!!」


止まった。


両者に動きも言葉もなく、風の通る音が彼女達の鼓膜を刺激する。

やがて、千早が弓から風を発生させ始め、彼女の纏う白い制服が揺れ始めた。


「わかったわ、なにゆうても無駄やねんな……」


「…………」


レベッカの表情も固く引き締まるものとなり、いつでもレイピアを射出できるようにする


「やったら! ここであんたを倒してウチが正しいことを証明するッ!」


「やってみろォー!」


千早の風の刃と、レベッカのレイピアの刃が激突する

嵐のような暴風を撒き散らして、二つの信念がぶつかり合う















「そこ、退いて下さい……」


「ケンタ殿は私達の友、見捨てる訳にはいきませぬ」


「と言うわけだ、文句があるなら力づくで通れ、傀儡の勇者よ」


道幅の広い大通りで湖南有子とベルグゥ、そしてその肩にのるレネニアが対峙していた。

自分よりも一回りも二回りも大きい体格のベルグゥにも怖じ気づいた様子を見せないのは流石は勇者と言ったところか


「拳太さんは……酷いことをした人なんですよ? …………どうして庇うんですか?」


「あの姫の事を言っているのか? だとしても少年はラビィの少女を守るために拳を振るっただけだ。貴様にどうこう言われる筋合いは無いと思うがな」


「でも、何もあそこまでしなくったって……」


「……そうだな、あの時少年は暴走した。それは認めよう」


レネニアは案外すんなりとそれを認めた。だが事実、拳太は一度怒りで拳を振るい、バニエットが止めに入らなければ今も過ちを犯しているのかもしれない


だが、それでもレネニアは思う


「それがどうした? あの少年はちゃんと周りの言葉を聞き入れて、自分の間違いを認めていた。

それは自分の意思で動き、最善の未来を掴もうともがき、時には道を違えても仲間に引っ張られてまた歩み続ける……『進化』という素晴らしい姿だ。

それに対して貴様らは何だ? 王の言う通りにしか動かずに、自己満足の偽りの正義を甘んじて受け入れ、そのくせ他人の過ちを糾弾するだけで何もしない……


断言しよう、今の貴様らに勇者を名乗る資格などない」


「……。」


それは、湖南の心中を打ち抜くような一言だった。


彼女はいつも誰かに甘えていた。だけど彼女はほとんどの人を信じなかった。

名前のせいでいじめられたのも一つの要因だが、自分を悲劇のヒロインとして正当化していたのもまた事実だった。

そうやって誰かについていく事しかしなかった彼女に、否定される事は何よりも認めたくない事だった。


「あ、貴方達だって、間違っているじゃないですか…………だから指名手配なんてされるんです……そんな貴方達が、勇者の資格が無いなんて、言える訳無いじゃないですかぁ!」


「ならば、貴方がケンタ殿を倒すなどという自分勝手な事をする資格は無いはずですが?」


ベルグゥの指摘に、湖南は固まった。もう言い返す言葉が見つからなかった。


「……私は、勇者なんです」


表情の伺えなくなった湖南の周りに大小様々な水の珠が浮かび上がる、ベルグゥは来るべき攻撃に備えて身構えた。


「だから……正しいのは私、私のはずなんです!」


湖南の言葉に対応して水の珠がベルグゥの元へと殺到する




今ここに、拳太達と花崎達の二度目の対決が始まった――――。

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