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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第六章 再戦! 成長した勇者達!
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第三十四話 二度降り立つ

前章のあらすじ


馬車を手にいれ、順調と思われていた拳太の前にこの世界の勇者、『三正勇者』の『言霊魔法』の使い手にして最強の勇者『セルビア・ヒルブ』一行が現れる。


拳太達は各々分断されるものの、何とか彼女達を退ける事に成功するが、セルビアの理不尽とも言える圧倒的な力に拳太達は倒れ伏してしまう。


そこからバニエットへの拷問が始まり、彼女の耳が切断されるあわやという時に拳太から謎の赤い風が吹き荒れ、拳太が悪魔と化す。


セルビア達を軽々と捻り潰し、暴虐の限りを尽くす拳太であったが、バニエットの心からの呼び掛けにより拳太は人としての自分を取り戻す。


これにより拳太は、己の誓いを再確認することとなり、改めてバニエット達を守るために戦う事を決めたのだった。

「――ぷはぁ! やっと接続できたぞ!」


セルビア・ヒルブの激闘から二日後、レネニアの姿を象った小さな人形は再び起動し、レネニア本人との視覚と聴覚のリンクを再開する


レネニアの視界は馬車の中身を捉え、聴覚は定期的な車輪の音を拾っていた。


「あ、レネニア! こっちに来れたんだね!」


レベッカがレネニアの顔を瞳の奥に映るほど覗き込み、安堵の息を吐く

レネニアはその様子を見てひとまずあの危機は去ったと察した。


だが、だからと言って全員が助かった訳ではない


「そうだ……他の皆は無事なのか?」


レネニアのもっともな問いに、レベッカは半眼を開いてやや困惑した表情で返す。

どこから説明したものか迷っているのだろう


「ええと……一応、ケンタが倒したんだけど……ボクもよく分からなかったっていうか……」


「構わない、詳しく話してくれ 」


有無を言わせぬ、と言うより有無のうの字を出した瞬間に蹴りを飛ばしそうな雰囲気のレネニアに、梅雨明けの雨のようにポツリポツリとレベッカは何が起こったのかを話始めた――――。














「……なるほど、赤い風か」


「やっぱり何か知ってるの?」


意味深長に腕を組むレネニアの顔にレベッカは期待の眼差しを込めて自らの顔を近づける


しかしレネニアは特に何のリアクションも返さずに考え込むと、やがて諦めたように首を振った。


「だめだ、さっぱり解らん、そもそも少年のスキルには謎が余りにも多すぎる」


「えっ、そうなのですか? ケンタさんのスキルは魔法を打ち消す力でしたよね?」


アニエスが今まで目撃した拳太のスキルを反復し、その内容をそのまま口外へと放出する

しかし、レネニアはそれでも人形に器用に作られたしかめっ面を崩す事はない


「いや、一概にそうとは言えん、例えばシスター……もしお前の言ったことが真実なら少年は治療魔法を受ける事が出来ないはず、そうなればあの時止血が出来ずに今ごろは出血多量で間違いなく死亡しているはずだ」


「……あっ!」


レネニアの指摘にアニエスは思い出したようで驚いた感情を表し、側に控えていた顔の傷が治りはじめているバニエットも見事に顔をシンクロさせる

しかもそれ以前に一度大蝙蝠との戦闘時に拳太は頭部にダメージを負い、その際にアニエスの治療魔法を受けている


「少年のスキルはそんな単純なものではない、何か特徴があるはずだ」


「あ……そう言えば!」


とそこでレベッカが何かを思い出したかのようにレネニアへと合わせていた顔を上げる


「どうした?」


「あの風を使った後、拳太には魔力が感じられなかったんだ!

使いすぎて殆ど無いとかじゃなくて、正真正銘の空っぽ!」


「魔力が空……聞いたことの無い効果だな……それに、少年のスキルは今まで攻撃性を一欠片も見せることは無かった。

だがそれが今になって発現した。原因は恐らく――お前だ、ラビィの少女よ」


「えぇ? わ、私ですか?」


バニエットはまさか自らが指名されるとは思わなかったのだろう、己を指差し困惑という困惑を全て顔へと搭載させている


「ああ……あの時、お前が耳を切断されそうになったときに少年に掛かっていた何かの箍が外れて隠された力を解放させたのだろう、強い感情と言うのは時に神にさえ予測不能な結果を生み出す事がある

あれは少年の感情――『怒り』によって引き出されたスキルの力……言い換えれば『暴走』だな」


「スキルの……暴走……」


暴走という響きに不穏な物しか感じ取れないのか皆重苦しい表情で沈黙を漂わせる


しかし無理からぬ話である、古今東西『暴走』と名のつく現象の結果はロクな物ではない、そもそも悪い結果を産み出し続けるから『暴走』ともいえる


「そしてラビィの少女が少年の怒りを鎮めた為に少年の暴走は鎮静化した。

あのままスキルを暴走させつづけていたらきっと少年は死んでいたかもしれん」


「えっ、ちょっと待って……スキルの暴走で死んじゃうの?

そんな話今まで聞いたこと無いんだけど、腕が吹き飛ぶとかならともかく」


物騒な言葉をつけてレベッカが思わずといった様子で訊ねる、レネニアはそれを否定せず頷き返した。


「あの赤い風は血液を使用して精製していると聞く、全てが使われ続ける訳でもないし、幾つかはただの風へと帰っていくだろう、そうなれば新たな風の補充のためにまた自らの血液を使用して最後には……」


レネニアはそこから先の言葉を紡ぐ事はなかったが、言いたいことは伝わったのか全員が押し黙る、ただでさえ馬車という狭苦しい空間に更に重たい空気が加わった。


「そ、そういえばケンタはどこ行ったのかな? ボク、レネニアをずっと見てたからわかんないんだけど」


「ええと、ケンタ様はですね――」


話題をとにかく転換しようとレベッカがふとここにいない拳太について言及する、馬に乗っているベルグゥはともかく拳太が居ないのは不自然だ。

バニエットは拳太の事を知っているらしく、口を開いた。















「くそっ……! また駄目か!」


馬車の屋根に拳太はいた、縁の金具に腰掛けて自らの腕を見て苛立たしげに歯を食いしばっている


「ケンタ殿、そろそろ休憩なされては……まだ本調子では無いのですし……」


「もう少しなんだ……! もう少しで『仕組み』が出来上がりそうなんだ……!」


ベルグゥの心配する声も気にせず拳太は再び腕に意識を集中させて魔力を集める

すると彼の腕が青白い火花を散らして絶え間無く拳太の腕を駆け巡る、よく見るとその火花は細かいカーブを描いていたが、しばらくすると効力を失って空気中へと散ってしまった。


「『形』は出来てる、あとは『変換へのプロセス』が出来上がれば……」


遠藤拳太は今、自らの新たな可能性に挑んでいた。


セルビアとの戦いは奇跡が起こったために勝利することができたが、いつでもそんな偶然が起こる訳が無いし、いつまでもそんな偶然の力に頼りっぱなしでいい訳が無かった。

今の実力を磨くのは勿論、何か新しい技術を取得しなければこの先生き残る事など不可能だろう


しかし他の属性の魔法は使用できない、偶然を起こしたと思われる他ならぬ『正々堂々』の影響で彼は雷魔法しか使えない


それに遠距離にいる相手の対策も講じる必要があった。地面や壁を伝っての電撃は素早いのだが射程距離が狭く、遠くに行くほど威力は激減し、空中の相手には命中しないという欠点も抱えていた。直接電撃を発射できれば話は別なのだろうが、今の拳太にそこまでの威力の電撃は発生させる事はできなかった。


そこで、新たに考え付いたのが『電磁』である


磁力を使用すればそれだけで攻防様々なパワーアップが図れるだろう

例えば、強力な磁力を纏いそれで拳を痛めずに強烈な威力のパンチやキックを繰り出せたり、敵の物理攻撃を軽減、あるいは無効化させたりできるハズだ。


そして拳太は早速『電磁魔法』へ取りかかったが、ここで一つ問題が起こった。


拳太は己の腕に網状の線が幾何学模様を描いて取り巻くイメージし、続けてそこに電磁化した電力を放出するイメージをしたのだが、実際に出たのはただの網状の電気だったのだ。

拳太は最初こそ戸惑ってはいたが何故不発に終わったのかかは直ぐに解った。


それは、電気から電磁に変わる『過程』が具体的にイメージ出来ていなかったからである


恐らく、電撃は雷魔法のデフォルト、つまり力の内容など何も考えずとも発生する初期設定のようなものであり、だからその初期設定のままの力を使っていた今までは大まかで曖昧なイメージでもなんの問題も無く使用できたのだが、『力』の内容を変えるのならば話は別だ。

自分で細かく設定を変更し、それを制御しなければならない


幸い、磁力は素粒子の電子スピンで発生するのは知っていた……と言うより元の世界で見たテレビの内容を思い出したので力の変更方法は問題ないのだが、磁力と電磁は別物だ。その力をどう使うかに様々な調整を行ってはいるのだが、いかんせん上手くいかない

現在は1cm四方の金属を手のひらから離れにくくする程度の磁力は発生しているのだが、それが失敗の名残であるのは想像に難くないだろう


「はぁ……はぁ……」


「ケンタ殿……御休みになって下され、何かあったらこのベルグゥ、一人で庇いきれる自信がありませぬ」


「そう、か……それなら仕方ねーな……少し、休むぜ……」


魔力がほぼ空となった拳太は危ない足取りで馬車の中へと入り、少しの会話が聞こえた後直ぐに止んだ。恐らく眠ったのだろう


「もうすぐ次の街、ケンタ殿も少しは休めるとよいのですが……」


ベルグゥは魔法で自らの皮膚の色を健康的な白色にすると、馬車の速度を上昇させる













「やけに街が騒がしいですな……」


ベルグゥが街に入った時、一部の場所で不自然な人だかりが出来上がっていた。

ベルグゥは馬車を適当な場所へと寄せると、申し訳ないと思いつつもその巨体を活かして人々の前列へと移動し、そこにある一枚の羊皮紙を見る

ハッキリと、見てしまう


『王族殺害未遂の指名手配犯として、この者の捕縛協力求む

報酬は最低でも金貨を可能な限り言い値で与える物とする


犯人:ケンタ・エンドー』


そこには、拳太の似顔絵付きで公開されている羊皮紙だった。

最悪の内容が書かれている一枚


「急いでこの事を知らせなければ――――!?」


慌てて馬車へと戻ろうとするベルグゥだったが、そこに物取りと思わしき汚ならしい格好の男が馬車の入り口である布を取り払おうとしていた。

もし拳太を目撃し、騒がれればそれは最悪の事態となる


「待っ――」


しかし、現実は無情で、非情で、残酷であった。

ベルグゥの嘆願も虚しく、馬車の中身が露となり、男の目が大きく見開かれる


そして――


「い、いたぞぉぉぉーーーー!!」


――男の叫びが、街中へと木霊した。


「くっ、面倒な事に!」


ベルグゥはひとまず片手で男をつまみ出すと急いで拳太達へと顔を出す。


「街に入ったばかりで申し訳ありませぬが、直ぐに出発致します!」


「え? ベ、ベルグゥさん、どうしたんですか?」


バニエットの問いかけにも無視して、ベルグゥは急いで馬を発進させようとして――


「――見つけたぞ、拳太」


本当に、漫画のヒーローのようなタイミングで


「その悪行の報い、全ては無理だけど、今ここである程度受け取ってもらうわ」


誰かが運命を操っていると言われても納得してしまう程に


「……覚悟、してください、貴方が今まで苦しめた人たちの痛み……!」


この世界が、出来の悪い物語のクライマックスのように


「思い知らせたるで、嫌や言うてもなぁ!」


彼らは、そこにいた。


「思い知れ悪党(拳太)勇者(俺達)の正義を」


――花崎大樹たち、勇者四人が拳太という悪を倒すために


この日、拳太はこの世界へ二度、現れる事となった。


一つ目は、存在するために

もう一つは、悪と認識されるために

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