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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第一章 その拳は自由へ向かう
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第四話 子供

「はむっ! むぐむぐ!」


「……はぁ~、よく食うなお前」


小鳥と森に帰ってきた拳太とバニエットは現在食事中である、と言っても今食べてるのはバニエットのみで、拳太はとっくに自分の分を済ませている

しかし、別段彼女の食べるスピードは遅くない、むしろ早い部類に入る、では何故食事が長引くのかと言うと――――


「はい! こんなに美味しい食べ物久しぶりです!」


「そうかい、オレの財布も軽くしてくれて嬉しいよ」


「えへへ……どういたしまして、です!」


「皮肉も通じねーのかこのバカ……」


最後の方は彼女に聞こえぬ様呟き一人項垂れる拳太

そう、この子は滅茶苦茶食べるのだ。見ている拳太が若干胸焼けを引き起こす位に、そして彼女のトンデモ胃袋のせいで拳太の財政事情は現在大絶賛火の車である


「仮にこれからこん位、いや、念のため更に1.5倍食うと予想したら……ゲッ、たったの五日間しか持たねぇ」


いくらチンピラが案外金を持っていたとは言え所詮チンピラ、それだけで安定した生活が送れる筈も無く拳太だけでも精々二週間程度しか生活出来ない程だったがバニエットの加入により半分以下にまで減ってしまった。これは早急に仕事を見つけないと非常に不味い、さもなくば拳太の人生は粉砕、玉砕、大喝采であろう、そしてきっと大喝采を上げるのはにっくき勇者達と王様達である


そんな胸糞の悪くなる想像を振り払うように拳太は食事が済んでからバニエットの食事風景を眺めていたためにずっと口に含んでいた木のスプーンを眼前の自分の器へと投げ入れる


「宿屋のおやじに聞いてみっか……バニィ、ちょっと席を離れるぜ、なんかあったら呼んでくれ」


「はーい! ……むぐむぐ」


拳太は切り株で出来た切り株の椅子から立ち上がると、店のカウンターで食器を磨いている青年の元へと向かっていった。











「ぷはーっ! お腹いっぱい!」


「緑スープ十五杯……まさか懸念がマジになるとか……」


拳太がオススメの仕事先を聞き終える頃にはバニエットは満足したらしく、拳太運の悪いことには自分の予想通りになり顔が引きつる


「さて、と……ご馳走様をしなくっちゃあな」


「ゴチソーサマ? 何かの魔法ですか?」


不思議そうに尋ねてくるバニエットに対し、いやいやと首を振る


「ご馳走様ってのはな、感謝の言葉なんだよ、『今日も美味い飯くれてありがとうございます』ってな、オレ達は生きている限り食わなきゃならねぇ、植物でも、動物でもな……食うって行為はな、他の奴の命を奪うって事なんだよ、そして命を奪われた奴らに敬意を払わなきゃなんねぇ、そいつらのお陰でオレ達は命を繋げるんだからな

ご馳走様は、その生き物に感謝と敬意を表すための大事な言葉なんだよ」


「ふぇぇ……」


バニエットはそれに感心した様に何度も頷き、頭のウサ耳がぴょこぴょこ揺れる、そこまで説明してハッと拳太は口元を押さえる


「……チッ、柄にも無くクセェ台詞言っちまった。悪い、今のは忘れ――」


「すごいです! ケンタ様!」


「うおっ!」


感極まったバニエットには拳太の言葉は届かず。その喜びを表現するかの如く拳太に抱きつき、頬擦りし始める


「私のような子にやさしくしてくれるだけじゃなく食べた子たちのことまで考えてくれるなんて! 私、ケンタ様に買われてよかったです!」


「わかった! わかったから抱きつくな! うっ!? クサッ! 獣臭ッ! いいからさっさと離れて水浴びしろクソガキ――!」


そうして拳太は何とかバニエットを無理矢理引き剥がし、強制的に水場へ連れて行った。









宿屋のすぐ近くにある小さな滝のある拳太の腰ほどの浅い池の中、彼とバニエットは一糸纏わずに行水を共にした。


と言っても方や幼女、方や不機嫌面の不良少年、まさか色気なんて出るはずもなく


「えへへ! 楽しいですねケンタ様!」


はしゃいで池を泳ぎまくるバニエットと


「おい、待て、まだ全然洗い終わってねぇ! まだ獣臭いぜ……ウッ」


それをブラシ片手に追う拳太の姿があった。


「む、ケンタ様」


拳太の怒鳴り散らす声に、不意にバニエットは泳ぐのを止めて拳太へと向き合う、その拗ねたような反抗的な表情に拳太は露骨に嫌そうな顔をして尋ねた。


「女の子に向かって『臭い』はひどいですよ」


「齢十かそこらの幼児体型が何言ってんだ……」


思わず即座に突っ込み返した拳太に、餅のように頬を膨らましてバニエットが詰めよってあれこれと騒ぎ立てる、そのバニエットを適当にあしらいながら拳太は見た。


「…………」


「ですから――! ……って、どうかしましたか?」


拳太の変化に気づいたバニエットが呆けた表情で小首と一緒に耳を傾ける、しかし拳太の視線はある場所に注がれ、すぐに外した。


「何でもねーよ……それよりホラ、続きだ」


拳太は細心の注意を払いながらブラシを彼女の幼い背中へ擦っていく

そう、先程拳太が見つめていた虐待の後とも言える傷を刺激しないように









「ふぁぁ……眠いでふ……」


「あぁ、オレも疲れた。はぁ……」


執拗に洗って洗って洗いまくってようやく獣臭さを除去した拳太はこれからのことについて考える


「冒険者ギルド、か……」


拳太が宿屋の青年に聞いて真っ先に挙げられたのがこの『冒険者ギルド』である

内容はシンプルで、そのギルド本部の建てられた地方ごとの依頼をこなすと言う所謂何でも屋だ。


「眠ぃし、明日考えるか」


元より聞いた時点で冒険者ギルドに入る事は決めていたためあまり深くは考えず、今日はもう眠ることにした。


「おいバニィ、お前はあっちのベッドな、オレこのベッドで寝るから」


二つある内の一つを指差しさっさと寝ようとした拳太だがバニエットの悲しげの表情を見て訝しげに尋ねる


「……なんだよ?」


「あの、別々……なんですか?」


「別々? ……ああ、ベッドのことか? 別にいいだろ?」


「わ、私は一緒の方がいいかなぁ……って思ってたりします。」


遠慮気味にチラチラ上目遣いで尋ねてくるバニエットに はぁ、と拳太はため息を吐く


「あのなぁ? オレがお前を襲ったりとか思わない訳? つーか何で一緒に寝なきゃならねーんだ?」


「あぅぅ……」


拳太がそう言うとバニエットは瞳を潤わせ押し黙るがそれでも拳太に視線を送る


「……わぁーった、わぁーった。一緒に寝てやるから泣くな、面倒臭い」


拳太が両手を挙げて降参のポーズを取るとバニエットは途端にパァっと笑顔になり


「やったぁー! ケンタ様、ありがとうございます!」


「――この変わり様、嵌められたんじゃね? オレ……」


そう言いつつも考える事が面倒臭くなってきた拳太はさっさとベッドに入る、その後すぐさまバニエットが入り拳太に密着する


「おーいバニィ、暑いんだけど? 離れろよ……」


「すぅ……すぅ……」


「って、もう寝てるし……」


「んっ、えへへぇ……信じてますからね、ケンタ様ぁ……」


「……はぁ」


拳太は今日の出来事で子供が嫌いになりそうだな、と思った。馴れ馴れしいし、調子を狂わされ、遠慮もしなけりゃわがままも言う、おまけに意外と可愛いげのないところまである


しかし何より、ちょっとした事で根拠も無く人を信じるのが一番わからないと思いながら拳太は寝た……









「うぅ……ぐすっ……」


「んぁ?」


眠ってからしばらく、泣き声の聞こえた拳太は目を覚ました。


「おとうさん……おかあさん……ぐすっ」


「…………」


拳太は目の前の少女に何をすべきかほんの少し、悩んだが結局は彼女の体を抱き締める事にした


「……ま、少しは優しくしてやるか」


そう呟いて、拳太は今度こそ眠りについた。

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