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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第五章 スキル『正々堂々』の謎
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第三十二話 暴虐

※今回の話はいともたやすく行われるえげつない行為があるので見るのに不快感を覚える可能性があります。予めご了承下さい

「あ、あ……」


バニエットの狼狽する声で彼らの時間が再び動きだし、思考が再開する

拳太が斬られ、血を出して倒れたのだと理解するのに実に数秒の時間を要した。


「う、ウソ――」


「ば、馬鹿な……私の魔力探知でも奴は完全に気を失っていたはず……ッ!」


「け、ケンタさん……?」


拳太は赤い血溜まりに倒れ、ピクリとも体を動かさない

その様子を呆然自失と見ているバニエット達を見て愉快そうに無傷のセルビアが笑いかける


「うふふふふ……さっきの拳のお返しよぉ?」


「ハッ……シスター! 早く少年の手当てをしろ!」


皮肉にもセルビアの声で我に返ったレネニアの一喝によりアニエスが拳太の元へ駆け寄り止血作業を開始する、それを死守せんとベルグゥとレベッカがセルビアへと飛びかかる


「ムウゥン!」


「『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』!」


左右それぞれから一斉に攻撃がセルビアの元へと降り注ぐが、セルビアはその笑みを崩さないままに、口を動かした。


「『弾けなさい』」


それに反応して、まるで見えない壁に弾かれるかのように二人とも反対へと押し出される


「ぐあああ!」


それだけではない、弾かれた彼らはまるで全身を刃で切り裂かれたかのようにボロボロになり、決して浅くはない傷であった。


「み、みなさん!」


「邪魔よぉ」


セルビアは瞬く間にアニエスへと接近し、彼女の腹部を思いきり蹴り上げる


「うぐっ!?」


アニエスはボールのように軽く空を舞うとそのまま重力に従って地面へと落下した。


「うええ……ゲホッ! ゲホッ!」


地面に叩きつけられたショックでアニエスは胃酸の混じった血液を吐き出す。芋虫の様に身を縮める彼女は拳太やレベッカ達程では無いにしろ、かなりのダメージを受けている


「あ、あああ……」


バニエットはその様子を見て腰が抜けたのか、立つことも出来ずにただへたりこんでいる

その瞳にはかつての人間達への恐怖を思い出したかのように絶望へと染まっていた。


「ラビィ族の! 早くそこから逃げろーー!」


レネニアの必死の叫びに何とか自我を取り戻したバニエットだったが、彼女は逃げるどころか自暴自棄になってセルビアへと剣を抜いて跳躍した。


「うあああああ!!」


「馬鹿! よせ!」


レネニアがそれを諫めるがもう遅い、セルビアは迎え撃つ事も、防御も回避も取らないでただ一言、呟いた。


「『重くなりなさい』」


「あっ!?」


直後、バニエットの身体は垂直に落下した。

地面と衝突する際、革の鎧が立てるにはあり得ない重低音が河原へ響き渡る

バニエットはその衝撃に思わず一瞬呼吸が止まった。


「う、あ……」


「セルビア様!」


とそこで、更に悪いことにバニエット達と戦った女剣士が此方へと駆けつけて来た。ベルグゥはそれを見て幽霊でも見たかのような信じられない表情を浮かべる


「な、何故…………再起不能に……なるまで、ダメージを与えたハズ………………ゲホッ、ゲホッ……ッ!」


「ああ、その事?」


息も絶え絶えなベルグゥに女剣士は何でもないように答える


「そんなの予めセルビア様の『全治』の魔法のかかった札を使ったからに決まってるわ」


「うふふふ……私も一つ使う羽目になったけどねぇ、使った直後に少し寝ちゃってたみたいだけどぉ」


「えー、地面で寝るなんて汚いですよ」


まるで日常の会話の如く普通に彼女達は言葉を交わしあう、もはや拳太達の事など気にとめる程にすら脅威を感じていないのだろう


「あーあ、でもどうせならやられた分の仕返しがしたかったな……って言ってもこんな虫の息いたぶってもつまんないし……」


「ああ、それならこの子なんてどぉ? まだ傷つけてないわよぉ?」


「おおー! さっすがセルビア様! できる女~」


「ひっ……!」


女剣士に視線を向けられたバニエットはビクリと体を震わせ、その場から逃げ出そうとする

しかし鉛よりも重くなってしまった装備が彼女を逃がさない、それどころかほんの少しずれる事すら出来ないのだ。


「あっ、でもちょっと待ってぇ、先にコイツを起こさないとぉ」


「ええ? いいじゃないですか、さっさとやりましょうよ」


「まぁまぁ、父上によればこの子が大切らしいから、目の前で見せてやるっていうのも中々いいと思うわよぉ?」


その光景を想像したのか、女剣士は顔を赤らめて両手で自らの体を抱き締めて恍惚の表情をしていた。


「いいですね……! そう言う事なら早くしましょう!」


「や、やめ、ろ……!」


レベッカがそれを阻止せんと自らの力を集めてレイピアを持ち上げるが


「『重くなりなさい』」


セルビアの一言でレイピアはレベッカの制御を離れて地面に再び落ちてしまった。


「ホラ、とっとと起きろよ!」


「がッ! グゥ!」


女剣士が拳太の顔面を激しく蹴る、拳太はそれで嫌でも目を覚ます、目を覚ましてしまう


「あ、ぐ……」


「起きた? 起きたよね? 目は蹴ってないからよく見えるよね?」


「な、何だ……?」


覚醒したばかりの拳太を嘲笑うかのように見下し、あるいはむしろ子供を労る母親のように見下ろし、とても綺麗な笑みを張り付けて彼女はクスクスと笑う


「これから君なとぉ~っても大切なこの子を丁寧になぶって、蹴って、痛め付けるからよーく見ていてよね?」


「な……テメー……!」


その意味を理解したのか拳太は眉間の皺を深めて女剣士を睨む、彼女はそんなのどこ吹く風といった風で口笛を吹いた。


「うわー、こっわ~い! まぁそんな目が出来るんなら、ハッキリバッチリ鮮明に、君の目に映るよね?」


「じゃあ……『吹き飛んで、重くなりなさい』」


セルビアが場を整えるように指を一つ鳴らすと拳太の他にもアニエスやレベッカ、ベルグゥとその懐にいたレネニアまでが暴風に吹き飛び、バニエットのように地面へ叩きつけられた。


「うがっ……!」


それで半ば気絶していたアニエスも意識を無理やり覚醒させられ、準備が整ったセルビア達は餌を待ち焦がれた猛獣のような笑みを深める


「じゃあ、始めてちょうだぁい」


「や、やめ――」


「了解!」


拳太の制止の声も虚しく、女剣士はバニエットの顔面を殴りつけた。


「あが……!」


「バニエットちゃん!」


「あはは、まだまだいくよ!」


バニエットの呻き声とアニエスの悲鳴のような叫びを潤滑剤にして女剣士は拳を、蹴りを、時には剣の柄や鞘を使って殴る


「あぐ、う、ぎっ!」


動く事も、腕で顔を庇う事すら出来ないバニエットの顔面を興奮した様子で叩く


叩き続ける


「うあ! うああ!」


「バニエット殿……!」


「ラビィの少女よ……くっ!」


聞くものが思わず顔をしかめざるを得ないような鈍い音が響き続ける。


ベルグゥは何とかしようと握りこぶしを作って必死にもがくが、身動ぎするだけで立ち上がる事も、バニエットの元へと行くことも出来ない、レネニアも悔しそうな表情で見ているだけだ。


「ひいぃ! うあ、ああああああ!!」


「あああ……バニエットちゃん…………もう、やめて……やめて欲しいのです……」


「あらあらぁ、ちゃあんと友達の事は見なきゃ駄目よぉ?」


鈍い音と悲鳴が、代わる代わる、暗い夜の河辺に反響する。


アニエスは見てられないとばかりに両手で顔を覆う、しかしセルビアが無理やりその腕を地面に寝かせ、追加で修道服の腕の部分とベールの部分を重くした。

これでもう彼女は目を塞ぐ事も、顔を背ける事も出来ない、目を瞑ってもより一層バニエットの悲鳴が耳にこびりつき、ますます彼女の心を壊していく


「アハハはははハハハははハハハははははハははハはははハハハッ!!

いいねいいねッ! 最ッ高の悲鳴だよ、シチュエーションも堪らないィィ!」


「がッ! ああああああ!!」


「バ、バニエットぉ……!」


少女は、拳太達に明るく笑いかけたラビィ族の少女は、もはやその面影は無く赤子のように泣きじゃくっていた。


レベッカがそれでも諦めずにレイピアをどうにか動かしてこの地獄を止めようとしている、だがその努力はただセルビア達に嘲笑われるだけで何も生まない、何も報われない、レベッカは悔し涙を流して渾身の力で地面を憎むように叩いた。

だが、それで何か変わる訳がない


「やめろ……クソォォーー!」


女剣士はバニエットを殴りつける手を止めない

バニエットも拳太達も、完全に戦意を失っている

それでも、彼女はバニエットを痛めつけるのをやめない


拳太は唯一、セルビアの魔法の影響を受けていない、しかし彼の体はこれっぽっちも動いてくれない

その事実が彼をより一層、絶望と己への無力感を味あわせた。


「んー……ねぇ、そろそろ新しい刺激、入れちゃわない? 何だか慣れ始めそうだしぃ」


「いいですねェ! それで、どうするんですか!」


これ以上ない位に息を荒くした女剣士にしばらく考える素振りをしたあと、セルビアはぽんと手に拳を乗せて微笑んだ。


「そうねぇ、耳を切るのがいいんじゃなぁい? 獣人にとって大事な部分って聞くしぃ」


セルビアのその言葉を聞いた瞬間、バニエットの顔が一気に青ざめ、必死に首を振った。


「やめて……やめてぇ……」


「もう、もういいだろ! ヒルブ王国(お前ら)の目的はオレだろ! だったらこいつらは無関係じゃねーか!」


恥もプライドも棄てて拳太がすがるようにセルビア達へと懇願する、セルビア達はそれで一度手をとめる


「んー……まぁ確かに父上からは貴方の捕縛以外何も言われてないわぁ」


「で・も」


拳太を絶望へと叩き落とすように笑みを見せる女剣士に合わせてセルビアは拳太に笑みを向け一言


「別に殺すなとは言われて無いしぃ……ダァ~メっ!」


「セルビア様、やっちゃっていいですかァァ?」


「テメーら……テメーら…………ッ!」


拳太は遂に両目から涙を溢す、その様子を満足げに眺めるセルビアは、ふと何か思い付いたようで、女剣士に話しかける


「そのちょんぎりだけどぉ……私がやるわぁ、その方がもっとコイツに絶望を与えられるんだもぉん」


「えェェ……ずるいですよ、美味しいところ持って行くなんて」


「その代わりにぃ……あとは全部任せるし、今度甘い物奢るからぁ……ね?」


セルビアの案に納得したのか、しぶしぶといった様子で女剣士は肩を竦める


「しょうがないですねェ……わかりましたよ」


「うふふ……あ・り・が・と」


セルビアは剣を引き抜くとバニエットの耳に当てる


「ひっ……」


「やめろ……!」


「大丈夫よぉ、綺麗に切れる様に丁寧にするからぁ」


「やめろ……!!」


「じゃあ、始めましょうかぁ」


セルビアが柄に力を入れる、このままではあと数秒後にバニエットの耳は無惨に切られてしまうだろう


「いやああああああああああああ!!」


「やめろクソッタレがああぁぁぁあああーーーー!!」


「うふふふふふ――――イヤよ」


セルビアの剣が動き、バニエットの耳の端に赤い玉が出来上がる


――直後、拳太の視界が真っ赤に染まった。

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