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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第五章 スキル『正々堂々』の謎
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第二十八話 三正勇者、登場

前章のあらすじ


森へと迷ってしまった拳太達は、そこで一つの館を発見する


拳太はそこにいた一人の『魔女』レネニアに気に入られて拳太達は己の命を賭けたギャンブルへと挑む


イカサマを仕掛けて拳太達を出し抜こうとしたレネニアだったがそれを見破り、更にそれを上書きする拳太のイカサマによってレネニアは精神的に拳太に敗北し、自ら負けを認めた。


こうして馬車と食料、そして新たな仲間を手に入れた拳太は次の冒険へと進む……

「うおおぉぉ!」


「ムッ!?」


拳太達が迷いの森から抜け出して10日が経過した。

拳太達は馬車を手に入れてからというもの特にトラブルに遇うこと無く順調に旅を続けていた。

そして現在、馬を止めて休んでいる間拳太はベルグゥと組手を行っていた。

何でも彼は体格を見れば納得だが、元戦士でベテランの冒険者でもあったらしい

その為一番実力の高い彼はローテーションを組みながら拳太達の相手をしていたのだ。


「むんっ!」


「うおっ!?」


拳太の連撃を捌き切りベルグゥの膝蹴りが拳太の股間目掛けて飛んでくる、拳太はそれを股間とベルグゥの膝の間に左手を挟む事でいなし、そこを支点として浮いた体を回して遠心力を込めた蹴りをお見舞いする


「オラァ!」


ベルグゥは冷静に拳太の蹴りの軌道を読んで足を掴む様に手を構えるがベルグゥは拳太のニヤリとした顔を見て即座に足を下げて後ろへ跳んだ。

拳太の雷を纏った足蹴りは空を切り拳太は舌打ち一つ漏らして即座に体勢を整える

もしベルグゥが拳太の足を掴んでいたらその瞬間に全身に雷を食らわせるところだった。

ベルグゥはその事実に冷や汗を掻きながら次の攻めへと転じる


「チィ! そう簡単には攻めらんねーな!」


拳太はそう愚痴を溢しながらもベルグゥの拳、蹴り、時にはフェイント等を難なくいなし続けている

そしてベルグゥの大振りの一撃に生まれた隙を突いて拳太は素早く拳を突き入れる


「かかりましたな!」


「なっ!?」


しかしそれはベルグゥの罠、ベルグゥはその巨体に隠したもう片方の拳を拳太へと振り上げる、この距離なら拳太が雷を出すことも回避も防御も間に合わない、ベルグゥがそう確信して拳を振り落とす


「な、めんなよコラァァァ!」


だが拳太は突き入れた拳でベルグゥの肩を掴むと全身の筋肉を総動員して彼の肩を支点としたバク転宙返りを行って無理矢理ベルグゥの拳を回避した。

拳太の顔は筋肉の過負荷による苦痛に歪められていたがベルグゥの拳に与えられるダメージに比べれば些細なものだ。


「何と!?」


「ッラァ!」


拳太は逆さになった姿勢のままベルグゥの驚愕に染まった顔にその固く握り締めた拳を叩き込む、ベルグゥは多少よろめいたものの隙を見せずに反撃に転じる、拳太はそれを敏感に察知し飛び退いて空中で一回転しながら地面へ着地した。


「……そろそろ夕食にしましょう」


「ああ、分かった」


しばらく睨み合っていた両者であるがやがて漂ってきた夕食のいい匂いを認知すると、互いに構えを解いた。
















「へぇー、ベルグゥさんでもケンタには一撃入れられないんだ。意外だなぁ」


「ええ、私も彼のような少年は始めてです。あの齢にして既に完成に近付いています」


その日の夕食を皆で囲って食べつつ、拳太達は談笑していた。話題は今日行われていた拳太とベルグゥの組手である


「私も見ていたが、少年の回避能力はかなり高い、身体能力もそうだが、どう動くのがベストなのか常に理解しているといった感じだ。」


机の上で飲み物を運んだりしながらレネニアが言った。

最初はベルグゥに休んでいるように言われていたが、今の彼女の体は人形と感覚を共有しているに過ぎないので疲れるわけが無いし、それより退屈で仕方ないので自ら手伝いを買って出たのだ。


「そう言えばボクも『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』まで使って拳太と戦ったけど、全く攻撃が当たらなかったなぁ……」


「当たり前だ。あんな攻撃一撃でも食らえば即アウトだっての」


拳太はこれまでの戦いでほとんど攻撃を食らってはいない

と言っても理由は簡単で拳太の身体は基本的には人間だ。勇者や獣人族の様に頑丈には出来ていない、そんな状態で剣や強化された拳などを食らえば例え防御しようと戦闘続行が困難になる程のダメージを受けるからだ。

だから拳太は回避や受け流しに非常に長けており、回避能力だけで言えばこの中でずば抜けて高かった。


「ケンタ様は強いですね! 私も頑張ろうって思います!」


「でもバニエットちゃんも強いと思いますよ? 森で戦った時ケンタさんやレベッカさんはあんまり攻撃できなかったって聞いたのです」


アニエスの言う通り、バニエットも条件つきではあるものの今ではそこそこの実力は着けていた。

バニエットはその速い足と高いジャンプ力を活かしての高低差のある地形での戦闘が得意で、そこでは森の地形に慣れていない拳太や木や枝に阻害されて『見えざる騎士(インビジブル・ナイト)』を活かせないレベッカでは己の特徴を上手く発揮出来ず、結果としてバニエットと実力が釣り合う形になるのである、ベルグゥは森に慣れていたため話は別であったが

それにバニエットは体力が長持ちしないと言う弱点もあり、拳太達の様に前線で戦うのには向いていなかった。


「でもやっぱりベルグゥさんは強いよね、ケンタとほぼ互角なんでしょ?」


「ホッホッホ、それはあくまで私の方が身体能力が高いが故の事、同じ条件で戦ったのならば私は敗北していたでしょう」


「ふーん、ケンタって凄いんだね……」


「……オレの実力についてはどうだって良いだろ、それより次は何処の街か村へ行くんだ?」


拳太は自分の事から話を逸らしたいのか次に行く場所を訪ねてきた。レベッカやベルグゥはその事を察してそれ以上は聞かなかった。


「次はハンブルの街へ向かう、ここから森を通った方が獣人族の国『アドルグア』に向かいやすいからな、そこから先はバニエットの故郷へと向かう、バニエット、君の故郷は何処だい?」


「ええと……すみません、地図の何処かは……」


レネニアの問にバニエットは申し訳なさそうに俯いて答える、耳も垂れ下がってしまってかなり落ち込んでいるようだ。

しかしそんな事は想定済みなのかレネニアは特に気にする事無く話を進める


「そうか、では故郷の名前は?」


「えーっと……あ、『ヘリンクリング地方』だって言うのは覚えてます」


「そうか、そこまで分かれればいい」


「……? それでバニィの故郷が分かんのか?」


幾ら地方へと範囲を縮める事が出来てもそれでも大雑把で広大な範囲であることには変わり無い、しかしレネニアは得意気な顔でニヤリと笑うと拳太に解説を始めた。


「分かるさ、まず地方一つと言っても全てが全て居住区と言うわけでも無い、獣人族は人間と違ってそれほど土地開発は行わないから自然と住む場所は限られる、そしてバニエットの様なラビィ族は浅い穴を掘ってそこに住居を作ると聞く、そうだろうバニエット?」


「は、はい、私達の村は穴の中で生活してました」


「なら後は簡単だ。山付近は土が固くて穴は掘りづらいだろうし、湿地は逆に柔らか過ぎてすぐに穴が埋まってしまう、魔脈付近は魔物も強力だから戦闘民族ではないラビィ族はそこに住みたがらないだろう、ここまでくれば探す範囲はかなり絞られるはずだ。」


レネニアの言う通り、先程の条件に合う場所を絞れば面積で見ると約20分の1以下にまで減っていた。レネニアの慧眼に拳太は思わず唸った。


「フフ、どうだ少年? 私も中々やるだろう?」


「そうだな、オレじゃあきっとそこまでは分かんなかっただろーな」


素直に称賛の声を上げる拳太に気をよくしてレネニアはベルグゥの肩に飛び乗る、その足取りは今にもスキップしそうな程軽快だった。


「それでは、本日はもう少し移動します、ここは魔力が比較的に濃いので野営には適してません」


ベルグゥの言葉に拳太達は頷いて馬車に乗り込む、全員が乗った事を確認するとベルグゥは手綱を振って馬を出発させた。















「――ケンタ様、ケンタ様」


「んぁ?」


ガタガタと揺れる馬車の中、バニエットの控えめな声に遠藤拳太は目を覚ました。

あれから時間が経ったのか空は月が綺麗な時間帯になっており星々も小さく輝いていた。

拳太はしばらくぼんやりとそんな空を眺めていたがやがて意識を覚醒させるとバニエットの様子を見て――――直ぐに顔を引き締めた。


バニエットの耳はピンと立っており一定の方向へ向けられてピクピクと動いている

――何かを聞きつけたサインだ。


「空気の鋭い音がこっちに向かってます、音が大きくならないから一定の距離を保っている様です」


「尾行されているのか? ……勇者達だろーな」


拳太は顔をしかめて体を起こす、最近会わずにラッキーとは思ってはいたが拳太にそんな幸運は続かなかったようだ。

拳太は出来るだけ自然を装ったふうでベルグゥ達へ近づく


「なぁベルグゥ……」


「尾けられていたのだろう? 少年、話は聞いている」


「どういたします? 速度を上げましょうか?」


ベルグゥの提案に拳太はしばらく顎に手を当てて考え込むが、彼の答えはすぐに出た。


「いや、居場所を特定され続けるのも面倒だ。

――ちょうどあそこに森……とまではいかなくとも木の密集地帯がある、あそこで迎撃するぜ」


拳太が指し示した場所は河原の様な場所で、小さな川に岩肌の斜面、その側には木々が生えており、恐らく山の入口であることが窺えた。


「畏まりました」


ベルグゥは手綱を再度振るわせて馬の速度を上げる

馬は嘶き一つ上げると足を速めて目的の場所へと急ぐ


「バニィ、奴らはどうだ?」


「はい、少しずつ離れて行きます。引き剥がせているようです」


「よし、今のうちに他の奴等も起こすぞ」


拳太は手早くアニエス達を起こすと、バニエットの耳の向く方向を睨み付けた。













「着いたか……バニィ、あとどの位に来そうだ?」


「ええっと……大体2~3分くらいかと」


「よし、その間に準備を整えるぜ」


河原へ着いた拳太達は大急ぎで馬車から降りた。

拳太は何処から敵が来ても対処出来るように全方位を警戒しバニエットも同じく音を拾うように耳に手を添えている

レネニアは既にベルグゥの懐へと退避しており、ベルグゥも手袋を引き締めて戦闘態勢へと移行していた。


「ちょ、ちょっと優しく起こしてよケンタ」


「うぅ~まだお目目がくらくらするのです……」


そんな中アニエスとレベッカはまだ眠気が残っているのか少々不満げに文句を垂れていた。

特にアニエスはなかなか起きなかったため拳太に軽い拳骨をお見舞いされて少しふらついている


「文句言う元気があるならさっさと武器を構えるなり何なりしとけ、敵はいつ来るか分かんねーんだぜ」


「あらあらぁ、思ったよりは慎重なヒトなのねぇ?」


「――――!?」


その声に、拳太達の空気は凍りついた。

その声は唐突に、何の前触れも気配も無く割り込んで来た。

その声の場所へと視線を向けると、そこに一人の女性が立っていた。


月光に輝くウェーブの入った拳太と違ってくすみの無い純粋な金髪に、アニエスよりも濃い翡翠色の釣り上がった挑戦的な瞳、女性らしい魅力的なスレンダーな体に純白の家紋入りの鎧が映えている

腰には豪華な装飾の入った剣を携えており、一目見ただけでかなりの家柄だという事が理解できる


「なっ――!? 何時の間に!」


「わ、私の耳でも拾えなかった!?」


「それだけでない……本体のより劣化しているとは言え私の探知魔法にも全く痕跡を残さなかった……ッ!」


バニエットの耳でも何も聞こえず、拳太とベルグゥの警戒をすり抜け、レネニアの探知魔法にさえ何も残さずにこの女性は拳太達の目の前へと立っていた。

つまり――正真正銘、この女は()()()()()()()()()()事になる


「あら、私だけじゃ無いわよぉ? ――『来なさい』」


女性がそう言った瞬間、新たに二人の女性が何の前触れも無く現れた。

だがレネニアが何かに気付いたのか表情をますます険しい物へと歪ませる


「魔力だ! 今僅かにあの女の口から魔力を感じた!」


「つまり魔法って事なのです!?」


「でも転移魔法だとしてもこんな短い時間で発動できるわけがないよ!」


驚くアニエスとレベッカに優越感の表情を張り付けながら彼女達は拳太達を見下している、下品な感じはしなかったが、拳太がこの世界に来てこれまでで一番不愉快な表情をしていた。


「教えて差し上げましょう、ここにおられます方はヒルブ王国第二王女の『セルビア・ヒルブ』様――」


「この世界の勇者、『三正勇者』の内の一つであり――」


まるで台本で打ち合わせていたかのように司祭の格好をした青混じりの白髪の女性と赤を基準色とした羽帽子を被った王子様風の女性がそれぞれにタイミングよく口を開いて

最後に真ん中のセルビアが口を歪ませて言った。


「――『言霊魔法(ワード・マジック)』の使い手にして、最強の勇者よぉ?」


傲慢な程尊大に、彼女は拳太達に立ちはだかった。


「『飛びなさい』」


セルビア達は空へと飛び上がると、拳太達に剣を抜いた。


「さぁ、退屈しのぎの始まりよぉ?」


その夜、拳太と三正勇者の死闘の火蓋が切って落とされた。

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