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part2 ヒルダ・ヒルブ

「大樹様、先日はどのような事をなされたので?」


『おう! 昨日は街の人達と薬草狩りに行ったんだ。そしたらさ――』


ここはヒルブ王国の王宮のとある一室、 私『ヒルダ・ヒルブ』の個室

私はここで毎朝勇者である大樹様と定期的に通信石でお互いに連絡を取り合っています。


と言っても内容は他愛もない会話で、私が大樹様と離ればなれとなって寂しくなるのを察してか父上から私に連絡の役目をしてほしいと申してくれたお陰で私は毎日愛しの大樹様とお話しています。


『そんでさ、その時何故か香織が怒ってきて……何か不味いこと言ったのかなあ?』


「ふふふ、大樹様はもう少し乙女心を理解した方がよろしいですよ」


『有子にも同じ事言われたなぁ……』


ただ、大樹様は少々自らのご好意に鈍感な節があるので、私を含め様々な方の想いが届くのはもう少し先になりそうです。

と楽しく談笑している内に、急に大樹様の声音が硬く真剣な物へと変わりました。


『それで、王様から言われたんだけど……数日中に、拳太がここにくるかもしれないんだ。』


大樹様のその言葉の内容に私も自然と表情が固まってしまいます、私の脳裏にあの少年の顔がよぎりました。


ケンタ・エンドー様、あの人は確かに怖い人でしたが彼は何も間違ってはいませんでした。

私達の自分勝手な都合で呼び出してしまい、その業に気付かぬまま責任を押し付けようとしてしまった方、勇者様方や父上達は彼を悪人と怒りを露にしていましたが、私は彼に申し訳なく思っても怒りはありませんでした。


ただ、彼にいい感情を抱いていないのも事実です。

なんでもご学友でもある勇者様方に言わせれば学舎の公正秩序を平然と乱し、自らに逆らう者は容赦なく痛めつけ、四六時中悪意ある行為を好んで行うまさにこの世の悪人の手本となるような人間だと聞かされています。


そのような人間が大樹様が現在居られます街に来ることを思うと何人もの人間がその悪意に晒される様で背筋が凍りつきました。


『王様は既に実力者が拳太の捕縛に向かっているけど、失敗したときの為に俺達が迎え撃つ準備もしとけって言ってた。』


「大樹様……」


私はその実力者の方があの人を捕らえるように強く祈りました。今の大樹様が負けるとは思ってはいませんが、それでも危険な目には合って欲しくはありません


『ま、心配すんなよ、もし拳太が来てもヒルダにビンタした分も含めてぶっ飛ばしてやる!』


「……そうですね、大樹様は負けません! でも、無茶はしないで下さいね?」


『おう! じゃあ、そろそろ朝の鍛練があるから』


「分かりました。それではまた」


多少の名残惜しさを残して通信石は光を鎮め、私は部屋着から着替えて部屋を出ました。

ちょうど朝日が上り始め、今日も一日が始まります。















「あっ! おはよう姫様! お買い物?」


朝食と午前の仕事を片付けてから私は日課の街の散策へと出掛けます。

まだ私は本格的に仕事を任されてはいないため早く仕事が終わります。そして開いた時間を使って勇者様方の様子を見たり民達の生活に触れて何か無いかと見て回ります。

本日は勇者様方の鍛練はお休みとなっている安息日ですので、街の散策へと向かいました。


「ええ、おはようございます勇者様、いつもわがヒルブ王国のために尽力して下さってありがとうございます。」


「いえいえ! こっちも楽しんでるから、気にしないで!」


比較的仲の良い女性の勇者様と一緒に今日は街へと向かっています。勇者様が同行すると窮屈な護衛の方も付けなくて良いので本当に助かっています。


「それにしても、最近伸びが悪いなぁ……」


「そうでしょうか? 召喚されてからの僅かな期間で中級魔法も扱えますし、十分に早い方ですよ?」


「そうは言ってもさー、ヒルダちゃんも上級魔法使えるんでしょ?」


「はい、光属性の物と治療魔法を少々……」


「だったらさ、勇者のあたし達はもっと頑張んなきゃって思うの、何よりはやく魔法をぶわ~ってぶっ放したい!」


「うふふ、そうですか」


此度の勇者様方は非常に向上心が強くてとても頼りになります。

これならきっと、我がヒルブ王国に栄光をもたらし悪しき魔族の手から世界を守ってくれるでしょう


希望に胸を踊らせながら私達は街の賑やかさへと溶け込んで行きました。















「――ふーん、あれが勇者デスね」


ヒルダ達のいる王都を見渡せる丘の木の中に一人の少女がいた。

彼女は露出の高い拘束具の様な修道服を来ており、夜の様な黒髪にあわせて暗い印象を与えていた。

そして何よりも印象的なのはそこへ嵌め込まれた宝石の様に輝く白い瞳だ。

その白い瞳が爛々と光を放ちながら勇者達を確かに見ていた。


「実力はそこそこデスけどまるで覇気が無いデスね、しかしあの野心深い王の事デス、何かしてくるのは間違い無いデスよ」


少女はそこまでふむふむと独り言を呟くと枝にもたれかかって横になっていた体をひょいと軽快に起こして一つの魔石を取り出す。


「まあ、ここまで情報を集められたし十分デスかね、あんまり深入りすると面倒デス」


少女はそこで魔石をかざして魔力を籠める、すると魔石が輝きだして少女の姿を消し去ってしまった。

後のその場所には効力を失って割れたただの石が転がっていた。

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