第二十五話 見破れ
「最後は誰が投げる?」
「私が行きます!」
ダーツ勝負最後の投手はバニエット、意気込みよく手を上げる彼女には緊張から来ているのか一筋の汗が流れていた。
「バニィ、行けるか?」
「ケンタ様……」
拳太の呼び掛けにバニエットは己の不安を紛らわしたいのかギュッと拳太の服の裾を掴んでいた。
「……そうか、けど心配すんな、どうにかなるって」
「……はい! わかりました!」
拳太の気楽そうな声に安堵したのかバニエットは明るさを取り戻して針を持ち、的へと向かっていく
「さっきはああ言ったけどさ、大丈夫なのケンタ?」
「うう……やっぱり心配になってきたのです……」
バニエットが離れた後、彼女に聞こえない様に拳太に二人がそれぞれ心情を呟くが、拳太はそれに対してニヤリと口の端を歪めて一言
「ああ、大丈夫だぜ、 絶 対にな 」
不敵に、されど確信を持って言い放った。
「……行きます」
バニエットは緊張していた。
拳太の言葉に一旦は安堵したもののやはりいざ本番となると幾らかは体が固まる、針を持つ指だって力を入れすぎて痛い程だ。
耳も小刻みに震えている
それでも、その時はやってくる
バニエットが針を投げ、勝負に勝つか、否か――
的が回転を始めた。もう後戻りは出来ない
バニエットは己の全身全霊を掛け、腕を振りかぶって
「やああああ!」
投げた。針は、真っ直ぐに飛んでいき、的に深く刺さった。
「さて、と……結果はどうなっているやら」
的の回転が収まった後、ベルグゥが的を回収し、中央のテーブルに的を置いてその周りに全員が集合している、そして今、結果を見ようとしていた。
「ああ、そのことなんだけどよぉ……ちょっといいか?」
とそこで、拳太が遮る様に手を上げる、全員の視線が拳太に集まった頃を見計らってレネニアは口を開いた。
「どうした? 少年」
「最後にさ、この紙、オレが剥がしていいか?」
瞬間、レネニア達の空気が凍りついたのを拳太は確かに感じた。
だがそれもすぐに瓦解し、平静を装ったレネニアが再び口を開く
「どうしたのだ? いきなりそんな事を言って」
「いや、ただ勝負の最後くらいは自分で確かめたいと思っただけだぜ
別に剥がす人が変わったって結果は変わらないだろう? 針の刺さった位置は変わらねーんだから、それとも……」
拳太はそこで一旦言葉を切り、印象付けを行うかのように言葉を紡ぐ、一つ一つに凄味を乗せて
「オレが剥がすと、何か不都合でも――――あんのか?」
その言葉から一秒経ったのか、それとも数十秒なのか、幾ばくかの間を開けてレネニアが答えた。
「いや、少年、最後は君が剥がすといい」
「そうかい」
レネニアの表情には全く変化は見受けられないが拳太の目には明らかに動揺していた。
でなければ言葉に間が空くわけが無いし、そもそも理由を聞いたりしない
「じゃあ剥がすぜ」
拳太は爪で紙の端を少し持ち上げて持ち手を作ると、それを掴んで一気に引き剥がした。
「この勝負――」
刺さっていたゾーンにあった色は
「――オレの、勝ちだ。」
赤色を示していた。
「では、次の第二回戦のゲームのルール説明をさせてもらう」
第一回戦を勝利で納めた拳太達は、それを喜ぶ暇もなく次のゲームへと移ろうとしていた。
「と言っても簡単だ。この六つのサイコロをそれぞれ三つずつ降って、総合の数が多い方が勝ちだ。」
相変わらずベルグゥが手際よく準備を完了させており、テーブルクロスがかけられた一つの小さな円型テーブルが用意されていた。あれの上にサイコロを投げていくのだろう
「待ちな、サイコロはこっちが用意したのを使わせて貰うぜ」
そう言うと拳太は懐から六つの石で作られた不恰好なサイコロを取り出した。
「構わないが……念のため調べさせてもらうぞ?」
「いいぜ、幾らでも」
拳太からサイコロを受け取ったレネニアはサイコロに魔法を掛ける、サイコロはしばらく淡い光に包まれていたが、やがて収まるとふぅ、と一つ息を吐いた。
「異常は無し、か……意外だな、何かあると思ったのだが」
「失礼だな」
「ああ、悪いな少年、だが疑うべきは疑うべきだろう?」
「違いねぇ」
軽口もそこそこに、レネニアはテーブルの席に着く、あとは拳太が席に着けばゲームはスタートだ。
「ねぇケンタ、ホントにやるの?」
席へ向かって行く拳太をレベッカが不安げに引き留める、拳太は怪訝な顔をしてレベッカへと振り返った。
「何を今更、もう始まってるんだぜ」
「でも、ボクのほうが……」
「テメーは尚更駄目だ。いずれ耐えられなくなる、他のやつもな
だからオレがやるしか無いんだ。」
「ケンタ……」
「まぁ見てな、惨敗はしねーよ」
拳太はそこまで言うと再び席へと向かって行く
「ケンタ様! 私、待ってますから」
拳太は振り返らずに、片手を軽く振った。
「準備はいいか? 少年」
「おう、いつでも来い」
席に着いて、お互いの視線をぶつけ合って威嚇する、そこは力こそ振るわなかったが、確かな一つの戦場となっていた。
「それでは、お二方はサイコロを投げてください」
ベルグゥの言葉と共に、互いに色分けした赤と黒のサイコロが飛んでいく
二回目の賭けが、始まった――――――。