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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第四章 森の館と命の博打
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第二十三話 館の秘密

「ようこそ、歓迎するよ客人たち、私はレネニア・ベア・トリーチェ……まあ、ここでしがない『魔女』をさせてもらっている」


部屋に入って開口一番にそんな事を言われる、入った部屋は中央の蝋燭だけが頼りの明かりとなっており、その側の椅子に一人の少女が座っている


黒い髪をそれぞれサイドにロール状に纏めており、陶磁器のように白い肌、それに対照的な黒のゴスロリ服、そしてレベッカと同じ赤い瞳をしていた。


「魔族……なのか?」


思わず呟いた拳太にレネニアはくすくすと笑う、馬鹿にした笑いではなく、拳太は不思議と不快感を感じなかった。


「少し違うな、私はれっきとした人間だ。と言っても普通ではないがな」


要領を得ない言葉ではあったがとりあえず彼女の生まれは人間であるらしい


「さてと……君達はこの森に迷って食糧難にあってここに来たのだろう? 理由は魔石の原石採集かな?」


「な、なぜ貴女がそれを?」


「ふふ、ここは私の庭の様なものだ。この森の中で起こった事は全て把握しているよ」


驚いて問いかけるレベッカにもレネニアは平然と返す。

しかしそれにしても森の全てを把握できるとは言え拳太達の事をこれほどこと細やかに把握しているのだろうか? と拳太は一つ疑問を感じる

遭難や原石採集なんて別に拳太達しかするわけでもないし、大量に取った訳でもない、というよりバッグの要領の都合で不可能だった。そのためレベッカが新しい原石を見つける度に持っていく原石をかなり厳選していた。


「とは言っても私が君達の事をよく知っているのは……少年、君に興味があるからだ。」


そう思っているとレネニアはその白魚のように細い指を拳太に向ける、拳太は拳太で心当たりがあるのか一言呟いた。


「……スキルの事か?」


「ご名答」


拳太の言葉にレネニアは満足げに微笑む、拳太が興味を持たれる心当たりはそれぐらいしかない、異世界人であることは感知出来ないと思っているためである。


「森の全てを把握しているとは言ったが……君の辺りはわからない、生物であることも今知ったくらいだ。それに、君達は知らなかっただろうがこの館には結界魔法を施してあって、普通は見えないはずだ。だが君達はこともあろうか結界魔法を一瞬で破壊して () ()こちらに来た……君は何者だ? 」


その時のレネニアの目に鋭い光が浮かぶ、下手に誤魔化したりすると拳太達に何があるか分からない、それにバニエットが言っていたから知り得た事だが、対多数はここでは都合が悪い


「いいぜ、別に隠す程でもねーしな、オレはーーーー」


こうして拳太は、己の素性を話し始めた。











「ふむう……異世界人か、成る程、見るのは初めてだが、存外私たちと変わらないみたいだな」


レネニアはそう言うとぶつぶつ呟き始め、自分の世界に浸り始めた。それを見計らってベルグゥがお茶を持ってくる


「お茶でございます。ああなったレネニア様はしばらくそのままなので、私が代わりに質問があればお答えしましょう」


拳太はベルグゥが持ってきたお茶にこっそり少し指で触れて、その先につけた毒に反応する薬を入れてみたが、どうやら魔法をかけられていなければ何も入っていないようだ。


「ホッホッホ、心配なさらずとも客人に毒を盛る真似は致しませんよ」


「……! へぇ、中々やるな」


「レネニア様に仕えると、色々な事ができるものですから」


ガタイに似合わず柔和な笑みを浮かべるベルグゥには悪意は感じない、拳太はお茶をぐいと仰いだ。

洋式な見た目と違って濃い緑茶のような味がした。


「あ、オレ好みの味だ。」


「ホッホッホ、それならばよかったです。」


バニエット達はあまり馴染みがないのか、少し渋い顔をしていた。いや、バニエットは平気そうに飲んでいた。


「……よし少年、一つ提案があるのだが」


「……何だ?」


バニエット達もちょうどお茶を飲み終えた頃、現実に戻ってきたレネニアは拳太に向き直る、拳太もレネニアの瞳を真っ直ぐと見返していた。


「少年、私の物にならないか?」


「断る」


レネニアの唐突な言葉に拳太もまた間髪入れずに即答する、寧ろ最後まで言い切る前に言ったかもしれない

バニエット達は拳太の答えにほっとした顔をする


「なに、勿論ただとは言わない、ある程度の贅沢はさせてやるし、不老不死だって与えてやれる、どうだ?」


「イヤだね」


「やはり信じられないか? ならば今試しに少年に不老不死をーー」


「どれもオレには必要ない」


拳太の返事が以外なのかレネニアはきょとんとした顔を浮かべるがくすくすと笑うと再び微笑みを顔に張り付ける


「意外だな、大抵の者はこれで乗ってくれるというのに」


「不老不死だなんて、普通の人間には苦しいだけだろ?」


「違いない」


「それに、バニィとの約束がある」


「わ、私ですか!?」


拳太はそう言うとバニエットの肩に手を置く、バニエットは突然自分に振られてキョドキョドとしている


「オレはバニィの故郷に行く、レベッカも国まで送る、約束は守らなくっちゃあな」


「約束か……確かに、それは守らなくてはな」


レネニアはふぅと一息つくと、より深く椅子にもたれ掛かる


「しかし困った、少年、私はどうしても君が欲しい」


「ならどうする? ここでやり合うのか?」


グローブを引き締めて拳太は言い放つ、二人の間でだんだんピリピリした空気が生まれ始める


「ふっ、力ずくでやるのも悪くないが、それで館が壊れたらたまらん、そこで少年、一つ提案がある」


レネニアは指をパチンと鳴らすと奥から六人の人影が出てくる、出てきたものは冒険者といった風の男女であるが、顔に線が入っていたり、指の関節が球体だったり、肌が黄緑であることから精密に作られた人形であることが窺えた。


「かつてここにいた者達の遺体を模して作ったものだ。」


人形達はそれぞれ持ってきていた紙を開き、拳太達に見せる、そこには賭け事のルールを示したものが書いてあった。


「私は賭け事が好きでな、これで勝負して欲しい、無論君達にも利益はある、私に勝てたら私の全てをお前にやろう、但し私が勝ったらその逆も然りだ。」


まさか賭け事で勝負とは思っていなかった拳太達は面食らった表情を表す。レネニアは相も変わらずくすくすと笑みを浮かべるだけだ。


「いいぜ……乗った。」


拳太はニヤリとレネニアに笑い返す。


「では早速始めるか?」


「いや、今日は疲れた……明日で良いか?」


拳太の言葉にレネニアは意味深な笑みを深め、しばらく互いに沈黙を保っていたがレネニアがやがて口を開く


「そうだな、今日はもう遅い、明日にしよう……ベルグゥ、部屋に案内してやれ」


「かしこまりました。それでは皆様此方へ」


ベルグゥに案内されて、拳太達はレネニアの部屋を後にした。











「なんだか、大変な事になっちゃったね」


部屋についてレベッカは早速そう口にした。窓から見える景色はもうすっかり夜と化している


「ケンタ様……大丈夫ですよね?」


「ああ、心配すんな」


不安そうに尋ねるバニエットに対して拳太は平気そうに言いのける、その様子を見ていたレベッカが顔を渋らせる


「ケンタさん、今後は迂闊に異世界人であることは言わない方がいいと思うのです。」


「そうだな、スキルの事だけだったらまだこんなことは起こらなかっただろーしな」


「そんなことより、今はこの勝負をどうするかでしょ」


さっきから能天気に返している拳太の態度に我慢ならなくなったのかレベッカがやや強い語調で割り込んでくる、その目には拳太の軽率さを非難する色が見てとれた。


「どうするの? 相手があそこまで自信満々ってことはあの賭け事、絶対何かあるよ」


「ああ、その事か、心配すんなって言ったろ?」


拳太の顔には確かな勝利を確信するものであり、レベッカはその時拳太が何も考えてなかった訳ではないことを感じ取った。


「そんぐらいオレも考えてんだよ、だったらこっちもそれなりの事をやらせてもらうぜ」


拳太は隅に置いてあった机を引っ張ると拳太達の輪の真ん中に置き


「手伝ってもらうぜテメーら……作戦準備だ。」


悪巧みを抱く小僧のような笑いを張り付けていた。

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