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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第四章 森の館と命の博打
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第二十二話 迷いの森の館

前章のあらすじ


旅を続ける拳太達の前に血を流して倒れている一人の少女が発見される

助け出した彼女は『魔族』であり、領地継承の試練に挑むが力不足が故に失敗したのだと言う


助け出した以上、最後まで力を貸すつもりでいた拳太はかつての敵からヒントを得てレベッカを鍛えたり、拳太達自身も修行をして試練の洞窟へ挑む


そこの親玉の大蝙蝠に苦戦するが、大蝙蝠の特長を逆手に取った拳太の策により勝利する

試練を乗り越えた後、レベッカに今後尋ねる拳太だったが、どうやら帰るための『転移石』が割れてしまったらしい

そんな事情もあり、レベッカを新たに仲間に迎え拳太達は再び冒険を再開した。

「……はぁ~」


鬱蒼とした森の中、頭にキノコでも生えそうな程憂鬱な顔でため息をはく少年がいる、遠藤拳太だ。

彼は今、軽くなり始めている荷物を前に胡座をかきうんうんと唸り、ガシガシと頭をかきむしる、その姿はまさしく思春期に悩める少年……なんて甘酸っぱい物ではないが、珍しい光景であるのは確かだ。


「あー……ッ! どうすんだよこれ……」


「ケンタさん? どうしたのですか? 」


と、そこへ拳太の視界に翡翠色の綺麗な瞳、金髪のショートカットの美少女の心配そうな顔が映り込む、どうやらアニエスが膝を折って拳太に視線を合わせているようだ。

しかし元々の身長が彼より小さいためか、膝を折ると自然と拳太を見上げる形になる


「ああ、アニエスか……ちょっと見てみろ」


拳太はアニエスに一つのバッグを見せる、それはアニエスにとって見慣れた大きな冒険者鞄だ。アニエスが拳太達の仲間になった際に一番大きな鞄だったため共有して使うものを詰め込み、基本的に拳太が運んでいる物だ。一時期バニエットが持ちたがったものの、彼女には大き過ぎてまず地面に足が着かずに断念した。

そしてそのバッグの中身は見た目に反してすかすかであった。水筒やテント、レインコート(と言っても当然、現代で使われるようなビニール加工はしてないので効果は薄い)、体の洗浄用具で場所はとっているものの、残り体積にはまだまだ余裕がある、何故ならば本来そこにあるはずの物が減り続けているからだ。


「食糧……殆ど無いですね」


「節約してあと三日だろうな」


そう、村を出た時点ではかなり詰めてあった食糧が今ではもう殆ど残ってない、森の動物を狩って補ってはいるものの安定して取れない分過信はできないだろう


「やっぱレベッカが原因だよな……」


「あ、あまり責めないので欲しいのです、彼女も悪気があった訳じゃないのです……」


フォローを入れるアニエスの声も最後にはすぼんでしまう

最近、バニエットの大食いが収まり始め食費が浮くと思った先にレベッカが加わった事により、元々三人分の食糧を四人で分け合う事になってしまったのである

それで十分な満腹感が満たされない 反動(リバウンド)か、また食欲が元に戻ってしまったのである、流石の拳太もこれには落ち込んだ。


しかし、拳太が原因と言った理由は別にある


「つってもこれからどーすんだよ、遭難して二日も歩き回って経つのに出口はおろか獣道も見えねーんだぜ……」


ーーそう、それは二日前の出来事である














「ケンタ、あの森、魔石の原石があるんだけど、採ってもいいかな?」


二日前、つまり拳太達の旅にレベッカが加わって間もない頃、街道に沿って旅を続けている最中に森を発見し、そのそばを通過中の出来事であった。


「魔石の原石? なんだそりゃ」


「あ、ケンタは異世界人だから知らないんだったね」


「ああ、で、どんな物なんだ?」


拳太のその言葉を待っていたかのようにレベッカは人差し指を立てると矢継ぎ早に説明を始める


「魔石の原石っていうのは文字通り様々な魔石の元となる原石の事なんだけれど一言で原石と言っても色々種類があってね、まずは持っているだけでその人物に効果を与え続ける『 添加型(パッシブタイプ)』って青い宝石のような見た目をしているんだけれど添加型から作られる魔石は基本的には壊れない限り半永久的に効果は継続されるからよく冒険者が使う石のアクセサリーはほぼこの原石から作られているって考えた方がいいだろうね、だけど何の影響も受けないかと言われればそうでもないんだ。ある特殊な魔石によって魔力を失って原石に戻ったり魔脈から魔力を受け取って効果を増加させたり物によってはまったく違った効果を持つものへと進化を促したりね、次に魔力を籠めて魔法を発動させる 『 起動型(アクティブタイプ) 』、ボクが使っていた『転移石』もこの『 起動型(アクティブタイプ)』に当てはまるんだ。これは加工前は赤い見た目なんだけど植え込む魔法によって色が変わったりするから色はあまり参考にならないかな、と言っても 『 添加型(パッシブタイプ)』 も人間が作った物の殆どはどういう訳か色がバラバラになっているんだけど、これは何処かの図書館の本に詳しく載っているかもね、まあ話を戻すんだけど起動型は何回か使うと原石が摩耗して使えなくなっちゃうんだ。でも魔力を十分に含んだ土の中に埋めるとまた使えるようにはなるよ、時間は掛かるけどね、あと魔法の威力は籠める魔力によって変わるんだけど籠める魔力が強すぎると爆発してしまうよ、魔力の許容量は原石の『 強度(レベル)』に比例して高くなっていくんだけど強い強度の原石はその分発動に多くの魔力がいるから単に強度が強ければいいって物じゃないんだ。最後に『 特殊型(スペシャルタイプ)』って言うんだけどこれについては殆ど分かってない、浮石もこれの一種なんだ。一般的には自然現象に反応する原石って説明されているけど全部が全部そうじゃないから今でも研究が進められてる原石なんだ。…………って取り敢えず手短に済ませたんだけど分かったかなケンタ?」


「いや、レベッカもう少しゆっくり喋れ……殆ど聞けなかったぜ」


怒濤の勢いで舌を回すレベッカだったが、余りにも速すぎるため途中で何を言っているのか全くわからなくなってしまった。いかんせん今までレベッカにこういう熱狂的な場面は初めて見たため拳太は内心レベッカに若干引いていた。


「あ、ごめんね? 好きな事だからつい熱くなっちゃって……じゃあもう一回ーー」


「いや、やっぱ言うな! 本格的に長くなりそうだぜ……」


「そっか……」


「そ、それで! その原石は何処にあるんですか? あの森にめぼしい石は見当たりませんけれど……」


残念そうにシュンと項垂れるレベッカを気の毒に思ったのかバニエットが慌てて話題の方向転回を計る、そしてそれは功を成したらしく、レベッカは森の手前まで歩いた後一つの小石を拾う


「これ、一見ただの石だけど魔力を籠めると……」


レベッカの摘まんでいる小石から青色の淡い光が漏れ出る、色が緑色ならばきっと蛍を連想しただろう


「こんな感じに光るのが目印かな」


「いや待て、さっきは光なんて発して無かったぜ、どうやって見分けたんだ?」


「え? 光ってたよ? 空気中の魔力に反応して」


「はァ……ッ!?」


拳太含め、一同は最早驚愕の一言しかない、一体何がレベッカをここまで駆り立てるのか


「さァー! どんどん行くよーッ!」


その答えが、今猛烈に知りたいような、そうでないような、複雑な気分だった。














そしてその後、レベッカは目の前に人参をぶら下げられた馬のごとく森の中の原石を探し回りその勢いに流されて森をさ迷う内にもと来た道を見失って今に至る


勢いに流されてしまった拳太達にも責任が無いわけでも無いがやはり主な原因はレベッカだ。


「ケンター! 重いよーッ!」


「テメーが採ったんだろーがッ! テメーが持ちやがれェーッ!」


そのため拳太がレベッカにやや厳しく当たったのもある程度は仕方ないだろう


「あ、あの! 少しなら私も持ちますよ!」


「私も旅は長かったから重いものは慣れてるのです!」


しかしどういう訳かバニエットとアニエスの二人は怒るどころかレベッカを慰め、あまつさえ自業自得の産物を少しでも共に背負う姿勢を見せている、一体どれだけお人好しなんだと拳太は心のなかでため息をついた。

とは言え幼い女子二人が手伝う中なにもしないというのはいささかバツが悪いため小さなバッグ一つ分は負担することにした、とは言え中に詰め込んでいるのは石なのでかなり重い


「はぁ~……これがせめてメシだったらよォー……」


「け、ケンタ! あれ!」


神が拳太のその姿を哀れに思ったのか、レベッカが指差した方向には一つの大きな館が鎮座していた。見た目は少し古びた……有り体に言ってしまえばボロっちいがそれでも手入れがされた跡があり、人が生活している事は確かだった。


「もしかしたら、出口まで教えてくれるかもしれませんね!」


「そうだな、ついでに少しメシを分けてくれりゃあラッキーなんだが……まあ、そこは期待しねー方がいいだろうな」


そんな言葉を交わしながら館に近づく一同を待ち構えていたかの如く、扉の前に到達したと同時、ノックもしていないのに扉が独りでに開く、扉のその厚さからは意外と音を立てず、それがかえって薄気味悪さを感じた。












「……静か過ぎる、誰もいねーのか?」


中に入っても扉を開けた人物はおろか、住人の一人も見当たらない、だがあの厚さの扉が勝手に開く事は想像できないのできっと扉には仕掛けがあって誰かが何処かで動かしていると考えた拳太は周囲に微かな物音が無いかバニエットと共に耳を立てる


「……バニィ、何か聴こえたか?」


「……すみません、何も」


つまりここの周辺にはいないと思った拳太は一つ疑問を浮かべる、館は見たところ側面にのみ窓が設置しており、玄関前を確認できるのはこの辺りしか無い、ではどうやって拳太達の接近に気づいたのだろうか?


「気を付けろ、この館、何が起こるか分かんねーぜ」


この館には何かあると踏んだ拳太はグローブをつけ直すと辺りを警戒しだすが、その直後に階段上のテラスにある黒い蝋燭が独りでに灯り始めた。


「皆様、ようこそこの館においでくださいました。」


落ち着いた男の老人の声がテラスの奥から響く、その響きからは友好的な意思を感じるがそれでも拳太達の表情は険しい


「お初に御目にかかります。私、この館の主『レネニア・ベア・トリーチェ』様に仕えさせております、執事のベルグゥと申します。」


テラスへと館の闇から姿を表した老人を見た拳太はその姿に驚愕する


まずとんでもなく身長が高い、少なく見積もっても2m付近はあるだろう、おまけに体は鍛え抜かれており、足なんてもう丸太のようだ。これで顔に傷でもあったら執事と言うより戦士と言われた方がしっくり来るだろう

しかしそれに反して顔面は温厚そうな物であり、綺麗に整えられたクリーム色の髭から穏やかで真面目そうな印象を受ける


だが拳太が驚愕したのはそこ () () () ()


その老人の肌は紫だった。顔色が悪いなどではなく、文字通りブルーベリーのような紫をしていたのだ。その姿は魔族にも異質に映るのかレベッカも目を見開いて硬直している

アニエスに至っては今にも卒倒しそうだ、シスターである分余計に恐ろしく見えるのだろう


「申し訳ございません、この肌はなるべく見せないようにはしているのですが顔はどうしても出てしまうので……」


本当にそう思っているかのように頭を丁寧に下げる彼に拳太は幾分か警戒を解いて、右手を握る程度に留める事にした。


「いや……初対面の相手にそんな反応したオレ達も悪かった。」


「そう言って頂けると幸いです。……それではこちらに、レネニア様がお待ちです。」


拳太達を案内する執事についていく間に拳太は館の中を見渡してみた。


全体的に黒い家具が大半を占めていて、まだ真昼だというのに辺りは暗く、廊下にある蝋燭だけが光源となっていた。

ベルグゥ意外に人はおらず、この館は二人程しか住んでいないのかと思っているとバニエットが拳太の服の裾を引っ張った。

拳太はベルグゥに聞かれないように声を落として話す。


「どうした?」


「この館、あの人以外にも人が潜んでいるみたいです。時折足音が聞こえました。」


「そうか……何人位だ?」


「最低でも五人はいると思います……ケンタ様、本当に付いていって大丈夫なんですか?」


バニエットの心配そうな声に拳太はしばらく考える素振りをしたあと再び声を落として話す。


「とりあえずいつでも戦闘できるようにするよう伝えてくれ、今すぐ襲ってくる事はねーだろうが、罠の可能性はあるからな」


「分かりました。」


バニエットは拳太の側を離れる、拳太の伝言を伝えに行ったのだろう

そうして立ち位置にも気を付けながら付いていくと、やがて館の中でも一際大きな扉の前に着く、灯籠の装飾も麗美なものとなっておりここに館の主がいることが窺える


「それでは、ここから先は貴方様がお進み下さい」


促されるまま、拳太は扉を開いた。

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