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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第三章 蝙蝠少女と魔族の試練
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第二十話 対モンスター戦法

「ケンタさん!」


アニエスが速やかにバッグから一つの『風船』を取りだし、拳太の後頭部目掛けて投げる

この風船には消毒液が入っており、比較的早く応急措置を済ませるための拳太発案の道具だ。

風船は拳太の頭にその中身をぶちまけ、拳太の頭が濡れたところで素早くアニエスは治療魔法をかける


「う、ぐ……」


「大丈夫ですかケンタ様!」


「ああ、アニエスのお陰で命拾いしたぜ」


どうやら治療は間に合ったらしく、拳太はまだ少しふらついてはいるものの意識もしっかりと保っている


「それよりいつの間に……声は確かに『前』から聞こえたハズだぜ」


「アイツは、音もなく近寄るのが得意みたいだね……ボクの時は完全に不意を突かれたから何が起こったかわからなかったけど……」


レベッカの場合は一人だったから普通に不意を突いたのだろう

しかし今回は複数人であり不意打ちを防がれる可能性を考慮してあえて声を発し、拳太達の意識を前方へと向けさせた。どうやら大蝙蝠は相当知恵が回る魔物らしい


「バニィ……やつの音は拾えたか?」


「微かにしか……」


バニエットにも殆ど聞こえないと言うことはあの大蝙蝠はほぼ無音で移動するという事だ。予想以上な大蝙蝠の実力に拳太は思わず歯噛みした。


「……! 来ます!」


バニエットがその言葉を言い終わると同時、翼についた鉤爪がアニエスを狙って迫って来る


「『 見えざる騎士(インビシブル・ナイト)』! 」

「うおおぉぉ!」


だがそれをみすみすと許す拳太達ではない、レベッカのレイピアが鉤爪を切り落とさんと翼を切りつけ、拳太は軌道を逸らさんと鉤爪に拳を叩き込む


「ぐゥ……我が一撃を逸らすとはァ……なかなかやりおるゥ……だが、これならどうかなァ…!」


その瞬間、風を切る音と共に拳太へ大蝙蝠の巨体が迫る、全長は7メートル、横は翼を広げれば12メートルにもなるだろうか、そんな巨体が野球選手の投げたボールの如く突っ込んで来るため拳太は避けきれず、その突進を食らう事になる


「かふッ!」


「ケンタ様!」


バニエットの叫びが拳太の耳に入るがそれに気を回す余裕は拳太には無い、肺の中の空気が押し出され、思考が一瞬フラッシュして真っ白になる


「がッ!」


次に思考が再開したのは宙に浮いた体が地面に落ちた時だった。

急いで起き上がろうとしたが、脇腹に痛みが走る、恐らく骨は折れてはないだろうが、多少のヒビは入っただろう


「チッ……! だいぶ飛ばされちまったようだな」


辺りには静かな暗闇が広がっており、辛うじて自分の姿が確認できるくらいの明るさしかない、拳太があたりを警戒していると右側から呻き声が聞こえる、この声はレベッカだ。


「レベッカ! 無事か?」


「ケンタ……? うん、何とか……」


その声にも無理をしている様子は無い、どうやら本当に平気なようだ。流石は魔族と言うべきか、中々に頑丈である


「固まるぜ、互いにバラバラなのは不味い」


「わかった。」


少しだけ目が慣れ始め、感覚的には1.5メートルまでなら確認できるようになる、右側からレベッカがこちらに向かって来ており、どうやらレイピアは手放してはいないようだが荷物の大半は突進を食らった拍子に落としてしまったようだ。


「近くにバニィ達はいねーようだな、とにかく移動するぜ、出来るだけ静かにな」


「うん」


抜き足差し足で服の布擦れ一つ立てないように慎重に進む、時間はかかるだろうがこれで不意打ちは食らわないだろう


「甘いィ……貴様らの位置などお見通しだァ……!」


「がァ!?」


だが拳太の背後から再び鉤爪の攻撃を食らい、拳太は吹き飛ばされて地面を転がる


「ケンタ!」


「クソッ! 音は立てなかったしどうなってんだ!」


吐き捨てるように喚く拳太に大蝙蝠が声を返す。


「冥土の土産だァ……教えてやるゥ……俺はお前達の位置を音だけで感知しているわけでは無いィ……貴様らの体温でも感知しているゥ……もっとも、暗い洞窟にいるうちに目は退化したがなァ……」


つまり、拳太達はどうしても大蝙蝠に位置を教える事になる、体温を洞窟の気温と同じにする事などまず不可能であり、よしんば出来たとしてもそれは一秒だって続かないだろう


「だがまァ……最後に遺言を残す時間はくれてやるゥ……五分後、貴様らにトドメを刺してやるゥ……」


大蝙蝠は自らが勝利者となることを確信したのか高笑いを上げて洞窟の奥へと身を潜めていく


「ど、どうするのケンタ? このままじゃボクたち……」


「逃げるにしても、追い付かれて殺されるのが関の山だろうな」


「そ、そんな……」


完全に意気消沈したレベッカに拳太は「まあ待ちな」と手のひらを向ける


「作戦があるぜ」


「作戦……?」












「フン、最後までくだらんなァ……そのような幼稚な策が通じるかァ……」


大蝙蝠は洞窟の奥で拳太達の会話に聞き耳を立てていた。

どうやら大蝙蝠を倒す作戦会議をしている様だが、大蝙蝠にはそれが一笑に伏す物にしか聞こえなかった。

諦め悪くしているのもそうだが、作戦内容も『水魔法で体温を下げて逆に不意を突く』という物であり、例え聞き耳を立てておらずともすぐに看破出来るような策とも言えない物だったのだ。

目が退化した分大蝙蝠の温度識別能力は並の物では無い、水で濡らした程度で欺けるなら大蝙蝠はとっくの昔に討伐されていた。


「今回はつまらなかったなァ……」


時間が迫り、大蝙蝠は再び拳太達の元へと向かった。











「来るぜレベッカ!」


「うん、手はず通りにね!」


大蝙蝠がわざと音を立てて迫り、拳太達は各々の力を溜める、松明も立てて少しでも誤魔化すつもりなのだろうが大蝙蝠には筒抜けであった。

そして大蝙蝠が拳太たちに視認できるかどうかというところで飛び込んでくる

だが大蝙蝠はその体温を下げた二人をはっきりと認識していた


「これで終わりだァ! 侵入者どもォ!」


大蝙蝠は自らの鉤爪を降り下ろし、その二つの影を叩き潰した。

だが、伝わる感覚は肉を切り裂くと言うよりかは、パシンと何かを払う軽い物だった。


「なッ!? こ、これはァ……!」


「オオオラァァァアア!」


大蝙蝠が戸惑った一瞬の隙を逃さず、拳太はその頭に渾身のストレートを叩き込む、雷を纏ったそれは、大蝙蝠を墜落させるのには十分であった。


「今だァ! レベッカァーー!」


「『 見えざる騎士(インビシブル・ナイト)』ォォォ! 」


墜落した大蝙蝠の頭にレベッカのレイピアが深く深く突き刺さる、大蝙蝠はしばらく翼をばたばたと動かして地面をのたうちまわっていたが、やがてピクリとも動かなくなった。


拳太達の作戦、それは『囮を攻撃させて不意を突く』事だった。

作戦会議をわざと声を潜めずに話す事で、相手を油断させておいて拳太はポケットに入れていたメモ帳にこう書いてレベッカに見せた。


ーーーー『濡らした上着を投げる』と


これだけでレベッカには伝わったらしく、あとは本体の自分達を誤魔化すために松明を立ててその元に潜んでいた。

作戦会議をしたのはメモ帳に書き込む音を消すため、松明は自分の体温をまぎらわすための布石だったのだ。


大蝙蝠はそれに気付かずまんまと嵌められ、拳太に出し抜かれたのである


「やった! やったよケンタ! ボクらはついにやったんだ!」


「…………」


大蝙蝠の素材を回収したレベッカは喜びにうち震え、しきりにはしゃぎまわるが、拳太は浮かない顔をして洞窟の奥を見ていた。


「……ケンタ?」


不審に思ったレベッカは拳太の視線の先を追い洞窟の奥を見た。


ーーそこには、大蝙蝠の子供であろう雛鳥と卵があった。


「……どうしたの?」


しかしそれに対してレベッカは何も感じない、この世界の住民だから当たり前の事であるが、拳太はそれでも口を開いた。


「アイツらはこれから先、親がいねー不安と寂しさを覚えて生きていくんだろうな」


「……!」


拳太の言いたいことを理解したレベッカは信じられないといった驚愕の表情で拳太を見る、当たり前だろう、この世界、特に魔族は自分が生き残るので精一杯だし、人間は魔物を忌み嫌って慈悲深い聖職者だってそんなことは考えない筈だ。そこがやはり異世界人である所以だろうかとレベッカは思う


「別に、大蝙蝠を殺すのが間違っていた訳じゃねー、レベッカの未来のためにもこれは仕方のねー事だし遅かれ早かれ別の人間がこいつを倒すだろうからよぉ」


「けれど」と拳太は続ける、その顔は何処か寂しい表情をしていた


「忘れるなレベッカ、敵にも守りたいものはあったんだ。」


「ケンタ……」


この少年はどこまで甘いのだろうとレベッカは考える

殺した相手にいちいちそんなことを考えても正直無駄にしか思えない、殺した相手は戻って来ないし、結局はそいつが弱かったからいけなかったのだと思う


だが、それが彼の優しさの秘密であるならば、レベッカはあまり否定する気にはなれなかった。


「ケンタ様ー! 何処ですかー!? ケンタ様ー!」


「返事をしてほしいのですよー!」


とそこでバニエット達の声が聞こえてくる、自分達をさがしてここまでたどり着いたのだろう


「あ、バニエット達だ。行こう! ケンタ!」


「ああ」


バニエット達へ駆け寄るレベッカ、拳太は最後に雛鳥達を一瞥するとバニエットの元へと歩き出した。


「レベッカと違って、オレの戦いには一体どれ程の正当性があったんだろうな……なぁ…………『 小春(こはる) 』」


ーーその呟きは、誰にも聞かれずに洞窟の中へと溶けていった。

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