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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第三章 蝙蝠少女と魔族の試練
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第十八話 魔族の試練

「ふーんなるほど、つまりはこの近くの洞窟の大蝙蝠を倒す必要があるんだな?」


一通りレベッカの話を聞き終えた拳太は、固有名詞だらけの説明を出来るだけ分かりやすくするために頭のなかで噛み砕いて整理していく


「はい、私は領主の後継ぎとして相応しいと証明するためここに来ました。」


要点を纏めるとこうである


まず、魔族の領地と言うのは人間と違って生まれさえ良ければOKと言うわけにはいかず、その領地を統治するに相応しいと判断されなければならないようだ。さもなくば色んな魔族が利権を巡って内乱になってしまうと言う

そこで領主に足る人物か試すために『力』『知識』『政治』の三つの分野で試練が行われ、どれか一つでも不合格になれば資格なしの烙印を押され、次期領主になるのは至難の技らしい


幸いヴィルツフ領は魔界の中でも小さな部類に入るので試練も知識、政治は難なくクリアできたらしい、しかしーーーー


「『戦えない』のか」


「はい……」


レベッカには魔族の力の根元とも言うべき魔力の絶対量が他に比べて圧倒的に少ないため、精々拳太が戦った時点での大樹パーティをどうにか撃退する位だそうだ。


しかし、だからと言って試練のレベルが下がる訳もなく、レベッカは無謀とわかってはいたのだが、挑まざるを得なかった。結果返り討ちに合い、道端に捨てられていたのだと言う


「何つーかまぁ……災難だったな」


「いえ、全て私の責任ですから……」


そうは言いつつも、レベッカは暗い表情をしていた。当たり前だろう、何せ彼女には目的を達成出来ねば後は無く、そして目的の達成も不可能となって頼れる宛も無い状態だ。このままではレベッカの未来に幸せは待っていないだろう


「ケンタ様……何とかしてあげれませんか……?」


その事は元々奴隷の身分であったバニエットからすればとても他人事とは思えない、彼女は完全にレベッカに入れ込んでいるようだ。

そして拳太も少なからずレベッカに同情を寄せていた。なによりせっかく助けたのにどのみち彼女が救われなければ意味が無い

拳太はしばらく葛藤するかのように視線を漂わせ頭をボリボリと掻いた後に口を開いた。


「……乗り掛かった船だ。オレも協力させてもらうぜ」


「えっ?」


拳太の申し出が予想外だったのかレベッカは目を見開いて拳太を見ている、しかししばらくするとまた暗い表情に戻る


「お言葉はありがたいのですが……この試練は私の力でやらなければならないので……」


「安心しな、オレ達はテメーの『人望』って力によって協力するわけだ、ルール違反にはならねーよ」


拳太の言葉は完全に屁理屈であるが、試練には『自らの力で達成すること』と言われているだけで細かい制約が書かれている訳ではない、したがって拳太の言い分は通らない訳でもない、レベッカはそこに希望を見いだしたがどうしても不可解なことがあった。


「……どうして」


「あ?」


「どうして貴方はただ倒れていた私をここまで助けてくれるのですか……?」


そう、彼等にはレベッカを助けなければならない義務も無ければレベッカを助けても今大した利益はない、それなのになぜここまで尽くすのかが理解出来なかった。


「別に、『助かってもらわねーと後味が悪い』、理由なんてそれだけだぜ」


そう、理由なんて拳太にとってはそういうもの、ただ自分が何をしたいのか、何をしたくないのか、その欲求に従って生きているつもりだ。

しかしそんな拳太の思考が伝わる訳もなくレベッカは訝しげな顔をするだけだ。

拳太は一つため息をつくとレベッカの目を見て口を開く


「信じらんねーってならそれもいい、けどこの一件はテメーが何言っても手伝わせてもらうぜ」


「ケンタ様はああ言ってますけど本当はもっと優しいんですよ! でないと私はここにいませんから!」


バニエットがどこか誇らしげに拳太の腕に抱きつく、その和やかな光景を見てレベッカは拳太への不信感などすっかり忘れてくすりと笑った。


「あ、やっと笑ったのです!」


「へ? 私、そんなに無愛想でしたか?」


アニエスの思わぬ指摘にレベッカは自分の顔をペタペタ触る、それで気づいたがどうやら自らの表情筋はかなり固まっていたようだ。


「なんならついでに敬語もやめたらどうだ? 慣れねーんだろう?」


「!? なぜそれを?」


「口調も堅けりゃ顔もそんな変化の無いままだったらそりゃ誰だって気づくぜ」


「そ、そんなに下手でしたか……?」


「ああ」


にべもない拳太の返答にレベッカはがくりと肩を落とした。どうやら自分ではそれなりに上手くしているつもりらしい


「……まあ、これからしばらくは仲間なんだからよォ、あんま気にすんな」


その様子に流石に拳太も言い過ぎたと思ったのか自分なりのフォローを入れる、それが効いたのかレベッカはとりあえず立ち直ったそうだ


「うん、わかった…… () () のこと、よろしくね! ケンタ!」


「!?」


『ボクっ娘』という物を知らない拳太にとって、レベッカの一人称はかなりの衝撃が走った。少なくとも、本当は男なのでは? と拳太を惑わせる程度には










「そんじゃあまず、お前の力を見せてくれ」


テーブルを片付け、程よく休憩した拳太は林の前に立っていた。この林を敵の集団と仮定してみるようだ。

レベッカは軽く頷くと腰からレイピアを引き抜き、自分の顔の前に構えて目を瞑って集中する、すると彼女の体から白い光が滲み出るかのように溢れて来た。


「たしか、魔力が高密度の場所は魔力自体が光源になって可視化するんだったか……初めて見るぜ」


魔力が少ないと言っても彼女も魔族、その量は普通の人間の比ではなく、少なくとも拳太がこれまで見た人たちの中で一番多くの魔力を保有しているであろうことは見てとれた。


「はあああ!」


そしてその光は徐々にレイピアへと収束していく、全身の光が一ヶ所に集中したためかレイピアは松明よりも明るく輝き聖なるものさえ感じる


「『 風の刃(ウィンド・カッター) 』!」


彼女が技の名を叫びレイピアを横一文字に一閃する、すると彼女の前方に暴風が巻き起こり、林の葉は吹き飛び、木は抉られその中身を大きく露出させていた


……が


「なるほど、確かにこりゃお世辞にも実戦向きとは言えねーな」


その様な威力を持ちながらも拳太はあっさりと不合格を出した。


しかしそれも仕方の無い事だろう、さっきの技でレベッカは息も絶え絶えといった様子で間違っても連発出来るものではない

それに対して技の威力が () () () ()

多くの木の木の葉を吹き飛ばし、中身を抉るのは一見絶大な力を持っているように見える、だが木は何一つ倒壊を起こしていない、つまりは『木を貫通するどころか半分も削れてない』のだ。

そんなだから、当然技が林の奥まで届く訳でも無く、手前の木だけにしかその攻撃は届いていなかった。


「ううう……やっぱり駄目?」


「ああ、見た目は派手だったんだけどな」


言っては悪いが、これならまだ翠鳥幸助の『縛られた蛇(チェーン・スネーク)』の方が強かったかもしれない、きっと魔力消費量も向こうの方が低いだろう


「……あ」


そこまで考えた時、拳太に一つの妙案が浮かんだ。









「本当にこれで上手く行くの?」


「ああ、要するにお前らは魔力を無駄に使いすぎなんだよ、使い方によっては少ない量で大きな威力を誇る事だってある」


拳太が浮かんだ妙案、それは『風を使って攻撃する』のでは無く、『風を使って攻撃の補助をする』事だった。

具体的には風の魔法でレイピアを操り、それで攻撃すると言うものだ。刃が欠けないように、刀身の周りには薄く鋭くさせた風の刃も纏わせる予定だが、とりあえず今はレイピアを上手く操れるように専念させる

かつて『 縛られた蛇(チェーン・スネーク)』を受けたからこそ浮かんだ発想で、今この時は幸助に感謝してもいいかもしれないと拳太は思った。


しかしそれに対しレベッカは非常に懐疑的である、だがそれも無理からぬ話だろう、レベッカ含む魔族は基本的には人間より遥かに魔力を多く持ち、大抵の魔法は思うがままに使えた。

そのため魔法の威力を高める研究はされていても、魔力を効率的に扱う研究は進んでいなかったのである

それに対して人間は獣人の様に強靭な肉体も無ければ魔族の様に膨大な魔力も持っていない、身体能力を鍛えようにも獣人とはそもそも体の作りが違うため追い付ける訳がない

そのため少ない魔力でいかに大きな成果を得られるかに賭けるしか無かったのだ。

その結果、魔力の扱い方に関しては人間は他の種族よりも何十歩も秀でていたのである


しかし人間も魔族も昔から基本的には相容れない存在として交流を絶っていた。

だから拳太の人間特有の理論をレベッカが中々信じられないのも無理は無いのである


「まあ、とりあえずこれをやって、ダメだったら他の方法を考えようぜ、時間はまだあるんだろ?」


「ケンタ……うんっそうだよね! ボク、ケンタを信じてやってみるよ!」


だが自らに献身的にサポートしてくれる拳太を疑いきれる訳もなく、レベッカは己の魔力を集中させてレイピアに風を吹き起こす


「……」


が、レイピアはただ宙に舞って地面に突き刺さるのみだった。


「あー……まあ、最初はこんなもんだろ」


なんとなく気まずさの漂う空気の中、拳太は頬を掻いた。

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