part2 花崎大樹
最近、幸助の様子が変だ。
最初に違和感を抱いたのは2日前、俺と幸助が試合をした後、なんだか様子がおかしくっててっきり俺に負けたのが気になってると思ったもんだからどう声をかけようかと悩んでいると香織が思いきって聞いてくれた。あとで彼女に感謝すると、何故か顔を真っ赤にして『大樹のためじゃない』等と色々と文句を言われた。何故だ。
そしたら彼は『正義とは何か』を聞いてきた。よく分からなかったから自分なりの考えを言ってみた。すると彼は少し残念そうな表情をして去っていった。
「何だったんだ……? あれは」
そして今、馬の上で頭を悩ませているのは俺、花崎大樹である
これからとある獣人の村へ修行へ行くらしく、将来有望と見なされた勇者のみが選抜されるようだ。そのため今回の遠征は正直わくわくしている、努力の甲斐があったものだ。
選ばれたのは俺、香織、千早、有子、幸助、そして望月巴の六人だ。
そして俺達は小休止に、王国から歩いて一週間程でつくとある村を訪れていた。
「まぁ、そのうち向こうから言ってくれるだろう」
幸助の事はそう楽観視して、俺達は村へ到着し、馬から降りた。
「……あれ?」
最近出来たという教会に馬を預けた後、なんとなく教会の中を見てみると気になることがあった。壁に何故か幾つか刃物で傷付けた痕や、強く者を打ち付けた痕、それにカーペットも汚れていたし、なんと言うか、片付けられた後だからよく分からないが、誰かが暴れたような痕があったのだ。
「あの、すみません」
「どうかされましたか?」
人を呼ぶとそこに一人の神父が出てくる、質素な格好に身を包んでおり、胸の尖った十字架が無ければ神父だと分からなかったかもしれない
「なんだかここ、暴れたような痕があるのですが……何かあったのですか?」
「ああ、それですか」
傷の事を訪ねると、彼は何処か遠い目をして呟いた。その表情はなんというか寂しげであった。
「これは……そうですね、過ちの痕と言うべきでしょうか」
「過ち? 何をしたんですか?」
神父は暫く俺の方を見つめている、言うべきかどうか迷っているのだろう、しかし、この神父がその過ちに苦しんでいるのならなんとかしてやりたいと思っていた俺は、それを態度で示すべく、真っ直ぐに神父の目を見た。
「………実は―――――。」
「―――――って話を聞いたんだ。」
「……その黒服に金髪の少年って」
「どう考えても拳太クン、やなぁ」
「でも、どうしてここに……?」
神父から事の詳細を聞き出した後、俺、香織、千早、有子の何時もの四人で宿に集まっていた。
この村の宿屋は狭いため、現在俺達四人と、残りの二人で部屋分けしている、正直幸助はこっちにいてほしかったが……どういうわけかバラバラななってしまった。
「あいつだって人間だ。疲れた所にあったからここで休んだんだろう」
俺の返答に、香織は何やら納得いかない顔をして頬に腕をやる
「けど、あんなヤツが誰かのために戦うと思う? その神父さんの言うこと、どうも嘘っぽいんだけど」
「確かに、そうですね……でも、実際に暴れた痕はありましたし、全て嘘では無いと思います……」
じゃあ一体どういうこと? と場の雰囲気がそうなって暫くすると、やがて千早が「あっ」と何か思い付いた様な表情になり天井に向けていた顔を俺達に向けてくる
「何か分かったのか?」
「ん~まぁ、多分これで確実かなって位には」
「何よ、早く言いなさいよ」
自分としては一刻も早く疑問を解消したいのか、グイグイと急かすように、香織が千早に迫る
「ちょ、言う言う、やからそんな急かさんとってや~」
迫る香織を押し退けた後、千早はこほんと咳払いをすると一言
「拳太クンはこの村を襲撃したんちゃうか?」
「襲撃、ですか?」
おずおずと訪ねる有子に対して千早は「そうや」と返答すると、続きを喋る
「考えてみぃや、あのお世辞にも善人と言えない拳太クンが、この村の為に戦ったってのがおかしいんよ、じゃあ何でこんな話があるか? それは自分の悪事を誤魔化すため、ついでに村の人から評判を得るため、暴れた痕があったのは教会だけやから、多分村の人達はなんも知らん……どうや?」
言われてみればなるほど、と思う、確かに遠藤拳太はそんなことをする人物では無いし、その推理はかなり的を打てている、しかしそうなると一つ気になることがある
「でもそれじゃあ、なんで拳太がいなくなった今も神父さんは誤解を解こうとしないんだ?」
そう、もうこの村には遠藤拳太はいないのだから嘘をつき続ける必要は無いはずだ。一刻も早く誤解をといて、王国へ報告するべきだろう
「そのことなんやけどな、本来この村には神父さんだけやなくてカワイイシスターちゃんも来る予定やったらしい」
「それって、まさか……!」
香織があることを思い付いたのか、今にも怒りだしそうな表情で戦慄としている、そしてその考えは俺も同じだ。多分今、俺も香織同じような表情をしているだろう、有子が怯えたように俺達を見ている
「せや、拳太クンはこの村のシスターちゃんを人質として誘 拐 し て い る」
俺も同じことを考えていたが、改めて言葉にされると身体中に衝撃が走る、そして体の中から熱いものが湧き出てきた。これは怒りだ。
「……倒そう」
俺の言葉に、三人はこちらを向く、俺は俯きがちだった顔を上げて三人を見据えた。
「絶対に、拳太を倒そう!」
三人は決意を固めた表情で頷いてくれた。
そうだ、あの悪は絶対に倒さなければならない、拳太は俺達の世界から呼んでしまった。なら奴を倒すことは、同じ世界の俺達の責任だ。
四人で誓いを立てて、その日の夜は明けていった。