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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
間章1 翠鳥幸助の疑問
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part1 翠鳥幸助

たまには勇者サイドも書こうと思い、間章入れてみました。

これからチョイチョイ入れようと思います。

「はあああ!!」


ここはヒルブ王国の城、遠藤拳太除く聖桜田丘学園の一クラスの生徒達が、日々演習に励んでいた。


「甘いぞ! 『縛られた蛇(チェーン・スネーク)』 !」


その技の名を叫ぶ僕の名は翠鳥幸助、勇者として召還されて以来、この世界を守るため現在修行中の身である


「なんの、『 岩の鎧(ロック・アーマー)』!」


その声に応えるかのように目前の彼を地面から隆起した岩が包み込む、僕の 『縛られた蛇(チェーン・スネーク)』はそれに阻まれてしまい彼に鎖の刃が届くことは無かった。弾かれた鎖が威力をそのままに地面に激突し派手な土煙を上げる


今、僕と対決しているクラスメイトは花崎大樹、まるで漫画の主人公の様に端整な顔立ちに困っている人は放っておけないお人好しな性格、悪を許さぬ正義感とまるで完璧超人という言葉をそのまま当てはめた様な人物だ。そんなんだからそれはもう女性に大層人気を集めており、僕達のこの戦いにも沢山の観客ができてしまう程だ。無論、観客の九割以上は女性である


「隙が出来たな幸助!」


「それは此方の台詞だッ!」


一通り僕の攻撃を防いだ大樹は土煙の中から急速に接近し『縛られた蛇(チェーン・スネーク)』の操作のため動けない僕に突進してくる、しかし、僕だってただ闇雲に攻撃をしている訳では無かった。


大樹が僕に剣を振りかぶったと同時に彼の左右後方から二本の鎖がくるむかのように襲いかかる、大樹への攻撃の際にあらかじめ隠しておいた二本だ。


「なっ!? 新しい鎖!?」


「何時までも僕の最大操作数が三本だと思うなッ!」


そう、僕は遠藤拳太に敗れて以来己の実力不足を痛感しクラスメイト達の中でも特に必死に特訓して最大操作数を増やしたのだ。自分で言うのもなんだが、あの時五本操れたのならば遠藤拳太に勝利する事だって可能だったかもしれない


「あの攻撃は土煙をわざと立てさせこれを隠すためか!」


「その通りだ! そして食らえ!『 暗闇の蛇(アサシン・スネーク)』!」


大樹が身体強化の魔法を唱える前に鎖が大樹に迫る、大樹は咄嗟に大剣を盾にし鎖を防ぐ


「もらった!」


「うわ!?」


しかしそれも計算の内、鎖をぐるぐる巻きに巻き付けて大樹の大剣を奪う、残りの三本で大樹の体も拘束する、鎖の刃は地面に激突した際に壊れてしまったが、締め付けでも与えるダメージは十分だろう


「僕の勝ちだ!」


「いいや、俺だ!」


大樹が不敵な笑みを浮かべ、力一杯腕を広げる、すると彼を拘束していた鎖が千切れ飛んで行く、千切れた鎖がチャリンチャリンと銭を落とした時のように散らばる


「何ッ!? 身体能力上昇魔法の詠唱は間に合っていたのか!」


「ああ、すぐに攻撃すると回避に徹されると思ってな、一芝居させてもらったぜ!」


大樹は今度こそ僕に攻撃しようと一気に距離を詰めて来た。それに合わせて剣を振るうが、元々鎖を誤魔化す為の囮の刀身だ、中身はスカスカで威力なんてゼロだ。


「無駄だぜ!」


「くっ!」


案の定刀身は大樹の体に弾かれて僕に大樹の拳が叩き込まれ、勝敗は決した――――――。








「中々やるじゃない、大樹」


最初に彼に声をかけた少女は 折邑 香織(おりむら かおり)、情熱を表す様な赤髪の腰まで届くポニーテールが特徴の女性だ。

大樹の幼馴染みらしく、彼のハーレムの中の最古参とも言える人物らしいのだが、いかんせん素直ではない不器用な性格に加え、大樹の病的な鈍感さのせいで、未だに好意を伝えられてはいない


「ああ、見てくれたのか、香織」


「なっ!? バ、バカね、誰が好んでアンタの試合なんか見るもんですか! たまたまよ! たまたま!」


「え~? その割には心配そうな顔しとったんはどこのだれかな~?」


そう言ってニヤニヤと笑みを浮かべながら折邑に絡むのは 草薙 千早(くさなぎ ちはや)、僕よりも明るい黄緑色のボブカットにダイナマイトボディと言っても良いほどの圧倒的なプロポーションにシンプルな耳のピアスが特徴的、なんでも大阪からやって来て心細かった時に大樹に助けられて以来彼をえらく気に入ったみたいで、彼のハーレムの中でもかなり積極的なアピールをしている、本人には全く……………顔を赤くしていた時もあったし通じていない訳ではないと思われる、恐らく、また場を盛り上げたりかき乱したりする猫の様な人物だ。


「だ、誰が心配なんか――――」


「『絶対負けんじゃないわよ……』とか『バカ、何やってんのよ……!』とかあんな乙女な顔して言っとったのに~?」


草薙に聞かれているとは思わなかったのか折邑は耳まで赤くなり目を見開いて口を魚介類の如くパクパクさせている、その様子を見て草薙はますます笑みを深めた。


「えっ? 香織そんなこと言っていたのか?」


「言ってないわよ! バカぁ!」


「ん~と、他にはぁ~」


「いやー! い、言うな、聞くなー!」


「うわちょ! かおりん冗談やんか! 堪忍してーな!」


「ぎゃー! なんで俺までー!?」


パニックを起こした香織が暴れまわっていると、女性の集団の中からおずおずと三人に近づく


「あ、あの、落ち着いて下さい……草薙さんも、あんまりからかわないで……」


消え入りそうな声で注意を促したのは 湖南 有子(こなん ありす)、目までかかりそうな前髪、そして自らの脹ら脛まである長髪、どこも綺麗でサラサラと輝くような黒髪の少女だ、名前に相当なコンプレックスを抱えており、名前で呼ばれるのをかなり嫌悪している、ただし大樹は別みたいで、詳しい事は聞いていないが大樹の事だ。また物語の主人公のような活躍をして惚れられたのだろう


「はっ! そうよね、私としたことが取り乱したわ」


「おおー、助かった……スマンな、湖南」


「お? お前も見てくれたのか、ありがとな、有子」


大樹は湖南の頭に手を置き優しく撫で始める、こうして見るとまるで小動物を撫でてるように見えてくるから不思議だ。


「わ、私はただ、貴方が見たかっただけで……あうぅ」


湖南は想い人に触れられたのが嬉しかったのか身をよじって顔を赤らめている


――――――その時、ふと遠藤拳太があの少女といる場面を思い出した。


「………ッ」


「――――――幸助? どうした?」


はっと我に返るとどうやら大樹がタオルを持ってきてくれている、いつ用意したのか分からなかったが、こういった心遣いは出来るヤツだ。あとは恋愛関係に向けば万歳だが、それは無理な相談だろう


「いや、少し考え事をね」


「ん? 大樹に負けたの気にしてんのか?」


「そうではない」


大樹からタオルを受け取り、ごしごしと荒っぽく顔を拭く、この心中のモヤモヤも取れるかと思ったが、むしろますます増えていく様な感覚がした。


「ああ! もう! じれったいわね! ぐずぐず悩むなら誰かに相談とか出来ないの!?」


きっとこれは彼女なりの気遣いなのだろうが、生憎答える気にはならなかった。しかし言わなければしつこく聞いてくるだろうと考えた僕はかなりぼかして伝える事にした。


「正義……かな、言葉にするなら」


「正義?」


「ああ……すまないな、上手く言えなくて」


きっと真面目に答えようとしても、僕は同じ答え方をしただろう、そうとしか、言えなかったのである


――――僕はあの日、あの時、遠藤拳太に無様に敗れ、それでもなお立ち上がった時、多少曖昧な意識だったが、確かに覚えている


『私、戦います!』


それは、あの少女の精一杯の叫び声、沢山の人間に囲まれ自らも不安であったにも関わらず、たった一人の少年を守るための少女の意地


僕は、何が真実で、どうしたら良いか分からなかった。だから彼等が去るときも、ただ何もせず案山子のように立っていた。

あの少女は、奴隷だと聞くが本当にそれだけなのだろうか

だとしたらどうしてあの中で遠藤拳太を庇う事が出来たのだろうか

僕は何か制服のボタンをかけ違えるような決定的な間違いをしているのではないか?

そんなことがずっと頭の中で回って、信じるものがわからなくなってきた。

この国? クラスメイト? 遠藤拳太? それとも自分?

この思いがぐるぐるとまざって、僕の心を縛り付けていく、正しく (チェーン)のように






「うーん……そうだな」


そんな事を考えていると、大樹は答えが出たのかゆっくりと口を開いた。


「俺にも明確な正義なんてのは分からない、けれど、護りたいもの、救いたいものがあるのは分かる、だから俺はそう信じたい者たちのために戦う……それが正しいと思っている」


「自分ではなく他人のため、か……いかにも君らしいな」


「あれ? 悪かったか?」


「……いいや、十分さ」


少しだけ笑んでから、自室へ戻るべく歩を進める


―――望んだ答えは、やはり得られなかった。









「……滑稽、だな」


たった一回負けた位で、自分の信念さえも疑う自分を自覚すると、途端に可笑しく感じてくる、今は誰もいない夜の自室なので、少し笑う事にした。


「……正しい事、何なのだろうな」


その答えを知ってそうな人物を思い浮かべてみる、真っ先に浮かんだのは――――――あの黒い学ランの不良少年


「遠藤拳太……僕は、もう一度君に会いたい、そして今度は話し合って、答えを知りたい」


窓から見える元の世界より大きな月を見上げながら、僕は何処へともなく祈った。


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