第十三話 犯人探し
「……つっても、これからどうすっかな……」
アニエスに見栄を切ったはいいが、特に宛のある訳でも無い拳太は早速途方に暮れていた。農夫に話を聞きたかったが、神父に止められたため手がかりはこれっぽっちも無いのである
「ケンタ様……私にも出来ることがあったら言って下さいね?」
思い悩む拳太の姿を見かねたのかバニエットが気遣う様に言う、そんな彼女をなんとなく見ていた拳太だが、その時彼の脳裏に考えが浮かんだ。
「そうだな、早速働いてもらうわ」
拳太の言葉に、バニエットは瞳を輝かせ即座に大きく頷いた。
「―――それで本当に分かるんですか?」
「ああ、今夜とはいかなくても、必ず見つかるハズだぜ」
拳太達は宿屋の自室に戻った後、何もせず―――正確にはバニエットに考えを話した位くらい―――に再び夜を迎えた。
「よし、じゃあ、始めるぞ」
「―――はい」
拳太は部屋の窓を開き、それと同時にバニエットは耳に手を添え目を瞑り集中する窓からは風の吹く音だけが聞こえる―――拳太には
彼の考えた作戦はこうだ、バニエットの聴力を利用して村の様子を伺う、決定的な証拠にはならないが、手がかりを見つけるだけなら十分に効果的である
さて、肝心のバニエットだが、時折唸る程度で、何か収穫があるようには見えない、まぁ焦ってもどうしようもないと思っている拳太は取り敢えず忙しなく向きを変えるバニエットの耳を見ていた。
そしてある方向へピタリと動きを止めた。
「……? 何か聞こえますね、これは……足音、でしょうか?」
自分の言葉にも確信が持てないのか、バニエットは疑問系で拳太に報告する
拳太はそれが事件の手がかりになると踏んで立ち上がる、バニエットもその音につられて拳太を見た。
「多分、そいつだ。道案内頼むぜバニィ」
「はい! こっちです!」
元気よくバタバタと駆け出すバニエットにやれやれと言った表情で一息つくと、拳太も彼女に続いて駆け出した。
「やれやれだ。頼もしいんだか危なっかしいんだか……」
バニエットに途中までは先頭を譲っていたが、すぐにその必要は無くなった。何故なら、ここは所詮村、端から端を見渡せる程度の村では不審者などすぐに見つかる、事実、拳太が宿屋を出てから五分とかからず通り魔らしき人物を発見した。
その男は黒っぽいローブをすっぽりと被っており、顔や体の線がよく見えない、それでも男と判断したのは単に彼の身長が高かったからだ。ローブの中から銀色に輝く金属が飛び出しており、恐らくナイフか何かだろう
「ここまで堂々としていると逆に清々しいな、バニエット、オレはあいつに奇襲をかける、お前はここに残れ」
「は、はい」
これから戦闘が起こる事に強張っているのか、返事もどこか硬い、本来なら気遣ってやりたいが、生憎急がなければいけない状況なので我慢しておく
拳太はその男に忍び足で近より、息を殺して建物の影に潜む、男は拳太には気付かず、手近な家に向かい、おもむろにドアノブに手をかけようとする
「……オラァ!」
拳太はその瞬間を狙って飛び出し男に足掛けを仕掛ける、男は突然の事に対応できずに無様にすっころぶ、拳太はすかさずナイフを持っている手を取り上げ背中の後ろに回す、男はそれで抵抗は無駄だと悟ったのか、大人しくなった。
「さて……色々喋ってもらう前に、その面見せてもらうぜ」
拳太が男の正体を現さんとローブに手をかける
「―――っ!」
しかし拳太が男のローブを取ろうとした直前に、ナイフから閃光が走り、拳太の視界を白く染める
「うぉ!?」
その光はすぐにパソコンの電源を落とした時の様な音と共に消え去るが、同時に男の姿も消えていた。
「……チッ!」
忌々しげに拳太は舌打ちすると、服の埃を払うように手で叩いた。叩く度に学ランのアクセサリーがジャラジャラと音を立てて揺れる、そしてバニエットがいる場所へ歩いた。
「バニィ、アイツの向かった場所は分かったか?」
「いえ、あの光と一緒に音も出ていたので……」
「そうか……」
暫く片手を顎に当て考える素振りをした後、目線を上げる
「とにかく今日は帰るぞ、犯人の目星もついたしな」
「えっ、本当ですか?」
「ああ、半分くらいは確信してる」
驚きに目を見開くバニエットをよそに、だるそうに宿屋へ向かう拳太
―――この事件の 終演は、近い