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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第二章 教会と不良探偵
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第十話 最初の村

前章のあらすじ


異世界『セイラルド』の勇者召喚に巻き込まれた聖桜田丘学園唯一の不良『遠藤拳太』は勇者になる事を要求されたことに対し、ヒルブ王国の女王ヒルダを平手打ちにし要求を拒否、単独行動を取ることとなる

そんな中で出会ったラビィ族のウサ耳少女バニエットことバニィと出会う、二人が信頼を深める中立ちはだかる勇者『翠鳥 幸助』、彼の挑戦を受け、決闘を受ける事になった拳太はこれを撃破するが、今度は『花崎 大樹』達がバニエットを連れ去ろうとする、それを見た拳太は自分がいつの間にか彼女に心を開き始めているのに気付き、彼女を守る決意を固め大樹達と激突する

激戦の末勝利した拳太は騒ぎが起きる前にバニエットを連れて王国の外へ、そしてバニエットの故郷を目的地に旅を始めた……

王国の城下町から離れて一週間、拳太達の旅は取り敢えず順調に進んだ。最初の二日間は追跡が居たときのためと用心深く、ほぼ徹夜で移動したため少し体力は減ってはいるもののまだまだ余裕はありそうだ


「バニィ、どうだ、何かあったか?」


その拳太の横で耳を忙しなく周囲へまるでレーダーの様に動かしているウサ耳少女はバニエット、拳太と違って彼女は荷物が極端に少なく、尚且つ十分睡眠は取れているため拳太より幾分か顔色がいい

彼女は今、その耳を生かして周囲の『音』を拾っている、その能力を駆使してこの一週間は極力トラブルに会わずに済んだのだ。


「えーっと……あ! 会話です! 会話が聞こえます! 多分、五人以上です!」


盗賊の類かとも思ったが、もしそうならそうで万が一こちらが見つかったとしても先制を取って逃げ切ることができると判断したためさしたる問題は無いと拳太は、取り敢えずその場所へ向かう事にする


「よし、じゃあ行ってみるか、警戒は怠るなよ」


拳太は荷物を背負い直すといつでも、何処から襲いかかられても対処が出来るようにと腰を落として拳を握り締めて、殴りの型を作って警戒体勢を取る


「はい!」


「静かに」


「はい……」


バニエットの元気な返事を犬にでも言いつけるようにばっさりと切り捨てた拳太、それに対してバニエットは先程とは逆に気落ちしたような返事を返したが、静かになったので拳太達は声の方向へと向かう

そこに映ったのは、田舎ならばどこにでもありそうな不規則に並ぶ家の群れだった。


「……村か、バニィ、何か会話内容が分かったりしないか?」


拳太の指示を受けて、バニエットは目を詰むって意識を耳に集中させる、すると彼女の耳には小さいながらも風に紛れて村人達の声が確かに届いてきた。

声の調子からすると、特に何事もなく、穏やかな時間を過ごしているようだ。


「えーっと……どの野菜が食べ頃かとか、晩御飯の話とか、何を食べるかとか、他愛もない会話です」


「飯の話ばかりしてないか?」


恐らくバニエットの気分によって聞き取る話を限定しているのだろうが、時刻は昼過ぎ、つい数十分前には昼食を食べ終えたばかりである

勿論バニエットは拳太よりも多く食べ、彼の荷物を幾分か軽くすることに貢献していた。


「まぁ……入っても大丈夫そうだな」


取り敢えずは自分達が指名手配にはなってないようで一安心した拳太は改めて村を見てみる、村は小規模と言っても過言ではなく、小さな家が五軒、大きめな家が三軒、そして小綺麗でありながら質素な教会があった。茶色のレンガで壁が作られているもののとんがり帽子の様な屋根の頂点にはきっちりと銀に輝く十字架が立っていた。


「じゃあ、入るか……あ、そうだ。バニィ、フードは忘れるなよ?」


拳太はそう言って振り向くと案の定、バニエットはフードを脱いだまま入ろうとしたためギクリと身を震わせる


「わ、わかりました……」


多少嫌そうな顔をしたものの彼女も奴隷時代の経験かこの国で獣人であることを隠すフードの重要性は理解していたため、自主的に白い昼用のフードを被っていた。





「おや、旅のお方とは珍しい、マリネ村へようこそ!」


村に入ると、中年の農夫が声をかけてくる、旅人がそんなに珍しいのか、拳太達の――いや、拳太の服装を凝視している、それこそ穴が開きそうな程に


「なんていうか……凄い格好ですね」


「あー……まあな」


拳太の魔改造が行われたゴテゴテの学ランを見て深く感嘆のため息を吐く農夫、その様子を正直この服装をあんまり気に入っていなかった拳太は複雑な心境で聞いていた。


「ところでおじさんよ、随分と綺麗な教会があるが……あれ、建てられたばかりなんじゃないか?」


「おっよく分かりましたねぇ、流石旅人さん」


旅人で無くてもよくみれば誰でも分かる、と拳太は思った。

何故なら例え幾ら毎日綺麗に掃除していたとしてもいずれ必ず劣化する所が出てくる


例えば十字架、もし長らくそのままであるのならいずれは表面が錆びて光をあまり反射しなくなる、錆を落としたばかりだとしても、十字架の角は丸くなるだろうし、雨風に晒されたことによって付いた傷はそのまま、この世界の技術力を考えれば尚更だ。

レンガだっていずれは表面がボロボロになるし、ドアノブも手垢等で汚くなるだろう、しかしあの教会にはそんな様子は少しも無い


「いや、何でも今日から牧師さんとその弟子のシスターちゃんがこの村に越して来るそうでね? そのために今日に向けてコツコツ建てていて遂に昨日完成したんですよ。」


その農夫の言葉に拳太は少し驚いたような表情を浮かべて農夫を見る、農夫は教会の完成を自分の事の様に喜んでいた。

自分に何か利益があるわけでもないのに、ただ純粋に喜んでいた。


「ん? どうかしたんですか?」


そんな思いが表に出ていたのか、拳太を気にかけた農夫が不思議そうな様子で問いかけてくる、


「何で……んな事をわざわざしたんだ? 手間も金もかかったろうに」


「まぁ、確かに建てるのは大変だったけどね……」


当時の苦労の数々を思い出したのか、苦笑して農夫は髪の薄い自らの頭を掻く、しかしその直後に言うべき言葉はとっくに決まっていたのかすぐに再び口を開いく


「せっかくこの村に来る新しい仲間……所謂『家族』じゃないか、家を建ててあげるのは当然だよ」


迷いなく言いきる農夫、拳太はそれを怪訝な顔をして見る、例え豊かな現代日本でもわざわざ顔の知らない一人のために周囲の人々が家を建てるなど無い、そんな社会に生きてきた故に拳太は彼の言葉がイマイチ信じられなかったのだ。


「もしかしたら事故にでも遭って来なくなるかもしれなくても? そいつがヘドの出るような悪人でも?」


普通の人なら注意の一つでも行いそうな拳太の意地の悪い問いかけにも、農夫は懐が広いのか気を悪くするような様子は無く、軽く唸りながら熟考する

そんな薄暗い問答の中でも、青空に浮かぶ太陽は関係無いとばかりに穏やかにこの村を優しく包み込んでいた。


「うーん……そんな事考えてもみなかったかな、それでも僕は信じるよ、いや、この村の皆もきっと信じる、彼らは悪人じゃないし、必ずここに来るってね、まだどんな人か分からないなら、いい方を信じようじゃないか」


「……そっか、わかったぜ、すまんなおじさん……嫌なことを言った」


「いやいや! 当たり前の事を言ったまでさ!」


そう、当たり前だ。

その当たり前を屈託の無い笑顔で答えた農夫のその笑顔を見て、拳太はそこから感じる信念とも言える物に少し羨ましさを覚えた。

何かを盲目的に信仰するのは危険なだけだが、彼の信じるは違う、疑う要素と信じる要素があることを知って、それを視野に入れて尚信じると言ったのだ。

そんな事は小学生の道徳でも習うように当たり前の事だが、その当たり前はとても難しい、その難しい事をいともたやすくやり通す農夫を、拳太は素直に尊敬した。


ただ、それを認めるのが少し気恥ずかしかった拳太は彼にささやかな意地悪を投げ掛けた。


「そういや、いつの間にか敬語じゃねぇな」


「ああ! ごめ……すみません! ご迷惑を!」


拳太の思惑通り、農夫は慌てて弁解するように手を振るとしどろもどろに口を動かす。その様子が何だかおかしくって拳太はその口元をほんの僅かにではあるが、確かに微笑んだ。


「いや、堅苦しいから普通でいいぜ、そもそも敬語使うべきはオレだ。おじさんより年下だしな、使わねぇけど」


からかうような拳太の言葉に農夫は安心したような、呆れたような笑いをもらして空を仰ぐ、そこにはゆったりとした風が流れ、拳太の中に燻っていた炭のような思いはそれに流されるように消えていった。


「ははは……なんだよそれ…………おっ! 来たみたいだね!」


農夫の言葉に反応し、拳太は農夫の見ている方向を見る

そこには馬車が一つ此方に向かって来ている、拳太が街で見た物より幾分か質素ではあるものの屋根とカーテン付きのちょっとした貴族が乗っていそうな少し高い物だった。


「さーて、おじさんよ、どんな奴が来ると思う? オレは現実的にヨボヨボのじーさんに婚期逃したおばさんと読むぜ」


「んー、じゃあ僕は夢を持って美少女が乗っていると読むね!」


二人がそんな軽口を叩いている内に、とうとう馬車が彼らの目の前に到着し、カーテンが少し開き、うっすらと中の空間を映し出す、そこから革の靴が日の光の元へと姿を見せていた。


「さーて、いよいよご対面だ。」


二人の視線は薄暗い馬車の中に向いている、やがて靴の足音が、持ち主を伴ってこちらへと近づいていった。

今回から第二章です。

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