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(旧)拳勇者伝 ~『チート殺し』が築く道~  作者: バウム
第一章 その拳は自由へ向かう
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第九話 目的地

今回で第一章終了です。

「あーあ、ボロボロになっちまったなぁコレ……」


大樹達を倒した後、騒ぎになる前にそそくさと闘技場を抜け出した拳太とバニエットは宿屋の自室にて休んでいた。

そして現在、拳太はお気に入りの学ランとズボンが千早の風魔法のせいで傷だらけになってしまっている事に落ち込んでる、もっとも、本来なら拳太の体も一緒にボロボロになるはずなのだが


「チックショウもう少し殴っとけばよかったかな……」


怨嗟を込めた声を上げて、拳太は再度拳を握りしめる、その様子を見かねたのかバニエットがおずおずと声をかけた。


「あ、あの、ケンタ様、私それ位なら直せますよ?」


「お?」


バニエットの意外な言葉に思わず反応した拳太だったが、購入する時の魔獣屋の言葉を思い出してすぐに首を振る


「いやいや、テメー何やってもダメってあのおやじに言われただろ」


魔獣屋のおやじはわざわざ購入意欲が幻滅するような嘘を言う人物ではない、バニエットが何やってもダメと言うのは本当だろうし、そう言った理由は自分がクレームを言いに行って信用を失うのを防ぐためだろう、そんなバニエットがとても服の修理が出来るとは思えない


「むぅ~! 私だって裁縫は出来ます! ……裁縫しか出来ませんけど」


それに対しバニエットは頬を膨らまして抗議する、最後がなんともまあ頼りないが、出来ると言うなら任せてみようと考える拳太だった。どうせこれ以上酷くならないだろう


「んー……材料費とか分かんねぇからコレで好きにしてくれ」


そう言って拳太は頭一つ分の大きさの金貨の入った袋を置く、バニエットはそれを見て信じられない様に目をぱちくりさせる


「あの……いつの間にこんなにお金を?」


吃驚したままに訊ねるバニエットに拳太は一言


「パクってきた。」


その一言で大体察したらしいバニエットは「ああ……」と呟いたあと袋を持って出掛けようとするが、拳太が慌てて引き止める


「待て待て、そんなウサ耳丸出しじゃ何されるかわかったモンじゃねぇぞ、コレつけとけ」


そう言って拳太はバニエットの頭にフードを被せる、多少盛り上がっているが髪型として誤魔化せるだろう


「あの、少し窮屈です……。」


「我慢しろ」


バニエットのささやかな抵抗も、拳太の一言でバッサリ切られる、彼女は渋々と言った様子で出掛けて行った。










「ケンタ様! 出来ましたよ!」


数十分か、はたまた数時間経った頃にバニエットは帰ってきた。

その純粋な瞳を輝かせて喜ぶバニエットとは対照的に、拳太は口元に笑みを浮かべてはいるものの、表情筋が痙攣するように動いたり、汗を垂らしていた。


「……随分とファンキーな見た目になっちまったなオイ」


結果から言うと、バニエットの裁縫スキルは最高だった。何せどれだけ目を凝らしても修理の後が見えないのである、レベルがカンストしていると言っても過言では無いだろう、そこは嬉しい拳太である


しかし、こともあろうかバニエットはそれだけでは飽きたらず学ランやズボンにかなり装飾品をゴテゴテと着けたのである

まず学ランのポケットには雷のマークのワッペンが付けられており、その下には星のマークが内側から順に五つ連なっており外側に行くにつれて星が小さくなっている

そして学ランの右側はポケットのやや下の位置から金色の鎖が伸びており学ランの一番下の辺りに中に星の形のした金属オブジェのある同じく金色のリングが取り付けられている

続いてズボンだが、まず右側には銀製であろう十字架が逆の形で付けられている、十字架の真ん中には赤い宝石がある

そして左側、太ももの辺りに二本革製のベルトがあり、前に二個、外側に一個ナイフ入れがある、ズボンの裾には金色の小さな十字架が周り全体に取り付けられている、ここまでの改造はもはや新品と同様だろう


「どうですか!? 布地も魔法や剣で傷付かない様にしてもらったんです!」


「それもう修理じゃなくてオーダーメイドの新品じゃね?」


まさか本当に新品にしてしまうとは思わなかった拳太は面食らった表情でバニエットを見る、対してバニエットは拳太の感想に期待しているのか目を輝かせてワクワクしている


「……ま、いいんじゃねぇの? ありがとよ」


「えへへ、どういたしまして……」


本当はかなりぶっ飛んだセンスだと言いたかったのだがせっかく頑張ってくれた彼女にそんな事を言ってはいけないという程度の良心のある拳太はバニエットの頭を撫でながら曖昧な返事を返した。彼女はそれで満足らしく、頬を赤らめて身をよじっている


「……ところでよ、バニィどこか行きたい場所はねぇのか?」


「どうしたんですか?」


「いや、流石にこれだけの騒ぎを起こしちまえばここにはいられんだろ、そろそろ旅立たなきゃいけねぇけどオレは行く宛ねぇからな」


拳太としては、ろくにこの世界を知らない自分が決めるよりもバニエットに目的地を決めてもらった方が楽であった。


「その……私の故郷に行きたいです。いいですか?」


バニエットはどこか不安そうな表情で訪ねて来た。

なるほど、確かに自分の故郷が気になるのも納得できる、しかし確か魔獣屋の話から推測するにバニエットの故郷は盗賊に襲撃された可能性が高い、となると残酷な現実を見る恐れもある


「………………いいのか?」


別段反対する理由はない、拳太は意思を確かめるようにバニエットの目をみて問いかけた。

沈黙が広がり、ランタンの光と、床の軋む音だけが部屋を支配する


「………………はい」


バニエットもそこをわかっているのか未だに不安な表情をしているが覚悟を持った瞳で頷いた。


「分かった。じゃあ行くとすっか」


バニエットの返事を聞いて即、拳太はベットやシーツを整え始めた。


「えっ? 今からですか? もう外は暗いですよ?」


バニエットの尤もな疑問に、拳太はベットメイキングを進めながら振り返ることもなく言う


「今じゃなきゃ駄目なんだよ、明日にはきっとオレ達を逃がさまいと国は門を閉めるぜ? もう旅の準備はできてるから行くぞ」


拳太はそう言うとバニエットが買い物をしている間に準備しておいた荷物を持って部屋の扉を開け外へ出る

バニエットはいつの間にか準備できていた事に呆然としていたが慌てて拳太の後を付いて行く


「ま、待ってください!」


拳太とバニエットは暗い道を誰にも知られずに通っていく

それは、これからの彼らの旅を暗示している様でもあった……。


次章予告


バニィの故郷に向けて旅に出ることになったオレ達、旅は問題なく進むかと思ったが途中立ち寄った村で通り魔事件に出くわし、その村の教会のシスターに犯人疑惑をかけられてしまう


全く、冗談じゃないぜ、なんでオレがそんなデメリットしかねぇ事わざわざしなきゃなんねぇんだ?


と言っても、何時までも疑われたままってのも癪だし、放っとくのも厄介なので渋々オレ達は真犯人を探す事になったが……


次章、拳勇者伝!


『教会と不良探偵』


はぁー……全く、ついてないぜ……

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