帝都南西
まぬけな私は時間を無駄遣いしていた。
予兆はあったのだ。
アメイラスさんが、雲が襲って来ると言っていた。
南西から帝都に向かって村を襲い無人化させるものがいた。
ヤブヘビが帝都、人家ちかくまで出没していた。
ヤブヘビが人家ちかくに出没していたのは、パイが原因だった。
パイに使う猪の背脂、それを得るために多くの冒険者が狩りを行った。
しかし、その結果猪が激減してしまったのだが、冒険者達は獲物無しで帰る訳にもいかず、付近の食用となる動物を狩るようになった。
現在では帝都近辺では食用となる動物がほとんどいない状態で、そのためエサを求めてヤブヘビのようにあまり人間が食用としない肉食動物が、人里に出没する事となった。
それは周囲からエサとなるものを無くしたことによって人間をエサとする能力をもった生物が、人間をエサとして選択する事となる。
人間は、狩る場合はともかく守るとなると、弱く脆い、とくに村などではろくに守るための設備もない。
それにとっては、人間の村はエサ場でしかなかった。
それは積乱雲に紛れて空に居た。
積乱雲と共に風の流れに乗って漂うようにやって来た。
直径約三キロメートルの巨大な蛸だった。
普通は海に棲む八本足の蛸が空中に浮かんでいる、暗灰色から乳白色の間で変色して雲に擬態しながら蠢いている。
甘く考えていたのだ、たとえ魔災の影響下にあっても進化論の範囲からさほど外れることは無いと・・・
予測になるが、蛸が敵から逃げる手段として海上に飛び出しているうちに空中に定住するようになったのでは無いだろうか?
海上であれば空中に本体を置いて触手のみ海中に伸ばせば常に有利に捕食が出来る。
ただそれだと、陸上に来た理由がわからない。
海に比べると陸上では食糧となるものが少ない、これも推測でしかないが、意図的に地上に来たのではなく、偶然地上に来てしまったのではないだろうか。
蛸は頭足類と言って上から胴体、頭部、足部となっている、足の真ん中に口があるのはそのためだ。
この巨大な蛸は胴体の回りに、風船のように空気を貯めて、さらに筋肉を蠕動する事で高温を発して、まるで熱気球のように空中に浮遊している。
その温度は約二~三百度、ソーマの動きからの概算だ、勿論筋肉だけではなくソーマを魔力にして使っている。
胴体の直径約三キロメートルだが、体重はかなり軽い筈だ。
頭部は直径十メートルほどで、歯というか、嘴の隣に眼が付いているようなつくりだ。
その下の足というか、触手は長くて一~二キロメートルある、というか伸び縮みするようだ。
蛸のからだはとても柔軟で、色や形を自在に変える。
流石に胴体を気球のように変えるというのは、漫画ならともかく実際の生物を進化させるとは想像・・・しなかった訳ではないが、有り得ないと切り捨てた。
なにより、空中では呼吸が出来ない筈だと思った。
ましてや、こんな巨大な海棲生物が空中で呼吸することは不可能だと思った。
それを可能としたのは、積乱雲、入道雲だ、蛸が鰓呼吸するために必要な水分を供給する役割を担っているのが雲である。
それだけではない、今回のことで確信したのだが、ソーマは水溶性であり、また水はソーマ感知を妨げる作用がある、とくに氷は感知を遮断するといってよい。
雲は細かな氷の粒なので、ソーマ感知を著しく阻害する。
他に雲は熱を保温する、雲があると気温が高いことがあるのはそのせいだ。
雲が蛸を空中に留まらせるために必要な環境を保持しているようだ。
雲を散らせば蛸を倒せるだろうか?
弱体化は出来そうだが、倒せるほど決定的ではないような気がする。
幽体であることを利用して、この蛸の構造と生態を探り、弱点、それも決定的なものを見つけようとしているのだが、わからない。
地球ならこの巨大な蛸でもあっさり倒せるどころか、活きたまま捕獲出来るだろう。
ただ、巨大なだけの蛸なのだ。
しかし、今の帝国には倒すのは難しい。
多くの犠牲を出せば倒せないことはないだろう。
犠牲を最小限で倒す方法。
私にはその方法を見つけることが出来なかった。




