火砲修練
帝都西の砦から百ケスト程歩くと低木の茂る藪がある。
腰より低い木々は、緑色の塊が地面にしがみついているかのようで、足を踏み入れることが出来ない。
生前見た茶畑の木を隙間無く植えて、蔓草をトッピングしたらこんな感じだろうか。
学生に限らず兵士や魔術師が的がわりに使っている場所の一つで、里帰りした学生が何人か来ている。
ファントムレイス寮のように敷地が余っている訳では無いので、魔法実験は外で行うことが多い。
ルルア嬢の魔法実験にリノス嬢とネクア嬢が同行している。
ファントムレイス寮の敷地にある的は岩なので威力が把握し難い。
亀轟砲でも岩を砕くような威力はない、なので他の物で威力の確認をしたくなったのだ。
正直、岩の表面を煤けさせるだけなのは飽きたのだ。
亀轟砲の練習にいまひとつ手応えが感じられなくなっているようだ。
無反動砲は火薬の量を調節することで、常に同じ威力で使用出来る。
亀轟砲は亀炎弾の派生型魔法の一つだが、亀炎弾は無限に近いバリエーションがある。
ルルア嬢はこの魔法を極めれば竜を倒せるという言葉が嘘ではないと、実感し始めていた。
ただ、バリエーションが多いということは背後に噴射する量も、その都度調整しなければならないということで、ルルア嬢はその感覚をつかめずにいる。
跳び上がって撃つ、両肩の前からは炎弾、後方には圧縮空気を放つ。
三百メートルほど広がっている藪だ、威力の確認のためなので狙いをつける必要などない。
ルルア嬢は魔災の子の特徴である豊富な魔力にまかせて、なにかの憂さ晴らしのように炎弾を放つ。
亀轟砲はとにかく撃って、肉体で感覚をつかまなければ修得出来ない魔法なのだ。
威力が大きなぶん、肉体にかかる負担と消費魔力が大きいのだが、体力魔力を回復させる方法は栄養補給と休息、つまるところ食って寝るしかないので、今日のところは撃てるだけ撃ったら帰ることになる。
「な~んかやな感じがすんだよな~ 」
『角竜機盾Mr-2』を肩にかけながら、リノス嬢は落ち着かな気に頭を掻いている。
ちらとリノス嬢を見やると、ネクアは糸繰りを始める。
ルルア嬢も撃つのを止めると砲塔を笛に形成した。
鋭く甲高い音が鳴り響いて、音の余韻の中、周囲から静寂と、もの問いた気な視線が集まる。
「皆さん! すぐに砦に避難して下さい。
ここは危険です! 」
ルルア嬢のよく響く声で有無をいわさぬ迫力である。
命令する事に馴れた声である。
そのまま踊るかのようにターンすると、砦の中に入ってゆく。
迷うことなど微塵もない、リノス嬢の物覚えの悪さと勘働きの良さは帝都までの道中で身に染みている。
藪の中に素早い動きの、何か細いものが数十匹いる。
「ネクちゃんは逃げないの? 」
「ボルケノバース侯爵家の御嬢様が先駆けを勤めるというのですもの、殿は任せてくださいませ。」
「ちぇ~ 二人してい~とこもってくな~ しゃ~ない、あたしは残ったとこで我慢すっかあ。」
自然体で角竜機盾を構えると、藪の中からヤブヘビが飛び出してきた。
この世界にはヤブヘビと呼ばれる蛇がいる。
色は黒から黄緑の迷彩模様で上顎に鋭い槍状の口吻があり、下顎からは矢尻の返しのような牙が下顎に沿って生えている。
全長は六~八メートルで、名前のように藪や森に潜み、近くを通る動物に集団(四~十匹)で襲いかかり、相手を藪や樹木を利用して押さえ付け、動けない獲物を喰い千切って飲み込む。
帝都近辺ではほとんど見かけ無いので、対処していなかったのだが、対策は単純で蛇と同じく煙草の臭いを嫌う。
リノス嬢もネクア嬢も煙草を持っていなかったが、リノス嬢が盾の三本角をフォークのように使って、スパゲティのように巻き取る。
ネクア嬢は水で刃を作ると、巻き付いた蛇を切断してゆく。
藪を利用しているため、藪から全長の半分以上を出すことが出来ないので、やぶからある程度離れてしまえば襲ってこないし、藪に押さえ付けられても手足を喰われる前に斬れば致命傷は避けられる。
さらに砦の兵士が風上で煙草を吸いはじめると、蛇達は逃げていったようだ。
それから数日、仕事だと言って煙草を吸う兵士が帝都近辺で散見された。




