息子再誕
なんだか『ふわふわ』している。
あ~ 子供だ、子供がいる。
・・・・・・・・・うん? えっと、それだけ・・・・・・・・・
びくんっ!!!
自分の中の何かがふるえた。
自分はもう何も無かった。
なんとなく手足があるような、しかし、何一つ触れることが出来ない。
まあ、そんなことはどおでもいい。
子供、いや産まれてすぐの嬰児。
この子は私の子だ。
ついさっき、私の胸の下で死んだあの子だ。
感じる、間違いない。
錯覚や妄想じゃない。
魂だけになった私の、魂の繋がっている感覚・・・
産まれてくることの出来なかった、名前さえ付けてやれなかった。
親らしいことも、高い高いも、笑顔を見ることも、泣き顔を見ることも、遊んでやることも、何一つ出来なかった。
そうだ、あのとき頭ぐらい撫でてやれば良かった。
いや、そのぐらいなら今からでも・・・
そっと頭を・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
今の私には身体がありません。
触ることが出来ずに通り抜けてしまいます。
いや、贅沢は言うまい。
この子が再び命を授かり、私の前にいてくれる。
神はいる。
見たことはないが、今なら信じられる。
私の頭が痛くなりそうな泣き声。
生きてる。
この子は生きてるんだ。
私に肉体があったら、この子に負けないほど声をあげて泣いただろう。
有るのか無いのかわからない我が身だが、この子の為に出来るだけのことをしてやりたい。
明日香、草葉の陰から見守っていておくれ・・・
妻のことを思い出したら、ちょっと冷静になった。
私と息子(前世も今世も男の子だった、前世ではレントゲンだったが、今は眼の前に見慣れたモノがある)がここにいるという事は、妻も、明日香も近くにいるのだろうか。
あと、今世の父親と母親?の表情が暗い。
どこの世界でも子供の誕生は嬉しいはずなのに・・・
ちらちらと、隣の部屋を見ている。
なんだろふ?
扉を開けようとすると『するっ』と中に入った。
若い、二十歳前と思われる女性が横になっていた。
苦しそうな表情のまま止まっていた。
口には布の塊りが入れられ、両手は太い棒を握りしめ、膝を二つの横倒しの椅子にそれぞれ布で縛り付けてあった。
まるで暴行にあったかのような姿。
私に肉体があったら、すぐにでも整えてあげたい。
ありがとうございます、申し訳ありません。
床のあたりに手を置いて、土下座する。
名前も知らない、初めて会った女性。
あなたのおかげで、私の息子は生まれる事が出来ました。
あなたには聞こえていないでしょうが、赤ちゃんは無事産まれました。
ああ、もしあなたが今私と同じ幽霊の姿であったなら、百万の感謝を捧げるでしょう。
涙の流せない、慟哭すら叫べないこの身が恨めしい。
ありがとうございました。
ほんとうにありがとうございました。
たとえ肉体があったとしても、彼女の姿を整えるには、死後硬直が溶けるのを待たなければならなかっただろう。
彼女がこの部屋に一人なのは、この姿を見ていられなかったからなのだろう。
せめてもの救いは、彼女の霊がここに無いこと、きっと成仏してくれたのだろう。
私はこの場で、彼女と共にいることにした。
私の息子を産んでくれた、救ってくれた彼女のために、今の私が出来るのはそれだけだった。