表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
整形手術  作者: 立田 純
1/1

第一話 火炎の幕開け(プロローグ)

 今までいくつもの小説を書き溜めていましたが、どれも話が壮大すぎて完結することが難しく、元来持ち合わせる浮気性もあって新しい話を並行して書き続けてしまいましたが、この作品だけは完成できるビジョンが見えていましたので、このたび投稿することとなりました。

 理解しづらい描写を極限まで減らしているため、児童文学のような文体ですが、内容は十分面白いと思います。もし伝わらなければ私の文章力不足です。


 貧困世界の主人公がいれば、富裕世界の主人公がいます。人は目的を持って生きているのだと、最近思いました。私が今年、うつ病になったことが原因で、目的無しに惰性で生きていると強く感じてしまった時、人は生きてはいられないのだと結論が出ました。この中の登場人物一人ひとりが私です。多方面から私を見つめ、知って欲しい。その上で、誰か理解してくれるものはいるのだろうかと、私は自分をぶつけてみたくなりました。


 途中、鬱による精神的な問題で文体が変わってしまっているかも知れませんが、極力そういうところは直してあります。お見苦しいところがありましたら、申し訳ありません。


では、よろしくお願いします。

一人の生物学者が開発した人類の宝「遺伝子整形手術」。

この技術は、人類の進化を促し、あらゆる能力を高めるという物。

しかし、相反して世界は荒廃した。

その技術は時として神への冒涜だと罵られ

その技術は時として訝しまれ、

その技術は時として金銭的に高額すぎた。

人々の大半はそれを拒否した。

それを享受したごく一部の人間は、容姿に恵まれ、能力が高くなり、あらゆる分野での地位を独占していった。各分野で要職を占めた彼らは、そのお金を使って子孫に手術を施し、彼らもまた、それを繰り返した。

能力の無いものは要職には就けず金が無い。手術は受けられない。

その繰り返しはこの世界に能力の無い者が淘汰された経済格差を生み落した。



第一話  火炎の幕開け

 「俺が、世界を変えるから」

 アスアは両親に語り掛けた。ただ花をその地に差した、名もなき墓標に。


-----昨日の話------

 俺は泣いていた。いつものように勤め先に行くと、そこで一方的に通達された。

 「店長!なんでですか!?俺何も失敗してない!」

 店長は困った顔をしていた。

 「お前はよく働いてくれた。だがうちの事情も分かってくれ」

 このパターンは知っている。アスアはここで働く前もすでに6か所、一方的にクビになっていた。このパターンは・・・。

 「店長、娘さんのためですか?」

 静かに、荒ぶる想いを伝える。店長は何も言わなかった。

 「俺の事情を一番理解してくれてるのは、店長だと思ってたのに」

 まともな教育も受けていない、そんな頭で考えうる最高の皮肉を込める。

 「店長は、娘さんのために俺を切り捨てるんですね」

 店長は怒らなかった。従業員にそんなことを言われる怒りより、そうしなければならない悲しみが勝ったという様子だった。

 「分かってくれアスア。お前がいなくなったら、この店はたしかに大変になる。今でさえ、お前はこれっぽっちの給料でよく働いてくれてる。でもなアスア、私が死ぬほど働いて、仮に死んだとしても、娘には金を残したいんだ。少しでも多く。娘が、もしくはまだ見ぬ娘の子が、『手術』を受けられるように!」

 店長は涙を流した。

 「分かってますよ。そういうことだってことは」

 身を翻し早朝の帰路に立つアスアに、「済まない」と一言、聞こえた気がした。


母さんは何も言わなかった。眠っているのだから当然である。この貧困世界では、家があるだけマシな方だった。強盗や殺人はすぐ見つかるような世界で、家が荒らされないということは有り得ない。だから、生活リズムを変えて家を見張る。だから、眠れる見張り番を一応は置いているのだ。

荒ぶれた感情が落ち着いていく。穏やかとは少し、違う。

母は娼婦である。家庭を守る、すごくいい母だと思う。女は娼婦ぐらいしかやれることがない。汚らわしいと思ったことは一度も無い。

閑散とした家を見つめて、父は今頃働いているのかと思いを馳せながら、メッセージを記した。木に彫ったメッセージを。

----------------------

父さんへ

俺は、この世界はやっぱり間違っていると思う。クビになるたびに本気で喧嘩したけど、俺はもう耐えられない。俺たちは生きているのか?母も父も、そして俺も、命を繋いでいるだけで、何も前には進んでいない。生きている感覚は、死を感じた時に感じるだけだろう?


 母さんへ

 俺がいないことで、二人が暮らしやすくなってくれると嬉しい。二人が俺のために食事も削ってるってこと、分かってるよ。少しは飯を食ってくれ。そして、いつか二人を救うから、待っててくれ。


二人は反対していたけど、俺は「エアジエル」に入る。

危険なのはわかっているけど、俺たち家族だけじゃなくて、この世界は続いているだろ?

立ち止まっていても、何もない。それどころか苦しいだけだ。

前に進むってこと、一生のお願いだから、認めてくれ。

また帰ってくる。ありがとう。


アスア

------------------------



エアジエル。貧困世界に存在する秘密結社。現在この世界には、2つの人種があり、そのうち片方は日常的に犯罪を企てる。貧困層によるいわゆるテロだ。しかし、大規模になればなるほど、それが成立したことはない。なぜなら、もう片方の人種は極めて知能が高く、圧倒的な技術力をもってそれを未然に察知し、犯罪の計画を実行に移す前に完全なる対策をいつも打ち立てるからだ。しかし、そこに一筋の希望か野望か、望みを抱くのならばのエアジエル。世界転覆を企てているという噂だが、誰もその実態は知らない。



 夕暮れ時に道を歩いていると、横から走ってきた一人の青年にぶつかった。

 「どけクソガキ!!」

 ガキ?年もそう違わないだろう者の発言に苛立ち、掴みかかった。

 「ふざけんなよ、『クソガキ』」

 「あ?どっちがふざけてんだコラ?」

 青年は拳銃を取り出し突きつけた。

 「そういう手合いか。許してください。まだ死ねないんです」

 「あ?まだって言ったか?」

 アスアは訝しみながら「そうだ」と答えた。

 「ちょっと来い!」

 青年は向かっていた方向に俺を引っ張って行った。



 「お前、名前は?」

 武器を持ってるからって立場が上だと思ってる手合いは嫌いだ。同じ人間でも、努力もせずにもともと能力という武器を持ってるからって立ちふさがる『アイツら』のようだから。

 「アスア。お前は?」

 廃屋の陰で話している最中、この男はずっと辺りを警戒している。

 「俺の名は教えない。それより、まだ死ねないってどういうことだ?」

 「ふざけんな。ならお前に語ることはなにも無い」

 また銃を突きつけた。

 「ふざけんなはこっちのセリフだ。いいから言え」

 「いい加減にしろ。誰だお前?撃ちたきゃ撃てよ。その音で周囲にお前がいることが気づかれるならそれでいいんだ俺は」

 青年は俺を睨んできた。

 「頭いいんだな。俺はガルト。さあ、お前も質問に答えろ」

 アスアは警戒しながらも、経緯を話した。

 「なるほどな」

 「俺に銃を向けんな。別にお前をどうこうする気は無い」

 ガルトと名乗った青年は、少し間をおいてからこう切り出した。

 「悪いが、今俺はお前を消しておきたい。だが、必要でもある。そこで提案だ。お前、エアジエルに行きたいって言ってたが、当てはあんのか?」

 「お前には話さない」

 「そうか、なら話さなくていい。だが、お前急いでるようでもなさそうだが、そこんとこはどうだ?」

 「さっき言ったろ。急いでる急いでないの問題じゃない。俺はこの世界を・・・」

 「なら決まりだ。俺はこの銃をしまい、お前にはもう向けない。その条件として、一日俺に同行しろ」

 「お互いになんの得があるんだよ」

 「それは俺もお前には話さない。いいだろ?一日ぐらい。飯は俺がくれてやるよ」

 よく考えればそれはメリットだった。アスアは金目のものは全て家に置いてきたし、職もなければ食は無いという状況だった。

 「分かった」

 「よし。ならここを離れるぞ」

 「どこへ行くんだ?」

 「いま人を探してるんだ。そいつに逃げられちまってな」

 「へえ」

 特徴を一しきり語られたあと、とりあえずガルトについていくことにした。


 夕暮れ時になっても、捜索は続いた。

 「ガルト、見つかるわけねえって!この貧困街には腐るほど人が溢れてる!一度はぐれたら見つけるのは無理だ!」

 「そうはいかねえんだよ!逃がしたら俺は殺される!」

 しまった、という表情をしたガルトを、アスアは見逃さなかった。

 「殺される?」

 「なんでもねえよ、行くぞ!」

 ガッチリと腕を掴んだ。

 「どういうことだ?殺されるって」

 「この辺じゃ日常茶飯事だろうが!俺はどう見たってその辺のゴロツキより見てくれはいいし、マフィアやらヤクザやら、なんらかの組織に属してんのはお察しの通りだよ!満足か?」

 腕をふっとほどいた。

 「やべえな、日が暮れやがった。俺は上司に連絡を取る。お前はここで待っとけ!」

 日が暮れても、貧困世界は騒々しい。常に働く必要があるからだ。今頃、母親は仕事に向かっているだろうか。今日一日、ガルトと出会ってから一人の時間が無かった。今もすぐそこで俺の方を見張ってはいるが、一人思案する時間。いつもだったら、あの働き口で仕事を終える時間だ。もしくは、仕事を探し回ってる時間だ。

 その時だった。夕焼け空ではない赤い空が目に走る。立ち尽くす一人の時間と空間に不穏な空気が漂った。



 気づくと、多くの見物人の一人になっていた。炎上する建造物を前にして。

 地面に伏した脚が立つことを忘れた。頭は飾りであると言うばかりに思考を止めた。

 「なんで・・・」

 どれぐらいここにいたのかも分からなくなった頃、口から滑り出た言葉だった。

 燃え盛る自分の育った家は、心をも焼き尽くした。

 「なんで・・・どうして・・・?」

 思考の歯車が揃い始める。

 「おい待ってくれ!どけ!」

 人ごみをかき分けていくと、そこには警察がいた。

 警察は富裕世界の中でも厳しいテストに受かり、たくさんの研修を積んだ者しかなれないエリート中のエリート。彼らは小隊で貧困世界の街区一つを消すほどの装備とスキルを持っている。尋常じゃない数の貧困層のごたごたには普通干渉しない。「保安隊」と呼ばれる、富裕層から承認された貧困層の保安官が細かいいざこざは取り扱っているが、無論、これだけ横行している犯罪を取り締まるなんて彼らには不可能である。

 「おい!どけ!どけお前ら!!」

 薙ぎ払う手が突然、掴まれた。

 振り返ると、黒いローブのようなものを纏った大きな男がいた。

 「来い。アスア。お前を待っていた」

 名前を知っている?近所の人じゃない。今までの働き口の関係者でもない。その客でもない。誰だ!?

 「誰だ、アンタ?」

 「俺の名はウエイヴ。すぐに来い。お前はここにいちゃいけない」

 ガルトの時とはまるで違う。名を交換しただけなのに、すぐに付いていきたくなった。

 「警察に俺のことを伝えなきゃ!」

 「その警察に近寄ってはダメだと言ってるんだ」

 冷気を纏ったような漆黒の瞳が、反論や抵抗を全て吸い込んだ。

 「分かった」

 そのまま男に付いていった。


 すぐ近くの路地裏で、ウエイヴは歩みを止めた。

 「あそこはお前の家で間違いないな?」

 「ああそうだ。あんたは?」

 「俺はウエイヴ。それ以上のことは言えない。だが、俺以外のことなら話せるぞ」

 「なんだよ、それ?」

 「さっきの、疑問だ。お前のな」

 混乱している思考の糸をほどくように、再び声に出す。

 「どうして、こうなった?」

 そうだ、と言わんばかりに、ウエイヴは語りだした。

 「お前の母の仕事は?」

 いきなり答えづらいことを聞いてきた。

 「言いたくない」

 「じゃあ父の仕事は?」

 「父は工場で働いてる」

 「どこの?」

 「ここから4街区行ったところだ」

 「行ったことは?」

 「無い」

 「何を作ってる?」

 「知らない」

 「お前、それで何を知ってるというんだ?」

 息が上がる。見知らぬ赤の他人が、なんでこうもいけしゃあしゃあと。

 「お前こそ、両親の何かを知ってるのか?知らないならアンタに用は無い」

 「俺が知ってるのはお前の両親の本当の仕事、そして殺された理由だけだ」

 殺された。こいつはたしかに今、そう言った。理由まであるのか?そうでなければ『警察』は来ない。何か、重大な鍵を握っているのは間違いない。

 「お前、何者だ?」

 「俺のことは答えられない」

 「両親のことを教えてくれ」

 「貴様、大人への言葉遣いがなっていないようだな?」

 急にガシッと頭を掴まれ、改めてこの男の大きさを思い知った。太ってはいないし、痩せてもいない。しかし筋肉質だ。そして身長も180cmはある。貧困世界ではまず見ない身長だ。

 「アンタ、富裕世界の人間か?」

 「言葉遣いに気を付けろと、警告したはずだ」

 ウエイヴは銃を突きつけた。一日で二人にやられるとは。

 「分かった。悪かったよ。教えて下さい。両親に何が?」

 またもそうだ、と言わんばかりに銃をしまいとつとつと語り始めた。

 「お前の両親の経歴は、俺もある程度知っている。表向きのも裏のもな。お前の父は第4街区18番工場で紙を作っていた。次にお前の母は娼婦として第3街区の『カル』で働いていた。そういうことになっている」

 続けろと言わんばかりに黙りこくった。

 「だが、お前の両親は本当は『秘密結社エアジエル』の一員だった」

 目を大きく見開いた。俺が散々加入を望んだ組織!そして何度も反対された組織!!

 「どういうことだ?」

 「アイツらは秘密結社エアジエルの一員として、富裕世界の諜報活動をしていた」

 「ああ、それで?」

 「しかし、アイツらの言わばスパイ活動は向こうの警察に筒抜けだったようだ。お前も知っているだろう?アイツらの知能は俺たちと根本的に違う。そしてセキュリティも、俺たちの抑止力も、たくさんの見せしめで分かってるはずだ」

 いよいよ現実味を帯びてきた話に、まだ頭はついていけていなかった。

 「そして警察によって殺された。家が焼かれたのは、秘密結社としての活動記録、及びそれによる富裕層の住民への影響を恐れたからだ。今やエアジエルの名は奴らにとっても無視できない存在になりつつある」

 「どうして、殺す必要があった?」

 「お前の両親だけじゃない。世界転覆を企てる輩はみなそうされてきた」

 「世界はなんで、俺たちを助けてくれもしないくせに、文句を言えば命まで奪う!?」

 「夜にこうして灯りがあるのも、必要なインフラも、整え、そこに住まわせてるのは世界政府だからな。最低限の救済はしているという建前がある。水も止められたら終わりだ」

 「だから何だ!?人殺しを正当化するアイツらが、正しいっていうのか?」

 「無理にでも落ち着け。お前の両親のやろうとしてたことの方が規模がでかい。エアジエルが本気で転覆に向けて動き出したら、紛争なんかじゃ済まされないぞ?分かっているのか?たくさんの人が死ぬ。だからお前は責められない」

 「両親の仇だ。感情で人は動く!!」

 「アイツらは感情の安定もすでに俺たちとは比べ物にならない。奴らはそうはしない」

 「だったら・・・!!」

 言葉を発せないほど息が上がっていた。

 「落ち着け。そこでお前に提案がある」

 血走った眼でウエイヴを見上げた。

 「エアジエルに入らないか?」

 唾を飲み込み、服を掴んだ。

 「俺は、エアジエルに入るために家を出ていた!」

 今度はウエイヴが聞き手に回る。

 「だから、拒否する理由はない!」

 言葉が続かない。現実を受け入れるほどに、頭が冴えるほどに、感情が頬を伝う。

 「俺は、両親が死ぬ、なんて、思ってもみなかった。俺は、死ぬ覚悟だって、できてた!でも、こんなのって・・・」

 「俺はお前を慰めに来たんじゃない。次の道を示しに来ただけだ。甘えたことを抜かすやつはエアジエルにはいない。さっきも言ったが、世界政府の力は強大で、情報網も尋常じゃない。今まで大犯罪と呼べるものが起きていないのも、全て未然に防がれているからだ。皮肉だが、感情の安定だけでも俺たちは奴らに近づかなきゃならない。親から作られた天然の、人間の、頭でな。頭で制御するんだ。己を」

 「ちょっとだけ時間をくれ」

 数十分経ってしまったかも知れない。男は何も言わずに待っていた。

 「俺は、エアジエルに入ります」

 「分かった。なら行くぞ」

 「どこへ?」

 「この支部のアジトへだ。お前は俺が担当し、一緒に今後行動する。いいな?」

 「はい」

 こうして、俺は秘密結社へ参加をすることになる。世界に散りばめられた謎を集め、『天才』たちと戦うために。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ