緊急事態
気が付くと、またベッドに転がっていた。トドロキさんとの会話の後、最初に目覚めた部屋とは違う部屋に連れてこられたのだろう。軍の宿舎とさほど変わらない部屋で、ベッドや机などの当たり前の家具だけが置いてあった。
これからどうするべきかを寝転びながら考えるが思いつかない。帰ってどうするのか、ブラックモアにトドロキおじさんがいたことを父に伝えても何かが変わるのか、このままここに残って、WEの敵として父と対立してどうするのか、それ以前にトドロキおじさんの話を信じられるのか等全く整理がつかない。確かに、トドロキおじさんの話は一つの線として通っていた様な気がした。だが、それを真に受けるには自分の考えを全て捨てなければならない。WEが悪で、ブラックモアが善。世界は平和ではない。自分の住んでいる世界は作られた閉鎖された空間でしか無いのか。
考えれば考えるほど嫌になってくると頭をかきむしる。自分が軍に入った理由はなんだろう……、自分が今望んでいるのはなんだ……。
『緊急!緊急!至急メインフロアに集合せよ!メインフロアに集合せよ!』とアナウンスが流れる。緊急事態とはなんだろうか、頭で考えていたことをひとまず置いておき、部屋のドアから外に出た。部屋のドアはカギが掛かっていない。廊下を見渡すとブラックモアの隊員が大急ぎで階段を駆け上がる。その後を付いていき、メインフロアと呼んでいた場所についた。そこには何十人もの黒い制服に身を包んだ隊員が列を成し、正面のトドロキおじさんを仰ぎ見る。自分はその列の一番後ろに並んだ。
「緊急で召集してすまないね。ただ、状況は芳しくないんでね」とトドロキおじさんは言う。
「状況が芳しくないとは?」
「単刀直入に言うと、第5地区にある基地が乗っ取られた」とトドロキおじさんの隣にいた金髪の男が言うと、隊員がどよめく。
「本当ですか!?」「それはヤバいっすね」などの声がそこらじゅうから聞こえた。
「ああ、ついさっき第5地区の回線で機構の連中が通信を送ってきた。『本部は占拠した。武器を捨て投降せよ』とのことだ」
「第5地区の基地が占拠されたらまずいんですか?」と近くにいた隊員に聞いた。
「まずいもなにも本拠地は第5地区だったから本部を取られたも同然なのよ。しかも、EXISTAの製造ができたのもあそこだけだったからこちらの戦力の半分は止められたって言っても過言じゃないわ」
「え? EXISTAってWEから盗んだものだけじゃないんですか?」
「当たり前でしょ? まず機構のEXISTAなんてクズ鉄で使えたもんじゃないの。だからデータだけを回収してフルモデルチェンジするのよ。ってそれもここに入る時に説明されたはずでしょ? ってなんで4の息子がここにいるの!?」と女性隊員がこちらを見ると驚いていた。
「ジーナうるさいぞ!」と隊員全員がこちらに振り返り、自分の存在を隊員が気づいた。
「なぜお前がここにいる?」と隊員たちに囲まれる。
「いや、その緊急事態とアナウンスが流れたので何事かと……」
「お前には関係ないだろ?さっさと出ていけ!」
「そうだそうだ!」
「はい、もう今それをする暇ないから」とトドロキおじさんが制止した。隊員全員が渋々前を向き直す。
「話を戻すんだけど、この事態を招く原因は私にあるだろう。ずっと第5地区にいればこのような事にはならなかったかもしれない。それなのに第4地区に来ていたばっかりに本当に申し訳ない」とおじさんが頭を下げる。
「いや、ボスのせいではないですよ」「第5地区を奪還しましょう」と隊員がフォローをする。
「それってブラックモア内に内通者がいるってことですよね?」と自分は発言した。
「お前、もう一遍言ってみろ?」と再び隊員たちが振り返る。
「いや、だから内通者がいて第5地区ががら空きって伝えたから襲撃されたってことですよね?」
「お前、ここに裏切り者がいるって言いたいのか!?」と胸倉を掴まれた。
「アンタたちだってWEに潜り込ませているんだからそう考えるのが妥当です」と腕をほどく。
「てめえ」と何人かの隊員が臨戦態勢に入り、自分も構えた。
「やめないか!」とおじさんの隣の男が叫ぶ。
「確かにリオン君の考えが妥当かもしれない。けどね、今犯人捜しする暇はない。もちろん喧嘩する暇もね。とりあえず第5地区奪還作戦を決行する。メカニックは今あるEXISTAの整備、戦闘員は30分後にブリーフィングルームに集合。後、リオン君は前に来てくれるかな?」と言い緊急集会は解散となった。
「トドロ……」
「その名前は控えてくれるかな? 一応私はいない存在だからね。それに今みたいに機構をあんまり良く思っていない連中も多いから元地区長と知られるだけで亀裂を生みかねない」
「すみません」
「いや、謝ることじゃないよ。それよりも君はどうするんだい?」
「それは……」
「残ることが出来ないなら、ここで基地から出ないと第5地区に行くことになるから渋るのはやめてくれるかい? 決断できないなら残念だけど置いていくよ」
「あ、あの……」
「なんだい?」
「つ、付いていきます」
「そうかい、なら後でブリーフィングルームで会おう。その前の時間でVRシステムでEXISTAの操作の勉強をするといい。機構と違ってこっちはマニュアル操作だからね。短時間でも慣れてほしいし、ジーナに向かわせるからさっきにいた部屋で待っててね」
「わ、わかりました」とトドロキおじさんと別れた。
なぜ、付いていくと言ってしまったのだろう。ただ、言ってしまった以上は必死に食らいついてやる。