第三話 火柱と名前と晩御飯と
「事実は小説より奇なり」という言葉はあるが、本当にそうだと思う。
「ここはどこ?」「私は誰?」は記憶喪失の定番中の定番の台詞である。
言い回しこそ違う物の、まさか自分がそれを聞く事になるとは夢にも思わなかった。
それも異世界で……である。
「一葉……どうしよう……記憶喪失っぽい……」
「……よし、放って行こー。」
「そんな訳にはいかないでしょ……。」
言葉の通じていないらしい一葉にも伝えるとすぐさま放置を決定した。
まぁ、記憶喪失の人物への対処など私も知らないし、しょうがないのかもしれない。
馬車が落ちてきた事や馬車の傷付き具合等を考えれば何らかの厄介事も抱えている可能性が高い。
この世界の常識やら何やらを教われるのなら……とも考えていたが、別に無理して、この人物から情報を得る必要性も無い。
そんな感じで一葉と話していると記憶喪失の男が頭を下げていた。
「……すまない。それと、ありがとう。」
どうやら、私が一葉と話してる間に自分の身に起こった事をある程度、整理していたらしい。
その結果の謝罪と礼である様だ。
「……異人の貴女方に頼むのも気が引けるのだが……街まで連れて行っては貰えないだろうか?」
そう言って男は再び頭を下げていた。
騎士っぽい身なりをしていた割りには腰の低い人物である。
あるいは記憶喪失だからこそなのかもしれないが。
それとほぼ同時だろうか。
私の感覚に警戒すべき気配を感じた。ゲームの時と同様の感覚だった為、すぐさま反応する。
続けて何かを言おうとした男を遮り、その手を取ると、一葉にも付いて来る用に言って私達は急いでその場を離れるたのだった。
十分、離れたかなといった辺りで背後から轟音と共に大きな火柱が上がっていた。
振り返った私以外の二人は呆然としている。
私だって、ここまでの事をするとは思わなかったが、何かが起こると分かっていた分、心構えは出来ていた。
「状況から考えるに、どうやら俺は、あんた達に助けられた様だな。それも二度も。」
しばらくして男が声を掛けてきた。
状況判断能力は悪く無いらしい。
混乱していれば、私達を襲撃者の仲間と勘違いする可能性だってある。
まぁ、火柱のおかげという気もしないではないが。
よく考えると見捨てようかと考えていたはずだが、つい連れて来てしまった。
流石に、今更見捨てると言う訳にもいかないだろう。
「助けられた身で、厚かましい願いではあるが、改めてお願いしたい。近くの街まで連れて行っては貰えないだろうか?」
そう言われても近くの村や町がどこにあるか知らないのだが……。
素直にそれを告げると、それなら……と元々馬車の向かっていた方角へと進んでみる事になった。
まぁ、それも明日以降の話である。
今日は既に日も落ちているので、もう少し離れた場所で野宿する事にした。
山火事は怖いが、近付く訳にもいかないのだ。
十分に距離を取れたと判断した辺りで、野営の準備を開始する。
野営道具を取り出していると随分と男が驚いていた。
「……これは……見慣れないものですね……。」
とは、男の弁である。
まぁ、純和風な大戦国ONLINEの道具類はどうしたって西洋風な感じのこちらとは趣を異にするだろう。
「ええっと……。」
「あぁ、そう言えば名乗ってもいませんでしたね……とは言え名前も覚えていないのですが……。」
声を掛けようとしたが、よく考えると名前も知らなかった事を思い出す。
さすがに、このままでは呼ぶのにも不便なので適当に名前を付ける事にする。
「そうね……あなたの名前は、これから『成実』よ。」
「シゲザネ……ですか?」
「そ。まぁ、私たちの国で有名な戦士の名前よ。」
「……思いっきり趣味で付けてるよねー。それー。」
一葉に突っ込まれたが気にしない。
戦国武将、伊達成実から取っているが私たちの世界の人間で且つ戦国時代に詳しくなければ気付くまい。
「分かりました。これからは『シゲザネ』とお呼びください。」
男―――シゲザネは満足そうにそう告げると、続けた。
「それで、何かご用だったのでしょうか?」
「あぁ、野営の準備なんだけど……薪になりそうな枝とかを集めてきて貰えないかな?と思ってね。」
別に私たちで全部済ませてしまっても良かったのだが、手持ち無沙汰にしているシゲザネを見て手伝ってもらおうと考えたのだ。
「分かりました。では、行ってきますね。」
そう言うと、シゲザネは森の中へと入っていった。
シゲザネが薪を集めに行ってる間に、私たちは晩御飯を作っておく。
と言っても、術技任せだったりするのだが。
「おー、【料理】も普通に使えるんだねー。」
「使えなかったら面倒だったから助かったわ。」
別に料理が出来ない訳じゃないのだが、現在道具箱の中にある食材はゲーム内で入手したものばかりだ。
当然、現実には存在しない様なものも含まれる。
そういった物を普通に料理して、食べられるのかは疑問だ。
なら、やはり【料理】の術技に頼るべきだろう。
普通に料理するより時間が掛からないのも大きな利点である。
火が必要そうな料理でも火を使わずに料理できるのは【料理】術技の最大の謎かもしれない。
「適当にお腹が膨れそうなのにするね。」
「りょーかいです!料理長!」
巫山戯ながらも、すぐに晩御飯の準備は完了した。
ゲームの頃よりは時間が掛かったが、普通に料理するよりは時間が掛からなかった。
この辺は他の術技でも試してみる必要があるが、流れる時間の速さの違いだろうか。
「効果時間も要確認……かな?」
「まー、いざって時に困るよりは早めに確認しといた方がいいのかなー。」
改めて術技の確認の必要性を感じつつ、シゲザネが帰ってくるのを待って晩御飯を食べる事にしたのだった。




