第二話 惨状と薬と異世界人と
音がしたと思われる方へと向かっていた私達だったが、しばらく行くと正解だったのだろう事は分かった。
砂埃が凄いのである。
ガラガラと音を立てて崩れていた物のせいだろう。
「何かあるいは誰かが落ちてきてたとして……無事かなぁ?」
隣を歩く一葉が呟く様に言ったが、随分な量の石や岩が見えはじめると確かに一緒に落ちてきたかもしれない物や人が大丈夫とは言い切れない気がしてきた。
「ま、まぁ、道具類は使えるみたいだし、どうにかなる……はずよ……」
道具類が使えるから怪我してても大丈夫かと思ったが、よく考えてみれば私達には使えても、この世界の人に使えるとは限らないかもしれない。
似た様に見える生き物でも成り立ちや環境が異なれば身体の構成も異なる可能性がある。
生物は進化するものである。
例えば魔法が使える世界なら、それに適応して身体の器官が作られているかもしれない。
私達にあって、この世界の人に無いもの。逆に、この世界の人にあって、私達には無いもの。
そういったものがあるかもしれないのだ。
そんな差異を考えれば、私達にとっての回復薬が、この世界の人にとっても回復薬になるかは疑問符が浮かぶ。
まぁ、元がゲーム内の道具だったのだから、その辺のところは曖昧かもしれないが。
そんな事を考えていると、音のしただろう現場へと到着した。
「……これは。」
酷い惨状であった。
落ちてきただけで、ここまで傷付く事のだろうかと思える程に傷だらけの馬車に、既に息絶えている馬っぽいものが二頭分。
そして、西洋の全身鎧の様なものを来た人物が倒れていた。
「……生きてると思う?」
「微妙なところだねー。」
元は立派だったかもしれない全身鎧だった様なものは辛うじて原型が分かる程度でほとんど砕けていた。
辺りには、この鎧のものだったと思しき金属片が多く散らばっている。
材質は鉄だろうか。
「……うぅ。」
私達が近付くと鎧を着た人物は呻き声をあげた。
辛うじて生きている様だ。
「……とりあえず、どうしようか。」
意識の有無は確認してみたが、どうやら意識は無く、意識を取り戻す気配も無かった。
効くかどうかは分からないが回復薬は手持ちにあるのだが……飲用するタイプの薬な上、丸薬なのである。
このままでは意識が無い人物に使う事は出来ない。
あるいは液体ならばゲーム内では無理だったが身体に振り掛ける事で効果を表す可能性もあっただろうが、大戦国ONLINEの薬類は固形の物ばかりだったりする。
「磨り潰して水に溶かして掛けたら効果出ないかな……?」
「どうだろうねー……物は試しだし、やってみようかー?」
一葉が道具箱から薬類を扱うのに使う道具を取り出し完成品の薬を磨り潰していく。
実際の忍者がどうかは知らないが大戦国ONLINEでは忍者は薬品のエキスパートでもあった。
そのおかげでゲーム中、回復薬等で困ったことは無い。
「ん、後は水に溶かすだけー」
元々、薬類の作成には磨り潰し作業も必要だったせいか、薬の磨り潰しはすぐに終わった様である。
「じゃあ、水に溶かして振り掛けてみるね。」
私は一葉から受け取った粉末状になった薬を水に溶かしてから鎧を着た人物の露出している肌の部分に振り掛けてみた。
振り掛けた時に、微かに「うっ」という埋めきが聞こえた気もするが、見た感じ振り掛ける前と変わっている様には見えなかった。
「んー、やっぱり元々服用薬だからねー……。振り掛けるのじゃ効果無いのかもー。」
「それもそっか。」
「まぁ、固形じゃ難しかったけど、水に溶かした今なら、経口摂取も出来なくは無いんじゃないかなー?」
ゲームであれば曖昧だったりもするものの、現実であると考えればやはり薬の摂取方法も薬に合わせて変えなければ効果は無いのかもしれない。
あるいは、ゲームであった時には即効性のあった回復薬だがこの世界では効果が現れるのに時間が掛かる可能性も考えられる。
最初に考えた様に、そもそもこの世界の人には効果が無い可能性もある。
改めて考えてみると、道具が使える事こそ確認していたが、その効果がどれほどなのかは全然と言っていい程、調べていなかった。
鎧を着た人をある意味、実験台にしていると考えると少し申し訳なく思わないでもない。
後で自分たちでも実験してみないといけないなぁと考えつつ水に溶かした薬を鎧を着た人の口へと注いでみる。
僅かに喉が鳴ったと思った次の瞬間の変化は劇的だった。
あっと言う間に露出していた肌に見えていた傷口が消えていき悪かった顔色も良くなっていた。
最上級レベルの薬を元にしたせいだろうか。
「効いたねー。」
「そうだね。効かないかもしれないって言うのは杞憂だったかな。」
「あははー、そんな事考えてたんだー。かなっちは心配性だねー。」
軍師なんてやってると心配性なぐらいが丁度良いと思う。
度が過ぎると失敗するので、匙加減が難しいが。
「とりあえず、さっき思ったんだけど、道具が使えるのは確認したけど、どの程度使えるかまでは確認してないじゃない?」
「そだねー。」
「早めに確認しておいた方がいいと思うのよね。という訳で確認しましょう。」
「あははー、分かったよー。」
そんなこんなで、二人で手持ちの道具とついでに術技についてを確認していく事にした。
孫子の兵法にもある通り、自分たちが何が出来るのかを知らなければ、いざという時に困るだろう。
確認作業は、鎧を着た人が意識を取り戻すまで続けていた。
さすがに全ての確認が出来た訳では無かったが、残りは追々やればいいだろう。
「……ここは……?」
鎧を着た人が意識を取り戻しての第一声は場所を問うものだった。
場所について聞かれても私達も知らないので答えようがない。
それよりも、言葉が理解出来る事の方に驚いた。
ここが異世界であると考えれば、普通は言葉が通じる可能性など皆無に等しいだろう。
言語とは地域に根ざして発展するモノなのだから違う場所に行けば言葉の成り立ちも違うはずである。
それこそ、誰かが伝え教えた等ということがなければ。
なぜ分かるのだろうかと考えていると、一葉がこっそり耳打ちしてきた。
「……何言ってるか分かるー?私にはさっぱりだよー。」
言葉が分かるのはどうやら私だけらしい。
何故かと考えてみると答えはすぐに出た。
大戦国ONLINEにあった常動系術技(他のゲームで言えばパッシブスキルとかに該当するだろうか)の一つに【翻訳】というものがある。
文字通り言語を訳する術技なのだがゲーム中でも、それこそ南蛮人と接する機会が無ければ取らないだろうと言われている不人気な術技の一つである。
私の場合、軍師系の術技の中には南蛮人から習得しなければならない物もあった為に取っていたのだが、それの効果だろう。
「……【翻訳】のおかげか分かるみたい。」
「じゃあ、お話は任せたー。」
小声でそんなやり取りをしたが、果たして会話出来るのだろうか。
相手の言葉は理解出来るが、私の言葉を相手が理解出来るかは不明だ。
まぁ、試してみれば、いいだけか。
開き直った考えをしていると私達のやりとりが聞こえたのか鎧を着た人は、いつの間にかこちらを向いていた。
「……俺は……誰だ……?」
そして、洒落にならない言葉を発したのだった。




