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第一話 森と胸と轟音と


「ねぇ、ここどこだか分かる?」


私は地面に転がっていた一葉に聞いて見る。


「んー?変な事聞くのねー。そりゃあ……って、ありゃ?どこだろうねぇ……ここ。」


一葉は最初こそ、当然とばかりに現在地を言おうとした様だったが、辺りを見て首を傾げた。

二人で改めて辺りを見てみたが見覚えのない木々ばかりが生い茂っているのが確認できただけだった。


如何にゲームとは言え、大戦国ONLINEのベースは日本の戦国時代である。

木々にしたって、現実に見慣れた物が大半だったはずだ。


「きっと、かなっちが私を投げたりしたからバグったのよ!」


「そんな訳無いでしょ……」


唐突にゲーム内バグ説を持ち出す一葉だったが、ちょっと投げたぐらいでバグったりしてたら合戦なんて、とてもじゃないが出来ないだろう。

ちなみに、かなっちは、一葉がゲーム内で私を呼ぶ時の愛称だ。


「まぁ、一葉の馬鹿な発言はともかくとして運営に報告かな?」


「それが妥当なとこだねー。」


なんらかの不具合であるなら報告しておけば、すぐにでもなんらかの対応がされるだろう。

だが、報告の為にメニューを開こうとした所で手が止まる。


「あれ?メニューが開かない!?」


「えー?そこまで致命的にバグっちゃったわけ?」


一葉は『バグ』と言うが私は嫌な予感がした。


見知らぬ場所……


開くはずの開かないメニュー……


昔読んだ小説の中に似た様なシチュエーションがあった気がする。


「……まさか、デスゲームだとか異世界だとか言わないわよね?」


「あー……状況的には、ぴったりだね。でもデスゲームなら、アナウンスとかあるはずだし、どっちかで言えば異世界の方じゃないかなー?」


私に比べて、一葉は幾分落ち着いている様に見えた。


「なんだか、随分落ち着いてるのね。」


「慌ててもどうしようも無いしねー。それに……」


最後の方は聞き取れなかったが、そう言った一葉は、近くの樹木から葉をむしり取っていた。


「……ゲームの中じゃ無い可能性を多めに見積もった方がいいかなー。」


確かに如何にVRMMOがある程度、現実を再現していると言っても、ゲームに関係無い部分についてまでは再現しきってはいない。

だから、本来なら樹木から葉を取ると言った様な行動は出来ないはずなのだ。

にも関わらず、それが出来たということは、ここがゲームの中では無い可能性が高い事を示していた。

僅かながら、知らない間にアップデートがあったとかいう可能性はあったとしても。


「ふむ……」


しばらく手の中で木の葉を弄っていた一葉は少し思案顔になったかと思うと、すぐに、こちらを向いて非常に楽しそうな笑みを浮かべた。


「ど、どうかしたの?」


その友人の笑みに私は思わず一歩後退っていた。

理由は分からないが今すぐ逃げ出した方がいい気すらする。


「や、別にー?」


返す言葉とは裏腹に徐々にこちらへと向かってくる。

そして、あっと言う間に距離を詰めたかと思うと、いきなり私の胸を鷲掴みにしていた。


「おぉ、柔らか……。」


「や!?ダメ!!」


ゴスッ!


「わ、我が生涯に一片の悔い無し……ぐふっ。」


ゲーム内では起こり得なかった行為と感触に思わず一葉を本気で殴り飛ばしていた。

しかし、ネタを口にする辺りまだまだ余裕そうである。


「ま、まったく、いきない何するのよ!」


「いや、ほら、ほんとにゲーム内か、それとも現実かを判断する材料として……ね?」


「自分の胸で確かめればいいでしょ?!」


大戦国ONLINEに限らず、VRMMOでは性的な部分に関する規制は厳しい。

当人ですら直には触れる事の出来ない様になっているぐらいだ。

なので、判断するためだけなら自分の胸に手を当てるだけでも十分だったりする。


その辺りを含めて、たっぷりと時間を掛けてお灸を据えて置く。

ともあれ、それらを終えてから、漸く自分たちの置かれている状況の分析を始めたのだが、その頃には日も暮れようとしていた。

ちょっとどころじゃなく遅くなってしまった気がしなくもないが、お灸を据えるのは必要な事だったのだから仕方ない。


当面、ここが異世界だとして行動する事にした。

だが、今から移動しても、村や街に辿り着けるかは分からない。

そもそも、近くに村や街がある保証も無いのだ。

幸いにして、ゲーム内での道具箱(他のMMOで言えばインベントリに相当する)と、その中のアイテムが使えた為、野営の準備は簡単に整った。

ゲーム内で態々、野営とか面倒なと思っていたけど、今だけは感謝しようと思う。

火をおこして晩御飯を食べながら今後の方針についてを話し合う事になった。


「とりあえず、人のいる所へ……じゃないのー?」


「それはそうなんだけど……」


まず人のいる所へ向かうのは当然だろう。

とは言え、人がいるかどうかすら定かではないし、文明レベルも不明なのがネックだろうか。


「まず、人がいるかどうか。次に人がいても文明レベルが低すぎたり高すぎても問題ね。」


「確かに人がいないなら考え自体が無意味だけど……文明レベルの高低って関係ある?」


「低すぎれば私達自身が神の使いとかに間違われかねないし、高すぎれば私達が奴隷かそれに類するものにされかねないわ。」


「……考えすぎじゃない?」


「だといいんだけどね……」


一番いいのは私達より少し文明の劣る程度の文明圏だろうか。

その点で言えば、よくある異世界物に出てくる中世頃の文明圏が理想的なのかもしれない。

異世界物の物語でよく貴人の馬車を襲う盗賊を撃退するシチュエーションが出てくるが、人と出会え、且つ文明レベルや文化形態が分かると言う点であのシチュエーションは優秀なのかもしれない。

だからこそ、私がこう言い出したのは必然だったのかもしれない。


「襲われてる馬車でも降ってこないかしらね……。」


だが、その後に起こったことは偶然だと思いたい。


「そんな馬鹿な事あるわけ……」


ガラガラガラ……ゴッ


ないでしょ……とでも続けようとしてたのだろう言葉は、突如響いた何かが崩れた様な音とその後に続いた鈍く大きな音の前に潰される。


「……まさかよね?襲われてた馬車が落ちてきた?」


半信半疑と言った感じで言葉に出したが馬車が落ちてきた様な気がしていた。

音の発生源は森の奥、暗いながらも木々の上に切り立った崖が見える方向だろう。


「何が出来るかは分かんないけど、行ってみる?」


「……そうね。人がいれば状態に関わらず情報にはなるでしょうし。」


一葉の問いに対してそう答えると、簡単に支度をしてから音のした方へと向かって行く事にした私達だった。


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