それは、臆病で打算的な、
昔書いたやつがでてきたので、改稿。自己満足作品です。
「ねえ、河原さん」
笑いながら俺は言う。
「なんだい、梶君」
読んでいる本から目を離さずに、彼女は無表情に答える。
俺が笑ったら、だいたいの女子が赤くなって会話どころじゃなくなるのに、彼女は唯一の例外だ。
俺は気にせず、というかその様子を面白く思い、続ける。
「もし好きな人が自分のことを好きだって分かったら、河原さんならどうする?」
ぱたん、と綺麗な指によって本が閉じられる。
この人は顔も体も表情も、あらゆる部分が人形のようだ。
ゆっくりとその唇を開く。
「……相変わらず梶君は唐突だな。まあ、慣れたけど。
そうだな、ちょっと待ってくれ。
こんな質問生まれてこのかた初めてされたから、少しばかり戸惑ってるよ」
もちろん彼女は、本当に戸惑っているのか判断しがたいいつも通りの無表情。
「へえ、そうなんだ。
じゃあ俺が、あんたの記念すべき第一号だね」
そして俺もいつも通りに、この人といるとき用の顔で、くつくつと笑う。
また彼女は答える。
「まあ、そういうことになるな。
ところでこれは、恋愛相談になるのかな?
君にはそんなものは不必要であるかのように見えるんだが」
「なるんじゃないの。
まあまあ、そんなのどうだっていいじゃん。
それで? さっきの答えは?」
少し間が空き、彼女の長いまつげがゆれる。
悩んでる(ようにはとても見えない)横顔が綺麗だと思った。
「……わたしだったら、絶対的な確信を持つまでは、気づかないふりをするよ。
ずるい人間だからね」
そう言い、珍しく彼女はため息をつき、答える。
まるでずるいことが悪いことであるかのように。
俺はそれを、あえて気づかないふりをして続ける。
「ふんふん。
じゃあ、その確信ってやつを持ったらどうするの?」
また少し黙る。
下を向いた拍子に、彼女の黒髪がさらりと肩から流れ落ちた。
「まあその時が来ないとわからないけど、」
彼女は髪を耳にかけ、そして俺以外の奴だったらきっと気づかない程度に、口角を上げて答える。
「多分梶君が一番最初にした質問をすると思う。
ずるい人間だからね」
俺の言いたいことがおそらく意図できたであろうこの人は、また本を開く。
本に挟まれた、年季としわの入った決して鮮やかとは呼べない色の栞が、今の俺と彼女の心情によく似合っていると思った。
「なるほど。
今の答えで確信したよ。
やっぱり俺たちそっくりだ」
綺麗で身の程を分かってて、小賢しいところなんか特にね。
気づくと、ガラス玉のような瞳が、俺の顔をまっすぐと見ていた。
「へえ、梶君とねえ。
それは光栄だよ。
ところで、臆病者」
「なあに? ずるい人」
「『もし好きな人が自分のことを好きだってわかったら』、梶君ならどうする?」
ごめん、さっき確信した。
俺君のことが大好きだ。
読んでくださってありがとうごさおました。
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