表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
[練習作]ダンジョン物  作者: 夜霧 時矢
再誕~駆け出しの頃~
7/11

閑話 大神官の憂鬱

閑話を書こうと思ったのだが、書き終わって思った。

ちょっと失敗したかもしれん。

まあこの世界の、彼以外から見た一側面が見えるかもしれない。

ちなみに誤字脱字チェックをしていない手抜きを行っているが許してほしい、眠いのだ。

―The 大神官 side story―

ある日、ちょっとした噂を聞いた。

思えばこれが始まりだったのかもしれない。

なんとこの町に浮浪者がいるらしい。

しかもそれは年端もいかないような子供で外壁による守りもない町の外で生活しているという眉唾物の話である。

正直そんな子供がいたら奇跡である。

それなりに体の出来た大人ならともかく年端もいかない子供なら角兎に殺されてしまうのが落ちである。

事実、毎年外へ遊びに行く子供から少なからず怪我人や死人が出るのだ。

とてつもない田舎でもない限りこの世界では子供は労働力として考えない。

そもそも子供を放り出す親がいるのだろうか? 法律で罰せられるのに?

少し調べてみる事にしましょう。




本当に外で生活している子供がいるらしい。

しかもダンジョンに潜っているというのだ。

子供が? 大人でも生死をかけなければ生きていけない世界に?

なんて笑えない冗談、そもそも十五歳になるまで上位職への転職は許可されない。

それは子供を労働力として使い潰さないための処置なのだがどうにかして上位職についた子供なのだろうか?

まさか未調査の神殿でも見つけたのだろうか? しかし神官職の助けがなければ本来転職はできないはずなのだ。

調査するべきか否か、無理に聞き出すのは不味い気がするが神殿の管理は神官の務めである。

仮に調査するとしても簡単に教えてくれるとは思えない。

何せ上位職は下級、中級、上級とあるのだ。

これ以上転職できなくなる愚を誰が侵すだろうか?

やはり要調査には変わりない。




実際に調査して分かった事だが、この子供の生活は本当にギリギリだ。

なぜ生きていられるのかがわからない。

食べ物はほとんど買っている形跡がない。

収入のほとんどは町の中で借りた倉庫の維持となぜか大工道具を買っているらしい。

まさか町の外に家を建てる気なのか? 木製の建物では間違いなくモンスターに破壊されるだろう。

そうなると子供は巻き込まれて死んでしまうかもしれない。

それは不味い、神殿の威信にかかわる。

ここ百年近く使われていない孤児院制度を使う事にしよう。

審問官の彼女に言えば問題ない、彼女を呼んですべて任せた。

そういえば彼の親はいったい誰なのだろう?

見た感じ純種の人類のように見えるのだが、それにしては大人びている。

長命種は里から出てくるわけがないし別の村がその子を残して壊滅でもしたのか?

いくら子供相手でも直接聞くのはマナー違反だ、どうしたものか。




それからしばらく経って報告が上がってきた。

どうやら彼女は手抜きを行ったらしい。

神殿の予算で建物でも立てるかと思えばあの孤児自身が拙い手つきで小屋を建てていた。

呼び出して叱ったのだが改める気な無いように見えた。

他の神官の知らせを受けてあわてて外に出ればあの孤児が今度は小屋を解体しているではないか。

まさか審問官がへまをして怒らせてしまったのだろうか?

保護者を選ぶ権利は孤児にあるため仮に出ていくのなら私たちに口を出す権利は無い。

困ったものだ、一応監視を付けておいた方がいいだろう。

そのすぐ後監視から報告が来てさらに驚いたが、どうやら気に入らなかったので立て直しているらしい。

それなりの小屋が出来ていたと思うのだが何が気に入らなかったのだろうか?




あれからしばらく、あの孤児は小屋を建てたり解体したりを繰り返しているらしい。

また小屋もだんだんと大きくなり部屋が増えているとか。

そもそもあの孤児は一体いつ休んでいるのだろうか?

さらに言えばどうやればこの短期間に建築技術を上げる事が出来るのだろうか。

あの孤児に対する疑問は尽きない。

そして神殿外でも彼は有名になり始めたらしい。

引き取ったのは失敗だっただろうか?

いやしかし引き取らなければ神殿の調和という意義を乱してしまう。

問題も、神殿の書類仕事も尽きないのだから困ったものだ。

私も一体いつ休めるのやら。

とにかく書類と格闘する日々だ。




孤児がまたわけのわからない事を始めたようだ。

今度は穴を掘っているらしい、それも相当深く。

もしかして気狂い(きちがい)だから村から追い出された忌み子なのだろうか。

まあ引き取ってしまった以上今更追い出せないしまだ追い出す理由もないだろう。

周りに支障が出なければ好きにやらせておけばいい。

それからしばらくは報告もなく平和な日々だった。




どうやら井戸と言うものを作っていたらしい。

地面の下を流れる川を掘り当てたのが井戸だとか。

神官見習いの水汲み担当は相当感謝していたようだ。

そういえば彼は神殿側の建物に来ない、あの窓のないほったて小屋は暗いだろうに。

もしかして普段は別の場所にいるのだろうか?

念のために確認する必要があるだろう。

なぜこうも子供は問題ばかり起こすのか。

今でこそ成人したが息子が子供の頃も相当苦労したからわかるが、子供の行動に予測を付けるのは難しい。

だが、それにもまして彼の行動に予測がつかない。

そしてふと気づく。

彼が来てから数年がたっているが、成長していない気がする。

少し聞いてみると彼は長命種なので成長が極端に遅いらしい。

確か長命種はその特性上精神の成長も遅いはずなのだが、

そんな簡単に情報を明かしてはいけないと注意するが何か不満なようだった。

確かに私から聞いたのだが、何故そんな事を聞くのか聞き返すぐらいするべきだ。




彼が頻繁に外出するようになった。

今までもそれなりに外出していたが、泊まり込みで外出する事は無かったのだが一体どうしたのだろうか?

少し調べさせるとどうやら鉱明種の鍛冶屋に弟子入りしているらしい。

最初は戸惑っていたらしく一度謝罪とあいさつに行こうかと思っていたが意外な報告が上がってきた。

彼もきっと孫ができたようで嬉しいのだろう、色々教え始めたらしい。

これならほっといても問題ないだろう。

しかし鍛冶屋に弟子入りなどして何を作るつもりなのだろうか?

もしかして釘を自分で作るつもりなのかもしれない。

彼は大工にでもなりたいのだろうか?

聞く所によると自分の部屋だけでなく、神殿関係者用に残りの部屋を仮眠室として開放するというのだ。

正直そこまでされる理由がわからないが、便利なので今度私も利用しようと思う。

しかし色々な事に手を出しすぎたと思う。

聞く所によると商人のまねごともしているらしい。

そのせいで前住んでいたところを追い出されたんじゃないだろうか?

しかし子供をとても大事にする長命種が村から追い出すはずがない。

まさか逃げ出してきた? でもそれだと何から?

やはり、彼の事はわからないことだらけだ。




また彼が騒ぎを起こしたらしい。

今度はガラスをどこからか持ってきたようだ。

自分で作ったという話らしいがガラスの製法は製造ギルドの秘伝である、子供が知っているわけがない。

呼び出して叱ったが逆にガラスの製法を説かれてしまった。

実際に作ったのだろう、王族が使うような鏡を作ったのだから。

なんでこうも問題になる事ばかりするのだろうか?

しかもそれが害だけでなく益ももたらしているのだから頭が痛い、これでは頭ごなしにやめさせる事もできない。

そして、彼の家には窓ガラスがつく事になった。

各仮眠室にも窓ガラスがついた。

利用中かどうかこれで確かめやすくなったのだが、正直こんなほったて小屋にガラス窓とか場違いすぎて寒気がする。

見る人が見れば貧乏人の家に見えるだろうし、窓を見れば逆に貴族の道楽に見えるだろう。

この子供は本当に何がしたいのだろうか?

神殿だから放置されているが町で同じ事をしたら間違いなく貴族に睨まれるだろう。

もしかしたら彼個人は危険人物として注目されているかもしれない。

一応忠告しておくべきだろうか?




また彼だ。

今度は自分で作った井戸を塞いでしまったんだとか。

凝り性なのだろうか? 何もどこまでも完ぺきを求める事は無いだろうに。

またすぐ報告が上がってきた。

どうやら不思議な道具で水をくみ上げられるようにしたらしい。

しかも水道なる道具で、くみ上げた水を必要な分だけ使える装置を作ったらしい。

なんでこう彼の話題が尽きないのだろうか。

まあ、いつも苦労させられているんだ、便利だから神殿側にも作らせよう。

更に報告が上がってきた。

シャワーなる行水を行うための施設を作ったらしい。

こんな街中で行水を行えば、男性はともかく女性は覗かれ放題だろうに、子供だからこそ分からなかったのだろうか?

詳しく読んでいくとそこいらの事は配慮されているようだ。

今までにない不透明のガラスを作り光を取り入れているのだとか。

屋根にも油を塗って登れないようにしたとの事だが、そこまでするという事はそれなりにわかっているんだろうか?

ませていると言わざる負えない。




また報告が上がってきた。

しかし今回は彼ではなく彼の担当にした尋問官からの報告書だった。

彼が作った小屋の用具室を尋問用に使用する旨が書かれていた。

彼の許可もとったらしいがこの頃本当に好き勝手している。

まあそれぐらいでないと彼の監視なんてやってられないのだろう。

簡易倉庫の予定だと聞いたが問題ないのだろうか?

まあ私が気にする事ではないので放置する事にしよう。

なんとも手のかかる孫ができたような感覚が嫌すぎる。

主よ、これは何かの試練なのでしょうか?

可能なら平和な日々を返して下さい。




町の見回りをしている神官から報告が上がってきた。

どうやら彼がまた噂になっているらしい。

聞く所によるとダンジョン内で特定の魔獣をとんでもない速度で狩って回っているとか。

まあ誰かの迷惑にはなっていないようなので問題ないといえば問題ないだろう。

そういえばこの頃とても安くプニョ粉が出回るようになっている。

誰かがため込んだものを放出でもしたのだろうか?

あれはお肌にいいらしいので私も少し買ってこよう。

なんだかこの頃ダンジョンの出土品が安くなってきている気がするが、この町の冒険者が増えた報告は無い。

冒険者が減っていくのはいつもの事だが、定住している冒険者が移住を考えているのだろうか?

そうなると正直出土品が高くなるので困るのだが、神殿に呼びかけて冒険初心者を回してもらうべきだろうか?




事件が起きた。

私自身も目撃している。

まるで誰かを祝福するように神殿のシンボルが光ったのだ。

調べて回るとこの町に駆け出し勇者が来ているらしい。

ダンジョンの出土品が安くなったのもそのせいだろう。

という事は安くなっているのは一時的なものなので今のうちに買い込むのが賢いか。

しかし安物買いの銭失いと言う言葉もあるので安易な買いだめは失敗の元だろう。

まあ、今回彼がかかわっていないか調べるよう尋問官には言っておこう。

そういえば彼が血だらけで戻ってきたらしい。

急いで医者を手配したが、どうやらダンジョンに潜ったらしい。

危険なので一応注意しておくが、たぶんこれで懲りただろう。




彼が図書館に通っているらしい。

初心者指南書を読んでいるとか。

この前のあれで懲りなかったのだろうか?

まあ冒険者が増えるのは歓迎なので今のうちに予備知識を試させておくのもいいだろう。

それよりも問題はこの頃処理しなければいけない書類が増えた。

傾向を見る限りダンジョンの活性化が近いうち、ここ四五年中に始まりそうなのだ。

これは神殿ネットワークを通じて冒険者を回してもらうべきだろうか?




一つ聞き慣れない報告書が上がってきていた。

彼は薬を調合する知識があるらしい。

どうやらかなりの量の薬と材料をため込んでいるとの事。

どうやら自分の部屋の半分は倉庫として使っているようだ。

今更判明したのは近所の子供を使って薬の調合を手伝わせていたからだとか。

なぜ今まで気づかなかったのか問い詰めたが、どうやら彼のせいらしい。

彼は自分の部屋に他人が入る事に対してかなりの拒絶反応を起こすらしい。

なので外から除く程度しかできず、何か作っていても子供のする事だからと気づかなかったらしいのだ。

まあ私が監視していたとしても気づかなかっただろう。

何せ薬の調合は普通薬師と呼ばれる専門の集団が自らの秘伝を用いて調合を行い作り出すからだ。

どうやら図書館に恐ろしく難しい専門書を置いて適性のあるものを見極めているらしいが、どうやら彼はそれを丸々理解してしまったらしい。

正直本当に何をするかわからない子供だ。

もう勘弁してほしいと思う。




また彼が活発に動き出した。

今度は鍛冶屋と商店の主を巻き込んで何かを作っているらしい。

出来上がったのは平たく大きな箱状のもので行水を行うための部屋に設置するらしい。

壁を壊して神官に白い目で見られていたが気にしていないようだ。

確かにあそこが使えない間川に行水に行くか布で拭うしかないので面倒と言えば面倒だ。

そしてお風呂なるものを彼が設置し終わった。

どうやら王族や貴族が行う湯につかる行為をもっと小規模にして個々人で行えるようにする施設らしい。

後から後から上がってくる報告書によるとすごく気持ちよく健康にも配慮された施設で美容にもいいらしい。

神殿外から使用者も増えるほど盛況らしいのだが裸で長時間いるため覗こうとする馬鹿が増えたようだ。

やはり覗きはできないようになっているらしいが。

ただ燃料費がかなりかかるようで一人で払うには少々ためらう者らしく、数人でまとまって入るようになったようだ。

そして彼がダンジョンに潜ったという報告を最後に二三日彼に対する報告が途絶えた。

死んでしまったかと心配したがもっと大変な事が起こったのだ。




大変な事件が起こった。

神殿全体が活性化したのだ。

通常、誰かの転職時に勇者の祝福事件同様シンボルが活性化する事があるが神殿全体が活性化する事はまずない。

そもそも神殿の活性化具合は魔物の凶暴化を示す一つの目安なので非常に大きな混乱が起きた。

それこそ世界が終わると泣き叫ぶものが出たほどだ。

ダンジョンの活性化も近いのにこれではかなり面倒な事になると言わざる負えない。

困ったものだ。

とりあえず処理しなければいけない書類が五倍に増えた。

原因の調査を命令するが延々と調査は進まない。

まさに原因不明である。

神殿は活性化したままで夜でも明るく眠らない神殿と言われるほどに明るい。

仮眠室利用者が急激に増え原因究明に皆走り回っている。

幸いモンスター活性化現象は起こっておらず魔獣はいつものようにそれなりのおとなしさを見せている。

しかし、なぜ神殿が活性化しっぱなしなのかは気になるところだ。

正直夕方近くでも書類の処理ができるのが嬉しくもあるが、それ以上に書類が増えるのがいただけない。

ここ二日はある程度落ち着いてきて神の祝福として扱われているようだ。

しかしまだ油断はできない。

問題ばかり作る彼が帰還していない。

それは、今後大きな問題に発展する可能性が多大だと言えるだろう。




神殿が活性化してから一週間ほどが経った。

また問題が発生した。

急に神殿の活性化が終わったのだ。

なぜこの神殿ばかりと思わないでもない。

そして、それと時を同じくして彼が帰還した。

間違いない、彼が事の原因である。

尋問官に彼から事情を聞き出すべくかの尋問室に呼び出すよう命じた。

さらに誰が気を利かせたつもりかは知らないが、自白剤系の香が焚かれている。

神官には基本的に精神干渉系の薬剤は効かないので問題ないが彼はそれをモロに吸ってしまったらしくすぐに消したが無駄だったようだ。

まあこの件は後で謝罪すれば問題ないだろう。

そして聞き出した事柄で周囲が騒然とした。

何せ、彼はすでにダンジョン攻略を終わらせていたのだ。

そればかりではなく彼は一人でダンジョンを攻略していた。

大抵の冒険者は危険なのでそのような無謀を行わないのに彼はそれすら知らずに潜っていたのだ。

しかもそれも一回二回ではなく数えきれないほど潜っているらしい。

しかも今回最大警戒対象であるシャドウに遭遇したばかりかそれを死亡せずに撃破し見た事もない神殿に転送されたらしい。

しかも驚くことに彼は初期転職すら行っていなかった。

そう、初期職業である初心者だったのだ。

その状態でダンジョンに潜るなど狂気の沙汰である。

なぜ誰も彼に忠告しなかったのだろうか?

そもそも職業訓練生にすらなっていない彼がなぜダンジョンに潜れたのかが不思議だ。

普通はその状態で潜れば浅い階層でならともかく深い階層ともなると確実に殺される。

現在はなぜか職業訓練生に強制転職されたらしく、たぶんシャドウの呪いも解除されているのだろう。

聞くべきことはもう聞いたので、とりあえず今回の尋問はこのぐらいにしておこう。




報告が上がってきた。

彼が部屋から一切出てこなくなったらしい。

窓もふさがれて中の様子を見る事も出来ない。

なぜ、などとは考えるまでもなく昨日のあれだろう。

なにせ、ダンジョンから命からがら帰ってきたらいきなり真っ暗な部屋に放り込まれ自白剤を嗅がされたのだから。

私でも人間不信になる。

さて、どうしたものか。

教主や神官の中には彼を息子や弟として見ている者がかなりいる。

ここで放置しようものなら問題になるのは確実だろう。

とりあえずそれとなく気にするように通達を出す。

尋問官が乗り込もうとしたようだが門前払いを食らったらしい。

なぜか、ドアが開かない。

木でできているはずのそれは不思議なほどの強度をもって審問官を拒絶したらしい。

必死に開けようと頑張ったようだが、あの部屋は報告書によると内鍵である。

内側からしか開けられないし閉められない、そういうカギだ。

最早でてくるまで待つしかない。




本日の報告書が届く。

あれから一週間、一切出てきていないそうだ。

少々心配だが、水道の水も補給しているし食料もそれなりにため込んでいるようなので死んではいないはずである。

町は平和なものである。

あれから事件と言う事件は起きていない。

ただ、経済が活性化しているようで商人の出入りが増えているようだ。

この町は元々目立つ生産物があまりないので田舎なのだがそれなりに人口が増え始めているようだ。

もっと発展してくれれば補佐官が置けるようになるので仕事が楽になるのだが。

まあ今はそんな事を考えている暇はない。




あれからさらに一週間ほどたった。

審問官が突入しようとして失敗した旨の報告書があがっている。

彼の人間不信をこれ以上悪化させるつもりなのだろうか?

呼び出してしっかり叱っておいた。

ただ、彼女をもってしても破れない木製の扉はいったいどんな木を使えばいいのか見当もつかない。

一体どんな仕掛けになっているのだろうか?




それからさらに一週間ほどがたった。

彼は小屋から出てこない。

そろそろ不味いかもしれない。

透視の魔法を使って確認したが、何か薬を作っているようだった。

まだ大丈夫なのだろう。

後々必要になると忠告があったので、彼の仮眠室を改装し大きなものに現在改築している。

彼に一切の確認を取っていないが、一切返事をしてくれないので仕方ない。

彼は一ヶ月もかけて何を調合しているのだろうか?

そして薬師ギルドが彼を出せとせっついてくる。

何をいまさらと言う話であるが神殿が隠していたことになっているらしい。

突っぱねているがそろそろうるさくなってきた。




さらに十日が立ち、それでも彼は出てこない。

これで一ヶ月出てきていない。

本当に心配だ。

それ以上に彼への問い合わせの多さに驚く。

商人から鍛冶屋、飯屋に服屋、ありとあらゆる商売人から彼に連絡を付けろとせっつかれている。

彼の人間関係は一体どれだけ広いのだろうか?

貴族からも問い合わせが入っている。

保護者なので連絡が取れませんとはいえず、とりあえず風邪で寝込んでいる事にしている。

まあそれもここ二三日の話でそろそろ別の理由を用意しなければならない。

そして貴族から風邪薬が届いたのにも驚いた。

基本的に高慢な貴族が一般市民であり孤児でもある彼に風邪薬を届けたのだ。

それこそ雇用主が使用人に頭を下げるぐらいありえない事である。




さらに十日がたった。

信じられない事だが彼はかなりの量の出土品を各店舗に卸していたらしい。

なんでも自分は仕入れ業者であると言って注文を取り必要なアイテムをダンジョンから必要なだけ引き上げてくるんだとか。

後、安くするからと言って在庫を持たせ急な注文にも対応できるようにしたりと色々頑張っているらしい。

そして、そろそろ各店舗ともに在庫の数が少なくなり注文を受けずらくなってきているらしい。

何せ材料が入ってこないのだ、彼らが焦るのもわからないでもない。

そして、彼の反応は無い。




さらに十日がたった。

彼の反応は無い。

各店舗へは冒険者を雇って材料の供給をしている。

やはり集団でしかアイテムを収集しない冒険者に頼むと割高になってしまうらしく彼への問い合わせは終わらない。

そろそろどうにかしなければならない。

しかしどうしたものか。

尋問官を呼んでどうにか彼を連れ出してくれと頼んだ。

そしてさらに大問題が発生した。

村が一つ潰れたのだ。

ダンジョンの活性化が起きていたのは三日ほど前に告知を受けていたが油断した。

犠牲者こそいないものの彼の立てた孤児院がなければみな路頭に迷っていた事だろう。

現在は仮宿舎として機能している。

そしてその住人達からも彼に村を取り返してほしいという依頼が舞い込んでいる。

彼は知らないうちにとてつもなく大きな信頼を気づいていたようである。

子供だと思って我々は大きな失敗をしてしまっていたらしい。




あれから十日が立ち、結果として尋問官は攻城兵器を持ち出した。

極太パイルバンカーこと城壁崩しである。

本来ならば絶対に許可しないがもう対外的にどうしても彼を出すほかなく非常手段だ。

どうやら扉に不思議な石が張り付き強度を上げていたようで真っ白な何かが砕けた後が残っていた。

そして結論から言えばもぬけの殻だった。

何もない。

それが部屋の中に突入した結論である。

調べると隠し扉が見つかった。

どうやって家具まで運び出したのか知らないがもう彼はここにはいないのだ。

しかし、ずっと彼を心配してた人たちが見張りに立っていたはずなのにどうやって出て行ったのだろうか?

隠し扉の先も彼がやっとこさ出れるぐらいなので荷物を持ち出す事、ましてやばれずに出ていくなんて不可能だ。

とりあえずこの事を公開するほかない。

保護者としての面目は丸つぶれである。

事情を話し、捜索願を出す事にした。

驚いた事に各店舗から少なくない捜索費用が寄付された。

その額五万エク。

さらに貴族から五万エクが追加され十万エクの資金を投じてなされた捜索願が出された。

出されたはずだった。




あの日からさらに九日後。

驚くべき情報が提供された。

捜索願として出したはずのそれは金額のせいか手違いにより手配書として出されてしまっていた。

そして実は彼、すでに一部の活動を再開していたらしくミノタウロスの店主が経営する雑貨店に顔を出していたらしい。

彼が知る前に訂正できればよかったのだが今からではもはや遅い、何もしないよりはと訂正願いと各神殿での事情説明をお願いした。

翌日、彼が訪ねてきた。

何を話したのかはあまり覚えていない。

私がほぼ無意識に作った報告書によると彼は一人立ちし、神殿の生活を終わらせたというような事が書いてあった。

彼への連絡は雑貨店の店主につければ伝わるだろうとも書いていたのでそれをそのまま公表した。

これでこの神殿へ子供を預ける人はいなくなるだろう。

神殿は安全という暗黙の了解は破られてしまった。

そして私は……、寂しいのだろうか。

何か家族を失った時のような空虚さが胸を潰している。

なぜ、こんなことになったのでしょう。

なお、閑話では直接物語に係わるような重大な事を書く気がありません。

代わりに日常的なものや主人公以外の視点で書こうと思ってます。

リクエストがあればメールでどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ