聖剣を入手しよう。手段は選ばずに。
王国の大噴水がある広場に、一本の剣が随分と昔から刺さっている。
大噴水を囲んで積み上げられた岩の一つに深々と刺さったその剣。
伝え聞くところによればこれは聖剣である、という話であり、
抜いた者には女神の祝福が与えられ、勇者となるとされていた。
すなわち聖剣は意思を持ち、認めた相手に使われるのだと。
しかしながら伝説とあって、人々が知る限り抜いた者はいない。
まあ抜かれているならここにあるはずもないのだけど。
今日もこの剣を抜かんと挑む者達が大噴水に押しかけている。
もっとも、今回挑む者達は過去のそれとはいささか違っていた。
どう違うかと言えば。
筋骨隆々、と表現するのがふさわしい、大男達が総勢十五名。
どうやら彼ら全員が力を合わせ、剣を引き抜こうという算段らしい。
なりふり構わぬその手段には呆れる見物人も多かったが、
まあ考えてみれば「一人で抜け」とは誰にも指定されてはいない。
剣の柄に太い縄を縛り付け、反対側を大男達が握りしめる。
気合十分の掛け声をかけて一斉に引っ張り出す大男達。
だが、抜けない。びくともしない。
大男達の顔色は赤く変色し、血管も浮き出て筋肉も張り詰めている。
間違いなく全力で綱を引いているにも拘らず、剣は動かない。
そのうち丈夫であろう結び付けていた綱が引き千切れてしまった。
見物人達からがっかりした声が上がる。
多少は期待していたのだろう。
次に現れたのは、まあ引き締まった体躯を持ってはいるが小柄な男。
何をするのかと思えば…剣が刺さっている岩をたがねで叩き出した。
どうやら、抜けないのなら掘り出してしまえと考えたらしい。
さすがにこの男は、気付いた見物人達から即座にやめさせられた。
無粋なだけではない、剣を取るために大噴水まで壊してどうする。
小柄な男は憲兵に連れていかれた。さもありなん。
今度は普通に力任せの男がやってきた。ただ強いようには見えない。
案の定、しばらくうんうん唸りながら剣を引っ張っていたものの、
結局諦めてこの場を去っていった。
他にも何名かやって来るものの、剣は小揺るぎもしていない。
こりゃあ今日も抜く瞬間は拝めないだろうと見物人が思った頃。
一人小柄な少女がやって来た。何か入った木桶を持っている。
正直誰もが抜けるとは微塵も考えていない。
しかし、この非力そうな少女がどうするのかは興味があった。
見物人が見守る中、彼女が剣に手を伸ばす。
木桶に入っていた液体を、柄杓ですくって剣にかけた。
どうやら石鹸水らしい。
いやいやそんなおばあちゃんの知恵みたいなもので、
それで抜けてるんなら今まで苦労してた連中バカみたいだろ、
と見物人は苦笑いをしていたが。
抜けた。
頷いた少女は驚く見物人をよそに、聖剣を持って去っていった。
この搦め手で剣を入手した少女に対してはモヤモヤが残ったが、
手段が決められている訳でもなく抜いたのは事実である。
後日、剣を振り回し大活躍する少女の噂が各地に出回る。
聖剣としては、あの方法でも合格だったらしい。
なんてこったい。
おばあちゃんの知恵は馬鹿に出来ない。
十五名で抜いてた場合、かわりばんこに使うのだろうか。




