表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR

悪役令嬢の誤算

悪役令嬢は、聖女を遅刻させたい

作者: おかゆ
掲載日:2026/07/17

悪役令嬢の誤算シリーズ4

「ベル」


「はい、お嬢様!」



午後のティータイム。

セレスティアは優雅にティーカップを置いた。



「明日の園遊会ですが」


「はい」


「聖女ソフィアを、遅刻させます」



ベルは目を輝かせる。



「ついに時間を操るのですね!」


「違います。そんな大魔法は使えません」


「馬車の車輪を外しましょう!」


「却下です」


「道にバナナの皮を敷き詰めます!」


「却下」


「いっそ橋を落とします!」


「……どうやって?」



ベルはガクッと肩を落とした。



「遅刻させるって難しいですねぇ……」


「犯罪や古典的な罠に頼るなど、三流です」



セレスティアは紅茶を一口飲む。



「聖女は孤児院へ寄るのが日課だそうです。開宴前に聖女が立ち寄る孤児院へ、大量の支援物資が届くよう、馬車を手配いたしました」


「なるほど!」



ベルは元気よく手を打った。



「……で、どうなるのですか?」



セレスティアは心の中でため息をつく。



「荷下ろしに人手が足りなければ、あの聖女は放っておけずに手伝うでしょう。結果として開宴に遅れます。園遊会の開始に遅れた来賓ほど、悪目立ちするものはありません。」


「たしかに!」


「聖女が遅れて会場に入った瞬間、会場中の冷ややかな視線が集まりますわ」


「さすがお嬢様!」



その時だった。



「お役に立てそうですね!」



白い翼を揺らしながら、ルミエルがひょこっと現れた。

セレスティアは嫌そうに視線を向ける。



「……聞いていましたか」


「はい! お任せください!」



ルミエルは満面の笑みを浮かべ、珍しくセレスティアの言葉を復唱しなかった。

セレスティアは少しだけ安心する。



「……ええ。頼みますよ」


「はい! セレスティア様のために、全力で頑張ります!」



ルミエルは元気よく飛び去っていった。

ベルが小さく呟く。



「今日はなんだか、大丈夫そうですね」


「ええ。そう願いたいものですわ」




**




翌日。王城の園遊会。

セレスティアが会場へ足を踏み入れた、その瞬間だった。



「まあ……!」


「なんてお美しい……!」



会場中から、息を呑む音が重なって響いた。

ベルは思わず目を丸くする。



「お、お嬢様……!?」



セレスティア自身も目を見張った。



彼女のまとうドレスが、会場の陽光を浴びた瞬間に魔法のような輝きを放ち、見違えるほど華やかになっていたのだ。

宝石は眩い光をたたえ、髪飾りに使用した季節の花々が、みずみずしく咲き誇っている。

歩くたび、刺繍が星屑のようにきらめいた。



誰もが言葉を失い、振り返る。



セレスティアはこめかみをピクピクと震わせ、静かに目を細めた。



「……ルミエル」


「はい!」



すぐ横で、ルミエルが誇らしげに胸を張る。



「これは、あなたの仕業ですね」


「もちろんです! とびきり目立つようにしました!」


「……なぜ、私が目立っているのです?」


「だって、開始に遅れた人は目立ってしまうんですよね?」


「……ええ」


「そんなのダメです!」



ルミエルはきっぱりと言い放った。



「セレスティア様を差し置いて目立つなんて、そんなのずるいです!」


「…………」



その時だった。会場の入口から、消え入りそうな声が聞こえた。



「す、すみません……! 遅くなってしまいました……!」



ソフィアだった。

想定通り、少し遅れて到着したらしい。

本来ならここで会場中の冷視を浴びるはずだった。



しかし、誰も振り向かない。



「本当に素敵なドレスね……」


「今日の主役は間違いなく、セレスティア公爵令嬢だな」



会場にいる貴族たちの視線は、1ミリたりともセレスティアから離れなかった。



ソフィアは不思議そうに辺りを見回し、



「あれ……?」



そのまま誰にも気付かれず、安堵の息を吐いて自分の席へ着いた。



計画は完全に崩壊した。



少し離れた場所で、第一王子であり王太子のアレクシスが面白そうにグラスを傾けて歩み寄ってくる。



「見事だね、セレスティア」


「……何がです、アレクシス殿下」


「君が会場中の視線を独占しているよ」



目の前の騒動の『真相』をすべて理解した上で、楽しそうに笑う王太子に、セレスティアは虚無の目で静かに答えた。



「最悪ですわ」



ルミエルは横で満面の笑みだった。



「セレスティア様のお役に立てました! 」


「そのせいで、聖女がまったく目立ち(恥をかき)ませんでしたが?」


「一番輝くべきは、貴方様です。大成功ですね!」



セレスティアはゆっくり目を閉じる。



「大失敗です」



ルミエルは首をかしげる。



「難しいですねぇ」


「あなたが勝手に正解の真逆に向かって突っ走っているだけです」




**




その夜。公爵家の自室。

セレスティアは机に向かい、一冊の革張りの手帳を慎重に開いた。



表紙には金文字で『聖女××計画帳』と刻まれている。



羽ペンを手に取り、今日のページを開く。



――作戦4

結果:失敗。

敗因:天使。



ぱたん、と手帳を閉じる。



「……次こそは……」



その決意とは裏腹に、廊下の向こうから、ルミエルの楽しそうな鼻歌が聞こえてくる。



『明日もお役に立てるよう、 頑張ります!』



セレスティアは静かに額へ手を当てた。



「……だから、それが一番困るのですわ」





【登場人物】

セレスティア:公爵令嬢。完璧主義で、今日も華麗な計画を立てる。

ベル:セレスティア専属メイド。お嬢様を慕う、元気なメイド。

ルミエル:ひょんなことからセレスティアへの恩返しに奮闘する押しかけ天使。

ソフィア:庶民出身の聖女。

アレクシス:第一王子であり王太子。ルミエルが見える数少ない人物で、騒動を面白がって見守っている。


※ルミエルは、基本的に関係のない人たちには見えていません。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ