プロローグ
物語の終点「この世界の頂にて」
「……立ってください、ラングルドさん。あなたが教えてくれた剣技で、あなたを殺す。それが、俺とバルガスさんの……最後の約束だ」
雨が降っている。あの日、旭都で降っていたような、冷たい雨だ。
目の前にいるのは『影』の王にして、最後の『斬月』。
かつて俺が英雄と呼び、師と仰ぎ、家族よりも愛した人。彼の名前は、ラングルド。
この俺、カイがもっとも慕った人であり……俺達のバルガスさんを殺したエミールという男がいた、あの斬月の現在の親玉だ。ラングルドさんは、彼が最も忌避していた影の、斬月の、そしてカゲカミの意志を引き継ごうとしている。これこそが、あの魔剣グラムが望んだ代償なのだろうか。
そして、この俺カイは。バルガスさんの意思を引き継ぎ、今……目の前にいるこの人を殺すためにいる。この人は、今も……闇から抜け出せずにいる。
かつてのラングルドさんの仲間にして、彼を村の英雄として、師匠として、崇める俺は、知っている。
ラングルドさんは、見えざる剣に騙されて、20年前の世界に飛ばされた被害者だ。
愛おしい人だ。
だから、今も手が震える。
剣が震える。
だけど、それでも。
俺しか、もうあの人を止められる人はいないから。
「勝負です。ラングルドさん」
僕は、腰の聖剣を抜く。
「貴方の野望は……月を斬って、この世界に偽りの平和をもたらすという野望は……実現しない。何故なら、僕が今日、止めてみせる」
ラングルドさんは、俺を睨みつける。
やれるものなら、やってみろ。そう言いたいのか。
だが、この世界の頂に立つのは、俺だ。
ラングルドさんじゃない。
そして、思えば、色々なことがあった。
村に訪れたゴブリンの襲撃。万物競売という名のオークションと、奴隷商人である宝田陽月の悲劇。迷いの森の先にあった、エルフと叙述詩の王国シェイクスピアの、バッドムーン教会での前代未聞の悲劇。それからラングルドさんの闇落ちと、斬月および影への加入。
そこで、俺達の道は分かたれた。
そして、今。
もう……ラングルドさんを殺すしかなくなった。
何度でも、言う。
俺しか、もういないんだ。あの人を止められるのは。
この偉業を成し遂げられるのは。




