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境界監理局・第七課  作者: きなとろ
世界安定という正義
39/53

配備 ――待機コード拡大

待機コード改定が回る。

回覧は短い。

適用範囲は広い。


第弐課の執務区画は、動くために広く設計されている。

広いのに、椅子が埋まらない。埋まらないのは席ではない。空きのはずの時間だ。


ガルドは端末を見たまま立つ。

配備表が更新される。更新時刻は揺れない。揺れないまま、欄が増える。


「待機コード(暫定)を、常設へ移行」

「事前配置を標準化」

「稼働実績に基づき、交代枠を再編」


語が軽い。

軽い語ほど、押印欄を通る。


隊員の名が並ぶ。

名の横に、時間が並ぶ。

時間の横に、空白が並ぶ。


空白は休暇欄ではない。未設定欄だ。

未設定は埋まる。


ガルドは紙を一枚引く。

事前配置命令。

命令文は短い。


「指定地点へ。指定時刻までに。装備は標準。火器は手順に従う」


指定地点が増えている。

指定時刻が早くなる。

早くなるほど、間に合う。


間に合うほど、次が増える。


現場指揮の回線が鳴る。

昨日と同じ音。内容だけが増える。


「北部、基準値内。予測一致。一次対応、済」

済、という字が入る。

入ったことで、次の表が更新される。


稼働実績。

成功が積まれる。


成功の行は短い。失敗の行より短い。説明が要らないからだ。


ガルドは画面をスクロールする。

成功の列が続く。

続くほど、配備が前に出る。


「事前配置、+一」

「待機帯、拡大」

「休止枠、調整」


調整。

削れるものが増える。


隊員が顔を出す。

目の下が薄く影になる。影は報告されない。報告の欄がない。


「班長、次の待機、誰が入ります」


ガルドは返す。短く。


「入るやつは決まってる。表を見ろ」


表に出るのは名前だけだ。

人の重さは出ない。出さないように作られている。


隊員が言う。小さい声だ。

「……また、事前ですか」


ガルドは一拍置く。

一拍置くのは迷いではない。言葉を切るためだ。


「事前だ。間に合った」


隊員は頷く。

頷くしかない。頷かなければ、反対になる。


反対は記録になる。

記録は止まる。

止まれば、次が崩れる。


ガルドは椅子を蹴らない。

机も叩かない。叩けば、怒りが残る。残る怒りは矛先を持つ。矛先は人に向く。


ガルドの怒りは、運用に向く。

運用は顔を持たない。だから、怒りが消える。消えるのに、負荷だけが残る。


端末に追加の通知が入る。

待機コード改定(追記)。

適用対象課:第弐課。

適用期間:当面。

解除条件:未定。


未定、という語が入る。

未定は保留ではない。継続の形だ。


ガルドは、配備表の空白を見た。

埋める欄が増えている。

埋めれば、回る。


ガルドは呼吸を一度だけ整える。

整えたところで、時間は増えない。


照会端末に、第七課の名が出る。

アレンからの確認が入る。短い。


「稼働実績の増加に伴う現場負荷の変化を確認します」


ガルドは返す。


「増えてる」

「削れてる」

「でも、基準値内だ」


言葉を飲み込む。

飲み込んでも、記録は減らない。


アレンは次を問う。

「交代枠は」


ガルドは答える。


「薄い」

「薄くても回る。回った実績が出てる」


実績が出ると、戻れない。

戻る理由が消える。


ガルドは言う。声は低い。

怒りは混ぜない。混ぜても、制度は動かない。


「間に合ってるうちは、誰も止めない」

「止めたら、次で責められる」


回線の向こうで、アレンは返さない。

返さないことで、記録に落とす準備をする。


ガルドは配備表を閉じる。

閉じても終わらない。閉じるのは画面だけだ。


待機コードが拡大する。

拡大は成功の形をしている。


成功が続くほど、「事前」が増える。

休みが削れる。

交代が薄くなる。


それでも、反対は出ない。

出れば、安定が揺れる。


ガルドは外套の袖を直す。

境界繊維は軽い。軽いが、負荷は散らない。


正しさが人を削る。

基準値内。


処理は終わっていない。

だが、手続きは進んでいる。

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