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境界監理局・第七課  作者: きなとろ
境界事象の受理
23/53

記録 ――継続観察(機密指定)

第七課の執務室に戻ると、緊張が一段落ちている。


変化したのは、世界ではない。

この部屋の中だけだ。


アレンは、案件箱を机に置く。

黒い箱。

表面に印字された番号は、見慣れた形式だ。


未分類境界変動事象。

現在、四件。


箱を開ける。

中の書類は、どれも薄い。

増えているが、物理的な重量は変わらない。


セレナが、アレンの動きを見ている。


「決めたのね」


確認の声。

評価は含まれていない。


アレンは頷くだけで、端末を起動する。

起票画面が立ち上がる。


処理状況。

カーソルが点滅している。


「継続観察」


入力する。

表示が更新される。


次の項目。

機密区分。


通常。

制限。

機密。

最高機密。


アレンは、選択肢を一つ飛ばす。


「最高機密指定にします」


アレンはそう告げる。


セレナは一瞬だけ画面を見る。

そして、頷く。


「閲覧権限は?」


「第七課、第参課。

 第壱課の監査担当のみ」


「現場対応課は?」


「現時点では不要です」


ガルドが、遅れて入ってくる。


「戻ったか」


短い言葉。

様子を見ている。


アレンは、分類欄に視線を移す。


英雄。

災厄。

事故。


どれも、選ばれていない。


カーソルは、そこだけで止まる。


「……逃げ道は、もうないな」


ガルドが言う。


責める調子ではない。

事実の確認だ。


「帳簿に残った」


ガルドは、箱の中身を見ない。

画面だけを見る。


「機密指定までやったら、

 後戻りはできねえ」


「手続き上の段階が変わるだけです」


ガルドは、短く息を吐いた。


「制度用語の使い方がうまくなったな」


端末が、次の入力を求めている。


実行者。


これまで、空白だった欄だ。


アレンは、指を止める。


セレナが口を開く。


「継続観察は、判断です」


「停止ではありません」


「ええ」


セレナは淡々と言う。


「記録として残ります」


「記録しない選択は?」


「ありません」


制度の話だ。


アレンは、指を動かす。


実行者:

アレン・クロスフィールド


名前が表示される。


入力確定。


画面が更新され、

ログが自動で生成される。


処理状況:継続観察(機密指定)

分類:未記入

実行者:アレン・クロスフィールド


セレナは、その表示を見ている。


「分類欄は、空白のままですね」


「はい」


「意図的に?」


「情報が足りません」


それで足りる。


ガルドは腕を組んだ。


「つまり、決めたけど、終わらせてねえ」


「終わらせる段階ではありません」


ガルドは鼻で笑う。


「便利な言い方だ」


端末が、機密指定に伴う注意文を表示する。


— 本案件は最高機密指定とする

— 外部共有は禁止

— 閲覧・複写・転送は記録対象

— 分類確定時、再承認が必要


アレンは確認を押す。


ログが一つ増える。


箱の中の書類を戻す。

蓋を閉める。


箱は、軽いままだ。


だが、棚に並ぶ数は増えている。


セレナが言う。


「五件目が来る可能性は、高い」


「予測ですか」


「傾向です」


ガルドが椅子に腰掛ける。


「第壱課は?」


「動きます」


セレナが答える。


「参照制限。

 次は、権限移譲」


ガルドは舌打ちをしない。

その段階は、分かっている。


アレンは、分類欄の空白を見たまま言う。


「未分類は、永続できません」


セレナが頷く。


「制度上は」


「だから、閉じない」


ガルドが、少しだけ眉を動かす。


「閉じない、ってのも、

 選択だぞ」


「分かっています」


選択肢は、消えていない。

ただ、減っている。


アレンは端末を閉じる。


画面が暗くなる。


帳簿には、確かに記録が残った。

だが、答えは書かれていない。


処理は、終わっていない。

だが、

手続きは進んでいる。

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