勧告 ――名称の確定
第七課の執務室に、黒い封筒が置かれている
封緘は、されていない。
だが、封筒の左下にある印で、
どこから来たものかは分かる。
第壱課。
それだけで、手続きが切り替わる。
アレンは封筒を開ける。
中に入っているのは、一枚の文書だけだ。
紙は薄い。
文字数も少ない。
だが、記載事項は少ない。
勧告
未分類事象について、
処理方針を速やかに確定すること。
期限は、書かれていない。
それが、実質的な期限だった。
アレンは文書を机に置き、
起票画面を開く。
未分類境界変動事象。
三件目。
四件目が並んでいる。
いずれも、処理状況は同じだ。
受理。
それ以上は進んでいない。
「……来ましたね」
セレナが言う。
視線は文書ではなく、画面に向いている。
「第壱課からの勧告です」
「命令じゃない」
アレンは短く返す。
「命令にすると、承認経路が増える」
セレナが続ける。
「勧告なら、判断は第七課に残ります」
「残したまま、急がせる」
「はい」
セレナは頷く。
「促す、で済む段階だが」
アレンは言う。
「この次は?」
「参照制限」
セレナは即答する。
「それでも動かなければ、権限移譲」
画面の端に、
第壱課監査の印が表示されている。
「もう、監査は入っています」
「次は、判断そのものを取り上げる段階か」
「第七課の裁量が、形式上は残っているうちに、
決めろという勧告です」
アレンは、帳簿の一覧に目を移す。
未分類。
未分類。
未分類。
どれも、同じ扱いだ。
「判断には、名前が要る」
アレンが言う。
「英雄、災厄、事故」
セレナが列挙する。
「どれも、現時点では該当しない」
「未分類は、永続できません」
制度の言葉だ。
「名前を付ければ、帳簿が閉じます」
「閉じれば、処理が発動する」
分類は、記録だ。
だが、記録は作用する。
英雄と記録すれば、英雄として処理される。
災厄と記録すれば、災厄として処理される。
事故と記録すれば、事故として処理される。
「……どれも、今は足りない」
「ですが、増えています」
セレナが言う。
「未分類事象は、増えています」
アレンは、勧告文書を見直す。
文面は変わらない。
だが、意味だけが重くなる。
「五件目が来る」
アレンが言う。
「その前に、名前を決めろ、ということか」
「明記されていない期限は、
即時対応を意味します」
扉の外で、足音が止まる。
第壱課ではない。
まだ。
だが、近い。
アレンは、実行者欄から視線を外す。
空欄のまま、処理は続いている。
だが、空欄のままでいられる時間は、短い。
帳簿は、まだ閉じない。
しかし、閉じさせようとする手続きは、確実に進んでいる。
処理は、終わっていない。
だが、
猶予は縮んでいる。




