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境界管理局  作者: きなとろ
正しさは最適解を選ぶ
19/21

判断保留 ――閉じない帳簿

第七課の執務室に、案件箱が増えている。


どれも軽い。

中身も、同じだ。


箱を開けると、同じ形式の報告書が並ぶ。

紙質も、記載欄も、行間の幅も変わらない。


三件目。

四件目。


発生地点は互いに離れている。

沿岸部、内陸、山間部。

人の行き来も、生活圏も重ならない。


それでも、共通点は揃っている。


英雄登録、なし。

直接被害、なし。

測定値、異常なし。


体感異常のみ、記録あり。


色が薄く見える。

音が半拍遅れる。

距離感が合わない。


いずれも、数値には反映されない。

生活に支障は出ない。


そのため、問題として扱われない。


アレンは、書類の端を揃える。

一度。

もう一度。


揃えても、次の入力は出てこない。


「増えましたね」


セレナが言う。

声に抑揚はない。


「未分類事象、四件目」


端末の画面が切り替わる。

一覧表示。

同じ記号が並んでいる。


「重なりは?」


「英雄関連事象と、結果のみ一致しています」


セレナは比較表を表示する。

条件はばらばらだ。

発生経路も、関与者も一致しない。


ただ、終わり方だけが似ている。


「英雄にならなかった」


事実を、そのまま置く。

解釈は足さない。


「パターンが形成されつつあります」


観測としての言葉だ。

断定ではない。


「分類は?」


「現時点では、推奨できません」


間を置かず、続ける。


「このまま増えれば、

 偶然としては扱えなくなります」


三件で傾向。

四件で連続扱い。


数字は、そう振る舞う。


扉が開く。

ガルドが入ってくる。


赤い外套が揺れる。

視線が、案件箱に向く。


「……また増えたか」


「四件目だ」


「被害は?」


「ない」


「英雄は?」


「いない」


ガルドは、短く息を吐く。


「いっそ、分類してしまえばいい」


乱暴だが、冗談ではない。


「名前を付ければ、処理できる」

「帳簿も閉じられる」


机に手を置く。


「事故でも、未遂でも、

 仮でもいい」


セレナが、静かに首を振る。


「分類は、意味を固定します」


一行で、線を引く。


「固定すれば、

 後から修正はできません」


「このまま溜めるよりマシだろ」


「今は、どちらも確定できません」


セレナの声は変わらない。


アレンは、実行者欄を見る。


空白。

最初から、何も書かれていない。


「分類するには、

 まだ情報が足りない」


否定ではない。

先送りだ。


「何が足りねえ」


ガルドが訊く。


「原因」


「結果は揃ってる」


「結果だけだ」


アレンは言う。


「結果だけ揃った事象は、

 名前を付けると嘘になる」


セレナが、わずかに頷く。


「推奨は、変更しません」


「完全封印?」


「はい」


「今じゃない」


アレンは端末を操作する。


起票画面。

処理状況。


受理。


それ以上は入力しない。


分類欄は空白。

実行者欄も空白。


帳簿は開いている。

だが、閉じない。


ガルドは、少し黙ってから言う。


「……厄介な増え方だな」


「評価ではない」


アレンは答える。


「記録だ」


帳簿に、一行が追加される。


処理は、終わっていない。

だが、

手続きは進んでいる。

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