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境界管理局  作者: きなとろ
正しさは最適解を選ぶ
18/21

観測 ――数値が示さないもの

第参課・災厄予測室は、明るい。

照明は一定で、影ができない。


端末が整然と並び、

画面には数値が並び続けている。

どれも更新され、どれも揺れない。


予測官たちは、それぞれの席で作業を続けている。

視線は画面に向けられ、

指は規則的に動く。


未分類事象のデータが、中央のモニターに集約されている。


発生地点。

観測時刻。

影響範囲。

世界安定度。


いずれも、基準値の内側。


「影響なし」


確認の声が上がる。

抑揚はない。

読み上げに近い。


「モデル、三系統で照合済みです」


別の席から応答が返る。

画面が切り替わる。

重ねられたグラフは、ほぼ同じ線を描いている。


誤差は、想定範囲内。

外れ値はない。


「英雄関連事象との重複は?」


「部分一致のみ。決定的因果は確認されません」


「災厄閾値は?」


「未到達です」


やり取りは短い。

どれも、手順どおりだ。


セレナは、少し離れた位置で画面を見ている。

口は出さない。

今のところ、出す必要がない。


予測は、すでに提示されている。


「……誤差がなさすぎます」


若い予測官が、画面から目を離さずに言う。

声は低い。


隣の席が、形式的に訊ねる。


「どの部分が?」


「全部です」


若い予測官は、指を止める。


「時間軸も、地域差も、

 モデル間の揺れも出ていない」


画面が拡大される。

過去データが重ねられる。

それでも線は動かない。


「現場報告では、体感異常が出ています」


「生活への影響は?」


「ありません」


「なら、問題にはならない」


即座に処理が進む。

記録は残るが、判断は動かない。


若い予測官は、もう一度画面を見る。


色が一段薄く見える。

音が、常に半拍遅れて聞こえる。


そうした報告が、複数並んでいる。

どれも、数値には反映されていない。


「……異常があるなら、数字に出るはずです」


「出ない異常もある」


否定ではない。

確認の応答だ。


「それは、予測の対象外だ」


室内の空気は変わらない。

明るさも、一定のまま。


セレナが、静かに口を開く。


「推奨は変更しません」


視線は画面に向けられたままだ。


「影響は観測されていない。

 モデルも一致している」


誰も反論しない。


「ただし」


セレナは続ける。


「観察は継続します」


それ以上は言わない。


判断は、動かない。

だが、データは保存される。


予測室の画面には、

影響なし

という表示が残り続けている。


それが、

現時点で信頼されている数字だった。

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