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境界管理局  作者: きなとろ
正しさは最適解を選ぶ
16/18

監査 ――参照の開始

第七課の執務室に、作業の痕跡が残っている。


セレナは端末を閉じ、

ガルドは外套の留め具を直して出ていった。


アレンだけが、机に残る。


起票画面は、まだ開いたままだ。

処理状況:受理。


表示は変わらない。

だが、端末の隅に、見慣れない通知が出ている。


監査参照要求


要求元:第壱課

対象:未分類境界変動事象(受理案件)

範囲:記録・履歴・参照ログ


アレンは、すぐには操作しなかった。


要求は命令ではない。

拒否すれば、記録が動く。


参照権限を渡すかどうか。

それも、判断になる。


アレンは立ち上がり、

執務室の奥にある棚へ向かう。


棚の一番下。

施錠されていない引き出し。


中には、

第七課が閉じない案件の帳簿が入っている。


古いものは、端が擦り切れている。

新しいものは、まだ白い。


共通しているのは、

どれも分類が確定していないことだ。


アレンは一冊を引き抜き、

机に戻る。


帳簿を開く。


参照番号。

受理日時。

処理状況。


実行者欄は、空白。


ページをめくる。


似た書式が、続く。

違うのは、付記だけだ。


記録は残す

追加処理は行わない

判断は保留


どれも、処理が継続している。


ノック。


今度は、短い。


「入って」


扉が開く。


黒い外套。

縁に走る銀糸。


第壱課、監査担当官。


名は名乗られない。

名を必要としない役目だ。


「参照要求を出しました」


「見ている」


「許可を確認します」


「規定では?」


「受理段階では、第七課の裁量です」


アレンは帳簿を閉じた。


完全には閉じず、留める。


「参照範囲は」


「記録全体」


「判断は含まれる?」


監査担当官は、首を横に振る。


「判断は、記載されていません」


「なら、問題はない」


アレンは端末に戻る。


参照要求の項目に、カーソルを合わせる。


許可。

保留。

差戻し。


「許可する」


入力する。


画面が更新され、

要求の横に表示が追加される。


参照中


監査担当官は頷いた。


「一点、確認します」


「何だ」


「この案件、

 完全封印は実行されていません」


「そうだ」


「第参課は推奨している」


「推奨だ」


事実だけを返す。


監査担当官は、

端末に視線を落とす。


「未分類事象が、増えています」


「受理している」


「保持している」


「同義ではない」


アレンは答えない。


言葉を足せば、

それが記録になる。


監査担当官は、

もう一歩、机に近づく。


「第七課は、

 判断を遅らせる課だと理解しています」


「理解は、そちらの裁量だ」


「遅らせる理由は」


「記録されていない」


沈黙。


監査担当官は、

机の上の帳簿を見る。


触れない。


「参照は続けます」


「規定どおりに」


「監査は」


「必要になれば」


言葉を切る。


「必要になった時点で、

 それは記録になります」


監査担当官は踵を返し、

扉へ向かう。


「一点だけ」


アレンが呼び止めた。


監査担当官が振り向く。


「参照の結果、

 何が起きる」


監査担当官は、

少しだけ間を置いた。


「参照は、処理です」


静かな声。


「参照された事象は、

 次の手続きに進みます」


扉が閉まる。


音は、小さい。


アレンは椅子に座り、

端末を見る。


参照中の表示が、

消えない。


帳簿を引き寄せる。


新しい行は、まだ増えていない。

だが、

参照番号の横に、

小さな印が付いている。


第壱課参照。


分類は、空白のまま。

実行者も、空白のまま。


処理は終わっていない。

だが、

手続きは進んでいる。


帳簿は、

まだ閉じられていない。


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