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とうめいな魔法使いと、消えないらくがき

作者: ヨシト
掲載日:2026/01/11

子育てお疲れ様です

挿絵(By みてみん)


あるところに、サラというお母さんがいました。

サラは、毎日朝から晩まで、大忙しです。

でも、サラの仕事は、とても不思議な仕事でした。

なぜなら、どれだけ頑張っても、すぐに「なかったこと」になってしまうからです。


朝ごはんを作っても、すぐに食べられてお皿は空っぽ。

おもちゃを片付けても、振り返ればもう散らかっている。

洗濯物を畳んでも、次の瞬間には泥だらけの服がカゴに入っている。

サラは時々、自分が「透明人間」になったような気がしました。


「私、一日中動き回っていたのに、何も残せていないみたい」


夕暮れ時、散らかったリビングの真ん中で、サラはため息をつきました。

自分のやっていることは、砂にお絵描きをしているみたいに、波が来たらすぐに消えてしまう。そんな虚しさが、胸いっぱいに広がりました。


ある雨の日の午後、3歳の娘のミイが、ご機嫌斜めでした。


「ちがう! このクッキーじゃない!」

「お人形の服、ママが着せて!」


サラが何をしても、ミイは「イヤ!」と泣き叫びます。サラの「透明な頑張り」は、ミイの涙の嵐に吹き飛ばされてしまいました。

ついに、サラの心の糸がプツンと切れました。


「もう、ママ知らない!」


サラはキッチンに逃げ込み、しゃがみこんで顔を覆いました。ダメな母親だ。もっと優しくしたいのに。自己嫌悪の冷たい雨が、サラの心に降り注ぎます。


しばらくして、嵐が止んだことに気づき、サラはそっとリビングに戻りました。

ミイは静かに、床に広げた大きな紙にクレヨンで何かを描いていました。


「……何を描いているの?」


サラが疲れた声で尋ねると、ミイはパッと顔を上げて、得意げに言いました。


「ママ!」


そこには、ピンクや黄色、水色のクレヨンがぐるぐると渦を巻いている、大きな丸が描かれていました。


「これが、ママ?」


サラが聞くと、ミイは小さな指で、その色の渦をなぞりながら説明し始めました。


「うん。あのね、このピンクは、ママが『だいすき』ってぎゅーしてくれた色。

このきいろは、ママがつくってくれたオムレツの、おいしい色。

このみずいろはね、ミイがないたとき、ママが『よしよし』ってしてくれた色」


ミイは、サラを見上げてにっこり笑いました。


「ママはね、いつもいろんな色をくれるの。だから、こんなにきらきらなんだよ」


サラはハッとしました。

サラが毎日必死で積み上げては崩されていた、あの「透明な仕事」。

それは、消えてなくなっていたのではなかったのです。

片付けた部屋も、作った料理も、かけてあげた言葉も。

その一つひとつが、目には見えない「愛情の色」となって、ミイの心の中に、しっかりと塗り重ねられていたのでした。


サラは涙をこらえながら、ミイを強く抱きしめました。


「ありがとう、ミイ。ママのこと、そんな風に描いてくれて」


部屋は相変わらず散らかっています。夕飯の準備もまだです。

でも、サラはもう、自分が透明だなんて思いませんでした。


お母さんの仕事は、すぐには結果が見えません。誰かに褒めてもらえることも少ないかもしれません。


けれど、あなたは毎日、子どもの心という真っ白なキャンバスに、世界で一番温かくて、絶対に消えない色を塗っている、すごい魔法使いなのです。


サラはミイの描いた「きらきらのママ」の絵を冷蔵庫に貼ると、少しだけ軽くなった足取りで、夕飯の支度に取り掛かりました。

(おしまい)

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