あぶく銭
ワイアットは勇者の息子であって別に勇者ではありません
ムカつく魔物から町を救った日の夕方。
夕焼けに染まった宿屋のカウンターで──
宿主「申し訳ありません! 本日満室でして……ご用意できるのは男女混合・三人部屋が二部屋だけになります!」
「えっ……さ、三人……?」(耳まで赤くなる)
「いやいや、ちょっと待ってよ!?この人数で二部屋!?どうにかなんないの!?」
部屋割りをめぐって、ミレイナとカレンがぶつかり合う
「じゃ、ワイアットとあたしは確定ね♡ あと一人は誰にする〜?」
「断ります。ワイアットと共に泊まるのは、従者である私の務めです。あなたのような不用心な方に任せられません」
「はぁ!? 何それ〜? 従者とか言って、結局くっつきたいだけじゃん?」
「それはあなたのような言動を“軽い”と申すのです。誰彼構わず胸を押し付けて」
「アンタだって意外とえっちな夢ばっか見てんじゃん? この前“我が君♡”って寝言で言ってたけど〜?」
「なっ……!?……ッ! そ、それは……!」
制止しようとするエトラとアイネス
「二人とも落ち着いて下さい。ここは宿の受付前ですよ」
「ふふ……みんな負けず嫌いですね」
「おいおい……部屋割りで戦争すんなよ。ったく、こういう時に限って満室ってなぁ……」
そんなバチバチの空気のなか──アイネスが
「ふふ、では私はエトラさんと泊まりますので、お二人とワイアットさんで一部屋、いかがです?」
「え、それでいいの?」
アイネスは静かにワイアットの耳元に顔を寄せる。
「……二人の“想い”、整理するいい機会かと。私は、逃げませんので♡」
こうして決まったのは──
部屋A:ワイアット+ミレイナ+カレン(バチバチ)
部屋B:アイネス+エトラ(静かに見守り組)
部屋に入ってみれば──
シングルベッドが三つあるはずが、なぜか二つだけ。
「ねぇ、ミレイナは床でも平気でしょ〜? 騎士なんだから〜?」(当然のように布団を取る)
「……貴女こそ海賊なら床で寝ても気にならないのでは? おやすみなさい」
「なにぃ〜!?」
「……もう俺が床でいいよ……」(ため息)
夜、部屋の明かりが落ちたあとも──
ミレイナとカレンの小競り合いは止まらなかった。
「だからアンタ、さっきから距離近いっての!」
「私は最小限の動きしかしていません」
「嘘つくな!肩当たってるし!」
「それはあなたが布団を占領するからです」
ワイアットは天井を見つめたまま、こめかみをピクつかせる。
「……うるせーな!!」
ミレイナとカレンがぴたりと口を閉じる。
「お前らさぁ……ちょっとは俺の気持ちも考えろよ……!」
眉間に皺を寄せたまま、ワイアットは吐き出すように言った。
「狭い部屋で美少女2人に挟まれてんだぞ!?バチバチに睨まれてどうすんだよ、俺が緊張して寝れねぇだろーが!!」
「はぁ!? こっちはアンタのせいで揉めてんのにっ!」
「……ワイアットに非はありません。あるのは彼女の――」
「あーもう! 喧嘩すんなよ!!」
その勢いのまま、ワイアットは2人をまとめてベッドに押し倒した。
──沈黙。
「…………………………え?」
布団の中、2人の頬が同時に赤くなる音が聞こえたような気がした。
「お前ら2人とは特に長い付き合いだが⋯ちょっと躾が足りなかったみたいだな」
「っ……!な、何を……!?ば、馬鹿なのですか!?!?!?////」
「あははっ……!なにそれ〜? じゃ、しちゃえばぁ〜?♡」
その後
カレンは布団の端でガクガクと震えながら、ほぼ気絶したように浅い寝息を立てていた。
窓から差し込む月明かりが、部屋を青白く照らす。
浴場からは湯気が立ち、ほんのりとした熱気が二人を包み込む。
「……申し訳ありません、ワイアット」
隣でタオルを握るミレイナが、かすかに視線を伏せる。
「先ほどは……あんな形でお体を奪い合うような真似を。つい、意地になってしまって」
ワイアットは赤くなった頬をそらしながら、首元をタオルで拭った。
「いや、まぁ……別に、いいけどさ。ちょっとびっくりはしたけど……」
そこでふっと笑い、ミレイナの方を見やる。
「お前ら、今になってマジなんだなって……なんか、そう思っただけだ」
ミレイナは一瞬だけ目を見開き、それから柔らかく笑った。
「……マジ、ですとも」
湯の中、ミレイナがふと目を伏せながらも視線を下に滑らせて――
「ワイアット……それ……っ」
ワイアットが気まずくうつむいて
「……あ、あぁ、いや、なんかその……」
「そういえば……2人きりで風呂って、あんま無かったよなって思ったら……変な緊張?みたいな感じになっちまって……」
湯の波間に揺れる影――その「存在感」に、ミレイナの頬が色づく。
静かに、けれど逃げずに、ミレイナがワイアットの隣に寄り添い――
湯の中で手を重ねて、そっと囁く。
「ならば……私が、お付き合い致します。我が君が“変”になるのは……私の責任ですから」
「いや、それ、余計に――」
唇が重なる。言葉が、熱とともに溶けた。
そして“最初期ヒロイン”の誇り
浴室の明かりが落ちる。
あの時のように、けれど今は違う――
ミレイナの中にあるのは、300年の絆と決意。
「我が君……この身は剣にあらず、ただ、貴方を癒す女にございます」
「……そういうのズルいわ」
揺れる湯、重なる吐息、そして――
ミレイナはその夜、「最初に貴方に出逢った女」としての存在を、確かに刻み込んだ。
翌朝。
窓から差し込む朝日が、廊下の木目をやわらかく照らす。
パンとスープの香りが漂い、宿全体に静かな活気が満ちていた――はずだった。
その空気をぶち壊すように、バタバタと足音が響く。
「ワイアットーッ!! ミレイナァァ!!」
カレンが部屋から飛び出してきた。
髪は爆発、顔は半分寝ぼけ、そしてなぜか全力で怒っている。
廊下の向こうには、まるで舞台の上に立つ“勝ちヒロイン”のような笑みを浮かべたミレイナの姿。
湯上がりのようなツヤ肌、きちんと結い上げられた銀髪――昨夜とは明らかに肌艶も雰囲気も違っていた。
「おはようございます、カレンさん」
ミレイナは柔らかく微笑みながら一礼する。
「……少しお顔が浮腫んでいますね。よく眠れましたか?」
「やったよね!?」
カレンが顔を真っ赤にして詰め寄る。
「あたしが爆睡してる間に! 絶対やったでしょ!?
ねぇワイアット!? アレだよね!? “2回戦”ってやつでしょ!? あたしのいないところでっ!!」
廊下の奥から、軽やかな足音が近づいてくる。
アイネスとエトラが朝食の席に向かう途中らしく、ふたりとも一瞬立ち止まり――状況を察した顔になった。
「昨晩は……お楽しみだったようで」
アイネスが伏し目がちに呟く。その声音は穏やかだが、どこか含みを持っている。
「ミレイナさん、髪……艶っぽいです……」
エトラはぽつりと感想を漏らし、頬をわずかに染める。
「くっそーー!!なんでアタシ寝落ちしちゃったんだよぉーーー!!」
カレンは廊下の床をバンバン叩き、今にも地団駄を踏みそうな勢いで悔しさを爆発させた。
その様子に、宿の女将が奥から顔を出し、心配そうに首を傾げているのも誰も気づかない。
珍しく、ミレイナが笑った。
それも、“勝者の余裕”を滲ませた微笑――。
「ふふ、戦は、眠った者から脱落するものです」
ワイアットはコーヒーすすりながら
「いや、言い方カッコよすぎない? あと“戦”じゃないからな?」
宿を出て、まだ朝靄が残る石畳を歩いていた一行。
市場の賑わいが遠くに聞こえ始めたその時、カレンが唐突に口を開いた。
「そういえばさー、アタシたちって今いくら持ってんの?前の旅の1兆近いお金はどうなったのよ?」
空気が一瞬で凍りつく。
「……っ!? そ、それを今言いますか!?」
ミレイナが咳き込みながら振り返る。
アイネスは肩をすくめて、静かに答えた。
「あのお金は、現代の“円”に換金して、あちらの世界に置いてきましたよ。さすがに全部は持ってこれませんでしたから」
「……なんでぇ〜っ!!」
カレンが頭を抱えて叫ぶ。
「……ということは、この世界での所持金は――」
ミレイナが青ざめながら続きを促す。
エトラが小さく頷き、手のひらに淡い光を宿らせた。
魔法陣が浮かび上がり、数字が淡く光って弾き出される。
「……現在の所持金、2万ダストです」
静寂。鳥のさえずりすら遠のく。
一同は石像のように固まった。
やがて、ワイアットが深くため息をつき、額を押さえながら口を開いた。
「……じゃあ、稼ぎに行くか」
旅を続けるためには資金が必要。だが、アイネスを人間にする方法を探す前に、その資金すら底を尽きかけていた。やむなく一行は、近くにある大国を目指す。
王都の門前には、石造りの巨大な国章が掲げられている。
城壁の上には、びっしりと兵士の影。街道を行き交う人々の中にも、武装した軍人が目立つ。
「……グランデウル」
ミレイナが声を潜める。
「周辺国を併合し、未だに拡張を続ける侵略国家です。今は“休戦中”とのことですが、剣を鞘に収めただけで、目は常に次の敵を探しています」
ワイアットは門前に立ち、短く吐き捨てる。
「……絶対に関わるな。刺激するな。泊まって、去る。それだけだ」
「え〜、でもお店いっぱいあるよ?」
カレンが無邪気に口を尖らせる。
エトラは街中を不安そうに見回し、声を震わせた。
「警備が凄いです……魔法を使ったら即拘束されそう……」
アイネスは眉をひそめ、静かに呟く。
「……空気が重い。心がざわめく国ですね」
ここでの金儲けは期待できない。
いや、できたとしても――命を賭けるには、あまりに危険だ。
外の不穏な空気がひしひしと迫っていた。
ワイアットの忠告をよそに、カレンが軽く手を振った仕草さえ――軍靴の足音の中では冗談にならない。
やがて夜。
目立たない安宿に泊まったが、外では金属音と低いうなり声が規則正しく響いていた。
兵士の詰問、旅人の叫び、そして……すぐに消える足音。
「……この国じゃ、余計な一歩で命を落とす」
それが宿の壁に染み込むような空気だった。
静かに眠りにつこうとした、その瞬間。
――ガチャッ。
厚い扉が容赦なく開かれ、重厚な赤黒の軍服に身を固めた近衛兵が部屋に雪崩れ込む。
月光を反射する鎧兜、整然と揃った槍の列。
先頭の兵長が鋭い視線を向ける。
「貴様らか……“ワイアット一行”、昨日は魔物から町を救ったようだな」
「その力、国王陛下が聞き及ばれた」
空気が張り詰める。
「王都の廃墟に巣食う魔物を討伐せよ。これは陛下の命である。――明朝、城に参れ」
一方的な言い渡しののち、兵らは規則正しい足音を残して去っていく。
静寂。
残されたのは、乾いた喉と嫌な予感。
「……見つかったか」
ワイアットは低く吐き捨てた。
「泊まって去るだけのつもりが……クソッ、完全に“借り”を背負わされたな」
翌朝
黄金に輝く装飾、壁を覆う血のように濃い赤の旗。
まるで「栄光」と「血」を同一視するかのような空間。
両脇に並ぶ兵士たちは全員が無言で整列し、空気は石のように重かった。
玉座に座るのは――グランデウル王。
鋼のような体躯を軍服に包み、漆黒の軍靴を堂々と組み、厚い唇の下に蓄えた髭が歪んで笑う。
その眼差しは氷のように冷たく、同時に血を欲する獣の光を宿していた。
「貴様がワイアットか……“魔物の討伐者”と聞いたぞ」
言葉は誉めるでもなく、ただ“飼い犬を見定める”ような口ぶり。
「……話が早くて助かるよ」
ワイアットが短く答えると、王は薄く笑みを刻んだ。
「聞け。我が国の北方、廃墟ヴェルガン遺跡にて魔物が確認された」
ワイアットは確認する
「で、被害状況は?」
「民には危害を加えておらん? ……だからどうした。魔とは存在するだけで穢れだ。悪は斬り捨てる、それが我が国の秩序よ」
彼の声に呼応するように、背後の将校たちが一斉に敬礼し、軍靴が床を打ち鳴らす。
それはまるで「王の言葉が絶対」であることを強調する儀式だった。
「貴様ら、余計な口を叩くな。ただ殺し、血で功績を示せ。そうすれば……この国はお前たちを“友”と呼んでやろう」
――暴君。
その言葉には「人の命も魔の命も、王の退屈を満たす駒でしかない」という本音が滲んでいた。
ミレイナは眉をひそめ、小声で呟く。
「……やはり、これは“見せしめ”のための依頼」
カレンは腕を組み、不満そうに口を尖らせる。
「え〜?別に暴れてないなら放っとけばいいのに」
アイネスは静かに首を横に振った。
「……この国では“魔”は存在そのものが罪。……そういう理屈なのでしょう」
エトラの表情は強ばっていた。
「放っておいたら……次は“私たちが”標的にされます」
「……了解した。受けよう。ただし、俺達はあくまで“自分の判断で”動く」
「好きにするがいい……」
玉座の間に冷たい笑いが響く
ヴェルガン遺跡・大広間
乾いた石壁に月光が差し込み、崩れた柱の影に揺れる影があった。
スライムは床で小さく震え、翼を畳んだハーピーは怯えたようにこちらを見ている。
そして――一番奥で身を寄せ合う、小さな獣魔族の子供たち。
「……こ、来ないで……僕たち、戦うつもりなんか……!」
子供の声は震え、涙に濡れた瞳はただ恐怖だけを映していた。
ワイアットは動きを止める。
(……こいつら、ただ逃げてきただけだ)
アイネスが歩み寄り、深い青の瞳で彼らを見つめる。
「……あの目は、攻める者のものではありません。避難してきた……ただそれだけ」
エトラは唇を噛み、声を低くする。
「……王の言う“討伐対象”とは……まるで違います。これは虐殺を正当化するための口実……」
カレンは思わず拳を握りしめ、涙ぐみながら叫んだ。
「やっべぇ……アタシもう泣きそうなんだけど……! なんでこんな小っちゃい子が……!」
ミレイナも首を横に振り、剣を下ろす。
「ワイアット……私は、この子達を斬るなんてできません」
静寂の中、仲間たちの視線が自然とワイアットへ集まる。
彼は深く息を吐き、迷いを振り切るように言い放った。
「……いいや、やらねえよ、こんなの“魔物”じゃねえ。どっちかって言うと──被害者だ」
その言葉に、怯えていた子供たちの肩がわずかに揺れる。
恐怖の中にも、“信じたい”という小さな光が灯った。
「ミレイナ!コイツらを頼む!」
ワイアットはレガシーに乗り走り出す
「はい、我が君──必ず、安全な場所へ避難させます」
ワイアット、王城へ潜入
夜、静まり返った軍国の城。
ワイアットは黒装束に身を包み、忍びのように城へ──。
「城で一番の要……王女の情報を押さえておくに越したことはねえ、あのクソ王⋯見てろよ」
城下の広場では兵士たちが交代の号令を掛け合い、松明の炎が風に揺れていた。
だがその影に紛れて、一陣の黒い影が石垣を駆け上がる。
黒装束のワイアット。
足音一つ立てず、忍びのように闇を走る。
王城・中庭
月光に照らされた石畳。
そこへ響く、どこか艶めきながらも冷酷な声。
「……あの魔物ども、また遺跡に逃げ込んだそうね。お父様には“即刻焼き払うべき”と進言しましたの」
声の主は、金糸を織り込んだ軍服ドレスに身を包む少女。
背筋を伸ばし、優雅に歩みながらも、その眼差しは氷刃のように鋭い。
王女アメリア。
グランデウルの王女にして、“父王を継ぐに最も近い影”。
兵士たちは膝をつくが、誰も彼女に目を合わせようとしない。
(「姫様……」「正直、陛下より怖い……」
アメリアはくすりと笑い、指先で首筋を撫でる仕草をしてみせた。
「兵士が躊躇っている?──ならば代わりにこの私が、あの小汚い魔物の首を“刎ねて差し上げましょう♡」
その甘い声音に、兵士の背筋が一斉に凍りつく。
慈悲などなく、命を弄ぶことを当然とするその姿。
影に潜むワイアットは、しめたと言わんばかりにニヤつく
「……こいつ、正真正銘の“悪役令嬢”ってやつか」
こうして、「人間の狂気」と「正義の制裁」の火種が動き出す
ワイアットは兵士たちの中でも王政に不満を持つ若手数名に目をつけ、酒場や街中でさり気なく煽る。
「……この国、どう思う?俺は外の国を見てきたが、戦争でしか成り立たん国に未来はねえ」
「でもよ……王に逆らったら処刑だぞ……」
「“誰か”が先導すりゃ、話は別だ。ほら──姫様は今、数日城を離れるらしいぜ?」
「狩猟か……護衛は少人数のはず……」
「“偶然”の事故、ってことでな」
──焚きつけた火種は確かに燃え上がる。
深い森を、煌びやかな馬上の姫が駆け抜ける。
その眼差しは、獲物を追う猛禽そのものだった。
「……ふふっ、愚かな獣。逃げても無駄よ」
その瞬間。
「今だ、囲め!!」
「この国に未来はねぇんだよ!!」
突如として矢が飛び、剣が抜かれる。
護衛の兵士たちが一斉に裏切り、姫へと刃を向けた。
「……下衆が。私を誰だと思って──!」
だが数は圧倒的だった。
姫は森の奥で孤立し、次第に追い詰められていく。
---
その時。
「……おーい。なにやってんだオマエラ?」
木陰から現れたのは、黒い外套に身を包んだワイアット⋯にやりと笑う。
「姫さん、ちょっとピンチっぽいけど?」
「なッ……誰だテメェ!」
「通りすがりの、正義の味方……ってやつさ」
──次の瞬間、
数人の兵士が薙ぎ払われる。
残った者たちは怯え、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。
森の奥、乱れた呼吸を整えながら剣を構える王女。
普段は誰よりも冷酷にふるまう彼女が、今だけは傷ついた獣のように震えていた。
「はぁ……っ……何故……助けたの? 私が倒されても、貴方に何の得も無いでしょう」
ワイアットは肩をすくめ、あくまで軽い調子で答える。
「ま、可愛い女が襲われてたら助けるだろ? 俺は“そういう男”なんでな」
「っ……//// か、可愛いって……! あなた、何者なの?」
「ただの旅人。通りすがりの、な」
その言葉に、アメリアの胸は不本意ながらも熱く揺れた。
冷たい鉄でできた自分の心臓に、初めて温もりを感じたような──そんな錯覚。
(……バカな。こんな軽薄な男に、心を揺らがせるなど……でも……!)
必死に顔を背け、紅潮を隠しながら叫ぶ。
「……今度会ったら、名前くらい教えなさいよっ!」
そう吐き捨てると、姫は馬に鞭を当て、夜の森を駆け去っていく。
──残されたのは、闇に紛れたひとりの男。
その口元には、薄く愉快そうな笑みが浮かんでいた。
「さて……借りを作った。次はどう料理するか、だな──」
王宮の豪奢な寝室。
シルクの天蓋の下、アメリアは枕を抱きしめ、熱を帯びた頬で身をよじる。
「……また……あの夢……」
「通りすがりのナイト様……あの瞳、あの声……あの逞しい腕……」
夢の中では、白馬の騎士のようにワイアットが現れる。
優しく抱き寄せられ、耳元で甘い声を囁かれる。
時に「お前は可愛いな」「守ってやりたくなる」更にはと少しエッチな台詞まで残して去っていく。
「……私は……あの人に……恋してしまったの……?」
──恋などくだらないと笑っていたはずの王女が、枕を濡らすほどに想いを募らせていた。
現実パート
一方その頃、宿屋の一室。
「エトラ、夢を操れる魔法ってあるか?」
「……あります。眠りに落ちて意識が緩んだ瞬間に干渉すれば、幻影を“真実の記憶”のように刻み込めます」
「よし、それで“俺のこと”を印象強くしてくれ。出来るか?」
「……むぅ。まったく、どこまで女たらしなんですか」
エトラは不満そうに唇を尖らせながらも、杖を構えて術式を描く。
ワイアットはその横で薄く笑みを浮かべるだけ。
「これで……あの悪役令嬢様も、ただの夢見る乙女だ」
翌朝の王女アメリア
鏡の前で、黄金の髪をブラシで梳く。
けれど手は途中で止まり、頬が赤く染まっていく。
(……夢の中のあの人……あれは幻なんかじゃない。きっと運命……!)
王女アメリアは両手で頬を押さえ、うっとりと微笑む。
「……もう一度逢いたい……私のナイト様♡」
ドレスを選ぶ手も迷走気味。
「今日は……少し可愛らしい装いをしてみようかしら」
「いえ! やっぱり大人の魅力を強調すべき……!」
侍女たちは顔を見合わせ、
(姫様が……普通に恋する乙女みたいになっておられる……!?)
と青ざめていた。
しかしアメリア本人は気付かない。
夢で囁かれた甘い言葉を何度も反芻し、鏡の前で“恋する乙女ポーズ”を繰り返していた。
「ふふ……今度会ったら……必ず名前を聞いて……そのまま私の隣に……♡」
──そして今日も、彼女は騙されている。
冷徹だった姫は完全に“乙女化”、ワイアットに夢中
その頃、ミレイナ達は
森の中、草原に転がるスライムがぷるぷると光を反射させ、獣人の子どもたちは小鳥のように木の実を齧っていた。
ほんの少し前まで怯えと絶望に染まっていた瞳が、今は穏やかさに変わっている。
ミレイナは安堵の吐息を漏らし、剣を下ろした。
「皆さん、これで安全ですよ。どうか、静かに暮らしてくださいね」
アイネスは膝をつき、怯えて隠れていた小さな獣人の肩にそっと手を置く。
「魔物にも……心があるんですね。恐れる存在ではなく、ただ“生きる命”……」
カレンはスライムを両手に持ち上げ、にこにこと笑っていた。
「ほら、見て!ぷるんぷるん♡ かわいい~♡ まぁ、ワイアットが助けろって言ったら仕方ないよね~」
エトラはその様子を見つめ、ふと拳を握る。
「……あの王様は“これを悪”と決めつけた。もし私たちが従っていたら……」
視線の先には、平和に草を食む小さな魔物たち。
本来なら、あの城の命令一つで虐殺されていた命だ。
そしてワイアットも最後の作戦に
アメリアは夜の回廊でワイアットの袖を掴む。
その瞳は涙で濡れ、必死に彼を見上げていた。
「お願い……私も連れて行って……!ナイト様の隣にいたいの!」
ワイアットはわざと苦しそうに目を細め、優しく微笑む。
「ダメだよ姫様。これからは俺の仲間を救うための命がけの旅になる、君のような高貴な人を……巻き込むわけにはいかない……」
その言葉に、アメリアは胸を押さえて震えた。
「……では……せめて……私にできることは?」
ワイアットは内心でガッツポーズしながら、顔だけは悲しみに染める。
「……じゃあ……これから長旅になるし、色々準備も必要で……ごめんな姫様……仲間を助けるために……お金貸して……(嘘泣き)」
「毎月1千万ダストずつ……!」
アメリアは頬を染めて、両手で胸を抱きしめる。
「分かりました……私の愛が、あなたの力になるのなら……♡」
彼女の背後に並ぶ王国の財宝、そして決して報われない恋。
全てを投げ打って差し出すアメリアを見送りながら、
ワイアットは闇に紛れて口元を吊り上げた。
馬上の逃避行──
グランデウル王国の城門を出てから数分後……
全員が笑いを堪えていた
「ミレイナ!もっと飛ばせ!!あの姫様、今日にも“第二便”送りそうな勢いだった!!」
ミレイナもリボーンズに鞭を飛ばす
「我が君があんな芝居をするからです……ッ!」
カレンが我慢の限界
「ねぇ!早く中身見ようよ!早く開けたい〜〜ッ♡」
アイネスはらしくもない表情で
「……みんな、今はまだ耐えてくださいっね!ププ」
エトラも上空から笑いを堪えて
「く、口が……口が勝手に笑いそうで……ッ」
逃走成功!そして……
人目のない草原の丘に到着、ついに全員下馬。
ワイアットが懐から“例の袋”を取り出す……
「……よし。行くぞ」
袋を開ける
金貨、金貨、金貨!!
中からあふれ出る金色の雨!!!
.
.
.
\\\ ドッッ !! ///
一同が我慢の限界か来た!
「ッッアッハッハッハッハ!!!!!」
「これ全部……国の財源では!?」
「アメリア姫、重症すぎてヤバいでしょ!!!!!」
「私たち……ろくでもない……最高すぎますぅううっ♡」
「……ふふ。愛って、すごいですね……!」
「クッソ腹いてぇ!!は〜〜〜〜〜っはっはっはっは!!」
こうして、軍事予算から毎月一千万の“援助”が確保された。
ワイアットたちは一切労せずに資金ゲット!
近い将来、この“笑い声”こそが、王族失脚の幕開けだったのだ
pixivでヒロイン達の容姿公開してます、是非見て下さい
オリキャラ アイネス・メランコリ | 福島ナガト #pixiv https://www.pixiv.net/artworks/133924526