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ワイアットの戦い方

久しぶりの戦闘回です。しかしワイアットらしさのある戦い方

道中、春の風が丘陵の草を撫で、木漏れ日が旅人たちの頬を暖めていた。

懐かしさと新しさが混ざり合う風景の中、仲間と馬たちの息づかいが心地よく響く。


「レガシー! お前、いいな! 乗りやすいし、跳ねねぇし……ノワールにそっくりだ。けど、お前はお前だ。これからよろしくな、相棒!」

ワイアットが手綱を軽く引き、笑みを浮かべる。


ヒヒーン!

レガシーは誇らしげに嘶き、耳をピンと立てる。その瞳には、すでに深い信頼の色が宿っていた。


「リボーンズ……この速さと力強さ……まるでレオノールの生き写しです」

ミレイナはたてがみをそっと撫で、目を細める。

「……あの子の血を継ぐ者が、また私の側に来てくれるなんて」


芦毛の馬は軽く鼻を鳴らし、頬をすり寄せて応えた。


「大丈夫だと申しましたでしょ?」

アイネスが微笑みを向ける。

「この子たちは、貴方たちを選んで生まれてきたのですよ──きっと」


丘の向こうには、最寄りの街の屋根が小さく見え始めていた。

300年ぶりの旅路は、こうして軽やかに踏み出されたのだった。


町が見えてきた頃、道は緩やかな下り坂になり、風が心地よく抜けていく。

季節の花が道端に咲き、鳥たちの囀りが旅路を彩っていた。


「あ〜、この感覚……懐かしいわ〜……」

ワイアットは目を細め、まるで湯上がりみたいな顔で深呼吸する。


「馬の背の感触ですか? 確かに、数百年ぶりですものね」

ミレイナが微笑みつつ手綱を操る。


「いや、違ぇよ。見ろよミレイナ!カレンの柔らかいのが背中に密着してる!!」


たぷん♡ もにゅ♡


ワイアットの声が妙に嬉しそうに跳ねた。


「え〜? ちゃんと捕まってるだけだよ? 揺れるからしょうがないじゃ〜ん♡」

カレンは悪びれるどころか、さらにぴったりくっつく。


「……ワイアット、今世も相変わらずですね。セクハラは禁止と申し上げたはずですが?」


ミレイナがジト目で睨むが、ワイアットは悪びれずニヤリ。


「ミレイナ、お前がそういう顔するから、俺の心が燃えるんだよ!」


「……またえっちなこと言ってる……」

エトラは空から箒にまたがり、耳まで赤くして小声で呟いた。


そんなやり取りに、アイネスは苦笑しながらも、どこか懐かしそうに眺めていた。

「……変わりませんね、皆さん」




それと同刻、とある町

石畳の町は、悲鳴と怒号で満ちていた。

崩れた屋根から煙が上がり、血の匂いが鼻を刺す。


「フハハハ!人間は下等だな!」

通りの真ん中で、二本の角を生やした巨躯の魔物が、片手で男を持ち上げていた。

その腕が軽く振られると、男は人形のように吹き飛び、壁に叩きつけられる。


「おい、まだ息があるぞ! もっと面白くしてやる!」

魔物の仲間らしき小鬼たちが、笑いながら町民を囲い込み、棍棒で痛めつける。


「やめてぇっ!」

若い母親が、震える腕で幼子を庇っていた。

涙で顔をぐしゃぐしゃにしながら、必死に頭を下げる。


「止めて下さい!子供だけは…!子供だけは…!」


しかし、魔物はその叫びを鼻で笑い飛ばす。

「安心しろ。お前のガキも一瞬で天国に送ってやる」


「お母さんをいじめるな!」

小さな声が響いた。

震える足で立ち上がったのは、まだ幼い男の子だった。

その手には、小さな石ころ。


――ピシッ!

子供はそれを思い切り、魔物に向かって投げつけた。


「おい……?」

額に当たった石ころを指先でつまみ、魔物はゆっくりと子供を見下ろす。

口角が吊り上がり、目に濁った愉悦が宿る。


「……母親がした命乞いが、無駄になったな」


母親「やめてっ!!」

地面を這ってでも距離を詰めようとするが、足がもつれて転ぶ。


魔物は笑いながら子供を片手で持ち上げ、その喉元に爪を突きつける。


「弱い生き物で遊ぶのって、ほんっと楽しいなぁ〜♡」

その声音は、ぞっとするほど甘く歪んでいた。


周囲の小鬼たちが囃し立てる。

「やれやれ!」「もっと泣かせろ!」


子供の小さな足が宙でばたつき、苦しそうに声を上げる。


「誰か⋯誰か助けて⋯」

母親の叫びも、血と煙と狂気にかき消されていった――。


子供の喉元に迫った爪――


その瞬間、銀の閃光が視界を裂いた。


ザシュッ!


ミレイナの踏み込みは音すら追いつけない。

神速の上段斬りが魔物の頭上から振り下ろされ、奴は慌てて後方へ跳び退く。

反射的に、子供を手放してしまった。


ミレイナはすぐさま地面に着地し、剣先を魔物へ向ける。

瞳には、烈火のごとき怒り。


「……ゲスな悪魔め」


カレンが後方からひょいと顔を出し、肩をすくめる。

「今どき、こんな魔物いるんだねぇ?」


ワイアットは拳銃を片手に、冷ややかに答える。

「父さんが魔王軍を潰してからは、魔物なんて残党か無関係な野良しかいないはずだ。……実際、あいつもそのクチだろ」


ざわつく町民たち。

「ま、待て……あの出で立ち……」

「間違いない! あの方は……!」


「伝説の勇者、ノーザン・クレイン様のご子息!ワイアット・クレイン様だ!!」


「神よ……本当に、天の助けだ……!」


歓声と祈りが入り混じる中、魔物の顔からは余裕が消え始めていた。


ワイアットはゆっくりと少年の前にしゃがみ込み、優しくその頭を撫でた。

「母さんのためによく戦ったな。……あとは任せろ」


少年の瞳が潤み、こくりと頷く。


背後から、魔物が鼻で笑った。

「戦った? 石ころを投げただけの小僧がか?」


その嘲りに呼応するように、周囲にいた魔物たちが声を揃えて高笑いを始める。

「ギャハハハッ!」

「弱いくせに粋がるからこうなる!」


しかしワイアットは、足元から一つの石を拾い上げると――

にやりと笑った。


「何言ってんだ?……お前なんて、この石ころで十分だろ?」


笑い声が止まり、空気が一瞬だけ凍りつく。

魔物たちは顔を見合わせ、何か嫌な予感を覚え始めていた。町民も展開を見守る


ワイアットは手のひらに乗せた小石を、ゆっくりと魔物に向けた。

「エトラ」


「はい……ちょっとアレですが……頑張ります」

エトラは深呼吸をしてから、両手を組み、魔力を込める。


「――転移魔法!」


瞬間、小石がワイアットの手からふっと消えた。


魔物は鼻で笑う。

「何をしている? 勇者の息子が……そんなの、人間のガキ以下だな!」


だが、次の一歩を踏み出した瞬間――


「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?!?!?」


耳をつんざく悲鳴。

魔物は腹を押さえ、のたうち回る。


「いだい!? いだい!? いだい!? いだい!? いだいっ……!!」

あれほど残虐に笑っていた声は、苦悶と恐怖のうめき声に変わっていた。



ワイアットは、まるで幼子に話しかけるような声で、ゆっくりと魔物に近づく。

「……痛い? 主に腰のあたり?」


魔物は地面を転げ回りながら、必死に叫ぶ。

「いだい!! ぐああぁぁぁぁぁぁ!!!」


「尿路結石って、知ってるか?」

その静かな一言に、周囲の小鬼たちは笑いも引っ込み、ざわりとたじろぐ。


ワイアットはしゃがみ込み、苦悶する魔物の顔を覗き込みながら続ける。

「今、お前の腎臓から尿道までの管に……ゴルフボールくらいの石を入れた。

 生物が感じる痛みの限界の激痛らしいぞ。……俺はなったことないけどな」


「ぐぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!」


魔物の絶叫が、町全体に響き渡った。


ワイアットはわざと大声で、町中に響くように言い放った。

「お〜い! あんだけイキってた魔物さんが、子供みたいに泣き転がってるぜ〜!!」


魔物は地面をのたうち回りながら、泣き叫ぶ。

「お願い! 助けて! 助けてくれぇぇ!!」


ワイアットは一歩近づき、冷ややかな視線を落とした。

「……俺たちが来るまでに、大分殺したよな?」

「その人たちは、もっと痛くて、もっと悔しかったんじゃないかな?」


魔物の瞳に、怯えと絶望が浮かぶ。

「ごめんなさ──」


ワイアットはしゃがみ込み、泣き喚く魔物を見下ろす。

「助けて欲しい?」


魔物は涙と涎を垂らしながら、必死に頷く。

「助けて! マジで! もう何もしないからぁ!」


ワイアットは口元だけ笑い、背後に視線をやった。

「しゃーない……エトラ」


エトラはほんの一瞬だけ眉をひそめ、それでも頷く。

「……はい」


ワイアットは懐から何かを取り出し、軽く振った。

「あっ、悪ぃ……間違えて“マイタバスコ”の瓶入れちゃった!」


その瞬間──


魔物の絶叫が、町全体を震わせた。

「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


体の中で瓶が割れ、刺激物が内臓を焼く。硝子の破片が更に傷を広げる

魔物は地面を転げ回り、爪で自分の体を掻きむしり、喉を潰すほどの悲鳴を上げ続けた。


瀕死の魔物と、恐怖で腰を抜かした小鬼たちを鎖で雁字搦めにし、町の中央広場に放り出す。

その様子を遠巻きに見ていた町民たちは、ようやく我に返り、恐る恐る近づいてきた。


「ありがとうございました、ワイアット様……!」

感極まった声があちこちから上がる。子供を抱えた母親は、涙をこぼしながら何度も頭を下げた。


ワイアットは肩をすくめ、軽く片手を挙げる。

「あの馬鹿共は煮るなり焼くなり好きにしな」


そして腰のポーチから、一枚の小さな板札を取り出した。

「それとこれ。困ったら連絡しな。俺の紹介って言えば、安くなるぜ」


受け取った町の若者が札を見れば、そこには燃えるような赤い稲妻の紋章と──「傭兵団カウンタック」の名。


ワイアットはニヤリと笑い、背を向ける。


町民たちの安堵と感謝の声を背に、ワイアットたちは再び街道へと歩み出した。


町を後にし、春の柔らかな陽射しの中を馬を進める一行。

街道沿いの木々が、風に揺れてざわめいている。


ミレイナは手綱を握りながら、少しだけ呆れたような笑みを浮かべた。

「今日のは……さすがにエグかったですね」


カレンは後ろからワイアットの背に寄りかかり、にやっと笑う。

「いや〜、でもアタシはスカッとした♡」


ワイアットは鼻で笑い、レガシーの首を軽く叩いた。

「魔物風情が生意気なんだよ。てか、“えげつなさ”で俺に勝てると思うな!」


そのまま空を仰ぎ、高らかに笑い声を響かせる。

「ハーッハッハッハッハッ!!」


春の丘陵に、その豪快な笑いがいつまでも響き渡っていた。

春風の中、高笑いを響かせるその姿は――

かつて世界を駆けた英雄そのもの。


いや、今日のそれは、悪魔より悪魔的な“ヒーロー”の再臨だった。

次回もまともには戦いません!

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