第1話 どこにでもある話。
''どこにでもある話''と片付けられたらそうなんだと思う。
希望を胸に高校に進学して2ヶ月。
初めは教科書に''雪村絵里''と
名前を書くだけで楽しかった。
それなりに上手くやっているつもりだったのはわたしだけで、クラスの女子数人から無視され始めた。
なにか陰口を言われたり、バケツの水をぶっかけられたりするよりも''無視''が一番きついなと冷静に考えられていたのは初めの2週間だけで、学校に行っても一言も話さずただ授業の時間が終わるのを待つだけの日々はだんだんとわたしのこころを蝕んでいった。
元々よく笑う方だったと思う。
でも最近のわたしに笑えるようなことなんて、無い。
クラスの男子たちがふざけて教室をスライディングしていても、女子たちがそれをみて楽しそうに動画を撮っていても、わたしはひとり教室の端っこでただひたすら時間が過ぎるのを待っているしかなくて、孤独だった。
お母さんとお父さんに学校のことを聞かれても、
「楽しいよ」と一言、上手く笑えているのかどんな声のトーンでその言葉を発しているのかも分からないまま答えていた。
いじめはエスカレートし、暴力を振るわれるようになった。わかりやすく暴言を吐かれるようになった。
いじめに加担しているクラスの中心人物だけじゃなく、他のクラスメイトも先生も見て見ぬフリ。
誰も、わたしのことを、わたしのきもちを理解してくれようとはしなかった。
両親にも本当のことは言えない。
娘がいじめにあっているなんて知られたら心配をかけてしまうし、なによりそんな自分が惨めで恥ずかしかった。
そんな日々が半年ほど続いていたある朝、
突然玄関で動けなくなった。
身支度をして靴を履いて外に出ようとした時だった。
''もう限界だ''と思った。
これ以上わけも分からず自分を嫌いになることも、
誰かを妬んだり行き場のない憎しみを抱えるのも、
全てが嫌になってその日から私は学校へ行けなくなった。
毎日、カーテンも開けずに時計の秒針の音だけが響く部屋で過ごす日々。
物心着いてから何故か毎月同じ日に
家族3人でご飯を食べに行っていたけれと
部屋から出たくなくていつの間にかわたしだけ行かなくなった。
学校でいじめられて不登校になるなんて、
よく聞く話だしどこにでも、
誰にでもそうなる可能性はあると思う。
でもそれでも、わたしだけが世界に取り残されたような感覚は消えない。
誰でもいいから助けて欲しい。誰でもいいから笑いかけて欲しい。
そう願い、祈り、眠るだけの日々が続いた。