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第二話:あなたが頑張るなら、私も一緒に

異世界と現実を行き来する奇妙な生活にも少しずつ慣れ始めた翔太と奈々子。二人の関係も少しずつ深まり、日常が穏やかに過ぎていく中、翔太は大学の課題と異世界での生活を両立させようと密かに努力していた。


「異世界と現実を行き来してるなんて誰にも言えないし…課題だけはちゃんと終わらせないとな。」

翔太はそう呟きながら、深夜までレポートを書き続けていた。奈々子には「早く寝ろ」と言われることが多かったが、彼女に心配をかけたくないという思いから、徹夜していることは内緒にしていた。


「これで大丈夫だろ…。よし、次はテスト勉強だ。」

翔太は目の下にクマを作りながらも、机に向かい続ける。異世界での生活も充実しているが、それが理由で大学の課題を疎かにするわけにはいかなかった。

この時の翔太、これまでの経験からして誰も心配しないと思い込んでいた。


そんな無理がたたり、ある日翔太は突然力が抜けたように倒れてしまう。奈々子と一緒に小屋で過ごしていた時だった。


「なんか…体がだるい…。」

弱々しい声を漏らす翔太。その場に崩れ落ちる彼を見て、奈々子は驚きと焦りで声を上げた。


「翔太君!?大丈夫!?…顔が真っ赤じゃない!」


額に手を当てると驚くほど熱い。顔は赤く染まり、息も荒い。どうやら高熱を出してしまったようだった。


「こんなところで倒れるなんて…!」

奈々子は焦りながらも冷静さを保とうとし、すぐに翔太を現実世界の部屋へ運ぶことを決めた。ドアを開け、小屋から現実のアパートへ翔太を運び込む。ベッドに寝かせると、冷たいタオルで額を冷やしながら様子を見る。


「どうしよう…病院に連れて行ったほうがいい?でもまずは冷やさないと…!」

奈々子は氷枕を作り、濡れタオルを翔太の額に乗せる。看病しながらも、その表情には心配が滲んでいた。


(こんな無理ばっかりしてたら、そりゃ体調も崩すよ…。でも私がもっと気づいてあげていれば…。)


ふと机を見ると、そこには翔太が書き上げたばかりのレポートが積まれていた。その文字数や内容から、かなり時間をかけて仕上げたことが分かる。


(こんなに頑張ってたんだ…。私には何も言わずに…。)


奈々子は胸が締め付けられる思いだった。翔太が自分なりに努力していることは知っていたが、それ以上に無理をしていたことには気づかなかった。



一方、翔太は高熱による意識混濁の中で何かを呟いていた。奈々子は耳を傾けながら、その言葉を聞き取ろうとする。


「俺…ごめんなさい…。召喚なんて…くだらないことして…。先輩まで巻き込んで…。本当にごめんなさい…。」

弱々しい声で謝罪する翔太。その姿に奈々子は胸が締め付けられる思いだった。


「そんなこと気にしなくていいよ。私は大丈夫だから。」

優しく声をかける奈々子。しかし、翔太の言葉は止まらない。


「でも…先輩には…本当に感謝してるんです…。高校時代、俺…先輩に救われてたんです…。無気力になるだけで済んだのも…先輩がいたから…。気づかなかったけど…ずっと助けられてたんです…。」


その言葉に奈々子は驚きつつも静かに受け止める。そして、自分自身も同じような思いを抱えていたことに気づく。



奈々子はそっと翔太の手を握り、その温もりを感じながら静かに口を開いた。彼女の瞳には優しさと、どこか切なさが混じっている。


「翔太君、私ね…ずっと思ってたんだよ。」

奈々子は少しだけ間を置き、言葉を選ぶように続けた。「高校時代、助けてもらったこともそうだけど、それ以上に…翔太君がいつも一生懸命だったことが、私にとってすごく大きかったんだ。」


彼女の声は柔らかく、どこか甘さを含んでいる。その言葉に翔太はぼんやりとしながらも耳を傾けていた。


「私ね、あの時怖かった。本当に怖くてどうしようもなかった。でも翔太君が飛び出してきてくれたことで、本当に救われたんだ。それだけじゃないよ。その後もずっと…翔太君が頑張ってる姿を見るたびに、私も頑張ろうって思えたの。」


奈々子は少し照れくさそうに微笑む。そして、さらに言葉を重ねる。


「だからね…翔太君が無理してるのを見ると、私も辛いんだよ。頑張りすぎなくてもいいんだよ。一人で全部抱え込まなくてもいいの。これからは私がいるんだから。」


奈々子はそっと翔太の額に手を当て、その熱を確かめながら優しく微笑む。「翔太君が頑張るなら、私も一緒に頑張るから。だから、一人で無理しないで。ちゃんと頼ってほしいな。」


その言葉には甘さと温かさが溢れていて、翔太の心にじんわりと染み渡っていく。


「先輩…。」

朦朧とした意識の中で、翔太はその言葉に胸が熱くなるのを感じていた。そして、不意に涙がこぼれる。


「俺…先輩がいてくれて、本当に良かったです…。ありがとう…。本当に…ありがとう…。」


奈々子はそんな翔太の姿を見て、小さく微笑みながら彼の頭を優しく撫でた。「大丈夫だよ。これからはずっと一緒だからね。」


翌朝、目を覚ました翔太は隣で眠る奈々子の姿を見る。その穏やかな表情に胸が温かくなる。


「おはよう、翔太君。」

目覚めた奈々子は少し照れくさそうに微笑む。その声には安心感と甘さが溢れていた。


「あ…おはようございます。」

照れながら答える翔太。その表情にはこれまでとは違う穏やかな空気が漂っている。


奈々子はふっと笑みながら言った。「これからも一緒だよ。だから無理せず、一緒に頑張ろうね。」


その甘すぎる言葉に翔太は顔を赤くしながらも、小さく頷いた。


(こんな優しい先輩が隣にいてくれるなんて…。俺、本当に幸せ者だな…。)


こうして二人の日常には新しい絆と約束が生まれた。そして、この出来事によってさらに深まった関係性は、新しい未来への希望となっていく――。


異世界と現実を行き来する奇妙な生活にも少しずつ慣れてきた翔太と奈々子。二人の関係も一歩進み、これからの生活に少しずつ希望を見出し始めていた。しかし、そんな穏やかな時間に突如として現れたのは、新たな悩みだった。


ある日の昼下がり、奈々子が異世界で採取した不思議な果実を手にして笑顔を見せている中、翔太は深刻そうな顔で頭を抱えていた。


「どうしたの?翔太君、また何か悩んでるの?」

奈々子が不思議そうに尋ねると、翔太はため息をつきながら顔を上げた。


「いや…これから俺たちが一緒にいるとしてさ…馴れ初めとかどう説明すればいいんですかね?」

奈々子は一瞬きょとんとした後、吹き出すように笑った。


「えっ、それってそんなに深刻なこと?」


「いやいや、深刻ですよ!普通『高校時代の先輩を召喚術で呼び出しました』なんて言って誰が信じるんですか!」

翔太は真剣そのものだ。彼の必死な様子に奈々子は思わず口元を押さえながら笑いを堪えた。


「でも確かに…説明するのは難しいかもね。」

奈々子も少し考え込むように視線を落とす。二人は高校時代から知り合いではあったものの、再会の経緯があまりにも非現実的だ。普通なら「同窓会で再会して」や「偶然街で出会って」など、もっと現実的なシナリオがあるはずだ。


「しかも俺たち、異世界と行き来してること自体も秘密にしないといけないじゃないですか。」

翔太はさらに頭を抱える。「これじゃあまともな説明なんてできないですよ…。誰も信じないし、下手したら頭おかしいと思われますよ。」


奈々子はそんな翔太を見て微笑む。「でも、それならそれでいいんじゃない?私たちが分かっていれば、それで十分だと思うよ。」


二人だけの秘密

その言葉に翔太は顔を上げた。「俺たちだけ分かってればいい…?」


「うん。別に他の人に全部話す必要なんてないよ。」

奈々子は優しい声で続ける。「大事なのは私たちがどう感じているかじゃない?馴れ初めなんて、人には適当に『高校時代から知り合いで』とか言えばいいし。」


「それで済むかな…。」

翔太はまだ少し不安そうだが、奈々子の落ち着いた表情に少しずつ安心感を覚え始める。


「大丈夫だよ。それよりも、これからどうやって二人でこの状況を乗り越えていくか考えよう?」

奈々子の言葉には力強さがあり、その瞳には揺るぎない信頼が宿っていた。


翔太はふっと笑みを浮かべ、「先輩って本当に強いですね」と呟いた。


「そうかな?でもね、翔太君と一緒だから私も頑張れるんだよ。」

奈々子はそう言いながら、不思議な果実を差し出した。「ほら、一緒に食べてみようよ。この異世界の味、どんな感じかな?」


二人は並んで座りながら果実を口に運ぶ。その甘酸っぱい味わいが広がる中、不安だった気持ちはどこか遠くへ消えていった。


馴れ初めについて悩む翔太だったが、奈々子の言葉によって少しずつ前向きになっていく。異世界と現実という非日常的な状況下でも、二人だけの絆と秘密が彼らを支えていた。


「俺たちだけ分かってれば、それでいいか。」

翔太は小さく呟きながら微笑む。その横では奈々子も同じように笑顔を浮かべていた。


数日後


異世界と現実を行き来する奇妙な生活にも慣れ始め、翔太と奈々子は少しずつ日常を取り戻しつつあった。夏休み前のテストやレポートも順調に片付け、ようやく一息ついた矢先のことだった。



「翔太君、ちょっといい?」

いつものように奈々子がアパートを訪ねてきた。最近、奈々子が頻繁に来ることに気づいていた翔太だが、それを特に不思議には思わなかった。むしろ彼女と一緒にいる時間が増えることが嬉しくもあった。


しかし、その日、奈々子はいつも以上に荷物を持ってやってきた。段ボール箱を抱えながら、ニコニコと笑顔を浮かべている。


「えっと…その荷物は?」

翔太が尋ねると、奈々子はさらりと言った。


「あ、これ?引っ越しの荷物だよ。」


「引っ越し?」

翔太は一瞬言葉の意味が理解できず、首をかしげる。そして次の瞬間、頭の中でピースが繋がった。


「えっ!?引っ越し!?どこに!?」

慌てて聞き返す翔太。すると奈々子は少し得意げに微笑みながら答えた。


「隣だよ。」


その言葉を聞いた瞬間、翔太の頭は真っ白になった。そして次第に顔が赤くなり、内心で叫ぶ。


(隣!?ちょっと待て!展開早すぎだろ!?これアニメか何かか!?)


心臓がドキドキと音を立てる。奈々子先輩が隣に引っ越してくるなんて、普通ならあり得ない展開だ。いや、現実的にはあり得るかもしれないが、それでも自分の人生では想像もしていなかった出来事だった。


(これから毎日顔を合わせるってこと?いやいやいや、それどころか…俺の生活どうなるんだよ!?)


翔太は頭を抱えながら赤面するばかりだった。一方で奈々子はそんな彼の様子を楽しむように微笑んでいる。


数日後、奈々子の引っ越し作業も無事に終わり、彼女は本格的に隣人となった。それからというもの、奈々子が翔太の部屋を訪れる頻度はさらに増えた。


「翔太君、この前借りた本返すね。」

「今日のお昼、一緒に食べない?」

「レポート手伝おうか?」


何かと理由をつけてやってくる奈々子。その度に翔太は内心で動揺しながらも、どこか嬉しそうだった。


(いや、本当にこれどうなってんだよ…。こんなの普通じゃないだろ。でも…嫌じゃないんだよなぁ…。)


翔太はそんな自分自身にも戸惑いながらも、新しい日常を受け入れ始めていた。



夏休み前のテストやレポートも順調に進み、二人で協力して勉強する時間も増えていった。奈々子は元々真面目な性格で、翔太にも的確なアドバイスをくれるため、一緒にいる時間は充実していた。


「翔太君、本当に頑張ってるね。」

「先輩のおかげですよ。」


そんな何気ない会話にも温かな空気が流れる。二人だけの秘密である異世界と現実を行き来する生活。その中で築かれる絆はますます深まっていく。


新たな生活の始まり

隣同士になったことで距離感がさらに縮まった二人。しかし、その新しい環境にはまだ慣れない部分も多かった。特に翔太は、自分の生活リズムが崩れてしまうことへの不安と期待で胸をいっぱいにしていた。


(これからどうなるんだろう…。でも…悪くない気がする。)


そんなことを考えながらも、奈々子との新しい日常が始まっていく――。



二人でお茶を飲みながら談笑していると、奈々子がふと大学生活について尋ねた。


「ねえ翔太君、大学では友達とかできた?」

その何気ない質問に、翔太は一瞬言葉を詰まらせる。そして少し間を置いてから、苦笑いを浮かべながら答えた。


「いや…別に。授業以外で関わる必要もないし。」


その言葉を聞いた奈々子は、一瞬表情を曇らせる。そして、少し真剣な目で翔太を見つめた。


「…それって本当?」


奈々子の問いかけに、翔太は戸惑いながらも軽く肩をすくめて返す。「本当だよ。別に俺、人と関わらなくても困ってないし。」


しかし、その言葉にはどこか自嘲的な響きがあった。奈々子はそれを聞き流さず、じっと考え込むような表情を浮かべる。そして、ふと部屋の中を見回した。


高校時代の成績表から見えた真実


机の上に置かれた成績表が目に入った奈々子。それを手に取ると、「4」や「5」がずらりと並んでいることに驚いた。


「翔太君、これほとんど4以上じゃん!すごいね!」

感心しながらも、その表情にはどこか違和感が混じっていた。


翔太は照れくさそうに頭を掻きながら答える。「まあ、授業だけはちゃんとやってるからね。でもそれだけだよ。」


その言葉を聞いた奈々子はピンときた。彼が最低限の努力で日々をやり過ごしていること。そして、それ以上踏み込もうとしていないことに気づいた。


(そっか…。頑張ってるけど、それ以上踏み込む勇気がないんだね。)



さらに話しているうちに、奈々子は決定的な瞬間を目撃する。翔太が何気なく高校時代のメモ帳を手に取り、それをじっと眺めていたのだ。そのメモ帳には「水族館」「映画館」「観覧車」など、高校時代に叶えたいと思っていたデートプランが書かれていた。


奈々子はそれを見て微笑みながら尋ねる。「それ、高校時代のメモ?」


翔太は慌ててメモ帳を閉じながら答える。「あっ…いや、ただの昔の落書きみたいなもんだよ。別に大したことじゃないから。」


しかし、奈々子はその動揺した様子から全てを察してしまった。


(このメモ…本当は叶えたいと思ってた夢なんだよね。でも、人と関わることを避けて諦めちゃったんだ。)


奈々子は優しく微笑みながら言葉を紡ぐ。「ねえ翔太君、高校時代も今も、本当はもっと人と関わりたいと思ってるんじゃない?」


その言葉に翔太はハッとして顔を赤くする。「そ、それは…別にそんなこと…!」


しかし、奈々子はさらに追い打ちをかけるように続けた。「だってさ、このメモ帳を見るだけで分かるよ。本当はこういうことしたかったんでしょ?でも一人じゃできなかったから諦めちゃったんだよね。」


翔太は何も言い返せず視線をそらす。その様子を見た奈々子は満足そうに微笑む。そして、不意に彼の頭をポンポンと優しく撫でた。


「大丈夫だよ。これからは私がいるから。一緒なら何でもできるでしょ?」



その甘すぎる言葉に翔太は顔を真っ赤にしながら内心で叫ぶ。


(いやいやいや!こんなの反則だろ!?こんな優しいこと言われたら…俺どうすればいいんだよ!)


頭では冷静になろうとしているものの、その優しさが胸の奥深くまで染み渡っていく。そして、自分自身でも気づかなかった心の奥底が少しずつ動き始めていることに気づいた。



こうして奈々子によって無気力なスタンスが完全にバレてしまった翔太。しかし、その優しさのおかげで彼の心には確かな変化が訪れ始めていた。


(先輩がいるなら…俺も少しずつ変われるかもしれない。)


そう思い始めた翔太。その瞳にはほんの少しだけ、新しい未来への希望が宿り始めていた――。

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