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④⑤話 帰蝶様

「母上様、帰蝶様に呼ばれましたので行ってまいります」




「くれぐれも失礼ないようにね」




「はい、心得ております」




帰蝶様が私に会いたいという事だったので正式に面会の約束を取りちゃんと母上様に断りを入れて岐阜城奥の丸に出向くと、茶室に通された。




茶室に入ると既に帰蝶様が湯を沸かしている所で茶道具を取り出して並べている。




私は座り深くお辞儀すると帰蝶様にニコリと微笑み一礼して道具並べを続けた。




茶室の丸窓から滝が見えるようになっている造りだったのでしばらくそちらを眺めていると、シャカシャカと音が。




茶を点てる音で、初めてお目にかかったとき武人のような方だとお見受けしたが、とても繊細に茶を点てた。




「薄く点ててあります」




そうニコリとして私の前に白色の茶碗を出す。




緑のきめ細かな泡が踊る。




茶はまだ習い始め、あまり飲むと眠れなくなるからとさほど飲んだことがないが、教えられた作法をして飲む。




「あっ、あまい」




「ふふふふふっ、正直ね。あなたのために甘さの強い茶を使いました」




「ありがとうございます」




「もう一年になるかしら?前に会ったときより随分成長しましたね」




「体つきですか?」




「いえ、表情があなたの精神の成長を物語っています」




「そうですか?」




私はキュッと胸当たりがすると、




「みんな知っていますよ。私は」




「みんな?」




「えぇみんな、あなた達の事を見張っていましたから」




「あなたたちって母上様も?」




「えぇ勿論。浅井の復讐の為に武田と結ぶのではと考えていましたから。しかし、あなたの母上様は織田を裏切らなかった。いえ、裏切れなかったと言っていいでしょう。血のつながりなのでしょうね。憎んでも憎みきれない」




「私は父を殺した伯父が憎いです。血なんて関係ありません。いつか殺したい。この手で」




「ふふふふふっ、正直ね。でもその正直さが命取りとなります。気を付けなさい」




「はい・・・・・・」




「私がそばに居れば守ってあげる事も出来ましょうが私は近く居を移します」




「どちらに?」




「堺の屋敷に戻ります。私は信長殿にとって邪魔者です。私がいることでこの城を信忠殿にお譲りするのをためらっているようですし」




この城とは岐阜城、岐阜城はその昔は稲葉山城と呼ばれ、帰蝶様の実家・斉藤道三が治めていた。




斉藤道三は亡くなったが、譲り状を受け取った伯父・織田信長。




娘婿だからこそ書かれた譲り状。




帰蝶様なくしてこの地を統治する大義名分を得られなかった過去がある。




しかし、信忠殿に譲るとは初耳だった。




「信長殿は国を統治するためにその時に一番相応しい場所に居を移してきましたから近々京都と岐阜の間に城を造るはずです。その為、この岐阜城は信忠殿に譲りたいと思っているのです。私と信忠殿の子ならこの様に悩むことはないのでしょうが」




「伯父上様が悩んでいる?」




「あの方はそう言う繊細な面も持っているのですよ」




「信じられません・・・・・・」




「そうでしょうね。あの方は鬼を演じていらっしゃる。この国を一つとするために」




「だから邪魔者は排除する?」




「仕方ありません。それが戦国の世の習いなのですから」




「その習いによって父上様は殺された・・・・・・」




「そしてあなたは織田一族を売った」




はっと目を見開くと、帰蝶様はニコニコとしているだけでそれ以上その事についてはなにも言わなかった。




「帰蝶、茶を所望じゃ」




いきなり障子が開けられた。

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