④⓪話 お市の芝居
◆◇◆お市◇◆◇
「宇津呂、小太郎、さつき、芝居ご苦労でした」
私は茶々が眠りに着くのを待ち、3人を茶室に呼び出した。
「私どもの下手な芝居で良かったのでしょうか御方様」
「宇津呂殿、下手ではございませんでしたぞ。茶々様は本当に死んだと思って嘆いていらっしゃる」
「さようか、しかし、姫様に悲しい思いをさせたとなると心が痛い」
「茶々の為です。仕方ありません」
私は織田家に恨みを強く持つ茶々に対して一芝居打った。
茶々にそれとなく近づいた宇津呂は私が古くから使っていた忍び、偶然を装わせ茶々と顔見知りとさせ同じ織田家に一矢報いる野望を持つ仲間として接する。
その宇津呂に対して茶々が軽はずみに物を言って、織田家に災いが及ぶ。
描いた筋書きは思いのほか上手くいった。
私も兄に対して腹立つ思いと兄妹としての敬愛の念の狭間にあった。
その為、その憂さ晴らしの矛先を織田一族とし、伊勢長島一向攻めを利用した。
伊勢長島一向一揆攻め、兵糧攻めで人肉を喰らうまでになってしまった者達に織田一族の位置を知らせる。
それをすれば何が起こるかは想定できた。
仏に命を預けた者達の最期の突撃。
猛烈な突撃に耐えられずに崩壊した織田一族を中心にした軍。
結果叔父は討ち取られた。
茶々には宇津呂にその事を話したが故にこの様になったと思わせる。
茶々が言った一言などなんの役にも立っていない。
私が宇津呂に織田一族軍の位置を詳細に知らせ、それを一向宗に流した。
茶々は自分の言動で大きく物事が動く事を知ってもらわないとならなかった。
その為の芝居。
「御方様、なにも弟を死んだ事にしなくてもよろしかったはずでは?」
宇津呂の姉であるさつきは宇津呂の今後を気にして言ってくる。
「いや、自分と親しい者まで死ぬと言う事も知らねば茶々は人の上に立つ器に成長できません。だからこそ死んだと言う事にしたのです」
「姉上、私の事はよろしいのです。しかし、牛馬の血を懐に入れてそれで私の血に見せるなどまでは少々幼き茶々様には見苦しいものだったのでは?」
「そのくらい耐えねばなりません」
「で、宇津呂殿の事はどういたします?」
「宇津呂には新しき任について貰います。甲斐に行き武田の動きを逐一知らせなさい」
「やはり織田家は次は武田?」
「兄上は武田への恨みは消えていないはず。足利義昭の呼びかけで動いた武田信玄、あの時織田家は間違いなく窮地でした。その時の恨み、代は代わりましたが必ず晴らすはずです」
「なるほど、では私はすぐに甲斐に向かいます。これにて御免」
宇津呂はすぐに甲斐に向かった。
「さつき、小太郎、引き続き茶々の様子事細かく教えなさい。あの子には裏から天下を取る姫になってもらう為に成長させなければなりません」
「はっ」
「かしこまりました」
茶々を強い女子として成長させたい。
浅井の血を残すためにも・・・・・・。




