「燃え尽きる呪いの血」
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私には、忘れられない匂いがある。
それは、燃え盛る炎が木材を焦がす甘い焦げ臭さと、血の鉄錆びた生臭さが混じり合ったものだ。
今、大阪城の天守が炎に飲み込まれ、黒煙が私の喉を締め付け、熱が肌を焼くこの瞬間、私は笑みを抑えきれずにいる。
ついに、この呪われた血が途絶えるのだ。
伯父・織田信長が我が浅井家を滅ぼし、豊臣秀吉が母上様を奪い、私をこの乱世に放り込んだその日から、私はずっと待ち望んでいた。
この日を。
この終わりを。
1615年、夏の陣。
徳川家康の軍勢が城を囲み、鉄砲の音が絶え間なく大気を切り裂く。
天守の屋根からは赤黒い火柱が空を突き刺し、石垣は熱でひび割れ、庭の松の木が燃え上がる。
灰が風に舞い、まるで亡魂の涙のように私の髪に降り積もり、着物の裾を汚す。
その灰は、かつて小谷城で見た灰と同じだ。
あの時も、こうして風が炎を煽り、すべてを焼き尽くした。
私は目を細め、遠くに広がる炎の海を見つめる。
赤と黒が混じり合った焰は、まるで血の川が天に昇るかのように蠢いている。
家臣たちは逃げ惑い、ある者は裏切って敵に寝返り、ある者は斬られて血だまりに沈む。
その混乱の只中で、私は秀頼と共に城の奥深く、隠し部屋に身を潜めている。
部屋は狭く、薄暗い。
壁には古びた木の模様が浮かび、長年の湿気が染みついている。
畳には埃が薄く積もり、足を置くたびに微かな軋みが響く。
空気は熱く、息をするたびに肺が焼けるような痛みが走る。
窓のないこの場所に、外の炎の光が漏れ入り、壁に揺れる影を投じる。
その影は、まるで私を嘲笑う亡魂の舞のように蠢く。
天井からは焦げた木の匂いが漂い、遠くで梁が崩れ落ちる音が響く。
煙が床を這うように広がり、足元から這い上がり、私の喉を締め付ける。
その苦しさの中で、私は目を細め、外の喧騒に耳を澄ませる。
鉄砲の乾いた音、兵たちの叫び声、燃える木の裂ける音。
それらが混ざり合い、地獄の楽曲のように私の耳を満たす。
だが、私の胸は奇妙なほどに静かだ。
復讐の時が近づいているという確信が、私を冷たく、落ち着かせている。
「母上様」
秀頼が私の隣で小さく呟く。
まだ幼さの残るその顔に、覚悟の色が浮かんでいる。
薄明かりの中で見るその横顔は、秀吉の丸みを帯びた優しさよりも、伯父・織田信長の鋭い眼光を思わせる。
その瞳には、幼い頃の無垢さはもうなく、戦乱の中で育った若者の硬さが宿っている。
私はこやつを見ながら、心の中で笑う。
そなたが死ねば、全てが終わる。
伯父の野望が、呪いが、豊臣の名が、ここで灰になる。
それが、私の復讐なのだ。
「どうか落ち着いてください」
秀頼の声には震えがない。
こやつは私より強いのか、と一瞬思う。
だが、その静けさは諦めなのか、それとも何か別の覚悟なのか、私には測りかねる。
私は笑みを浮かべようとしたが、顔が強張って動かない。
長年の憎しみが、私の表情すら固く縛っているのかもしれない。
「秀頼、そなたは私の子だ。そなたが死ねば、伯父・織田信長の血も一つ消える。それでよい。私はそれで満足だ」
私は冷たく言い、こやつの手を握った。
その手は冷たく、汗で湿っている。
だが、しっかりと握り返してくるその力に、私は一瞬、母としての疼きを感じた。
こやつの小さな指が、私の手の中で微かに動く。
その感触は、かつて秀頼が生まれたばかりの頃、産屋で初めて触れた時の柔らかさを思い出させる。
あの時、私はこやつを抱きながら、秀吉の笑顔を見ていた。
だが、その記憶はすぐに伯父の冷たい目と重なり、私の胸を締め付ける。
私はその疼きを振り払う。
こやつは私の子であると同時に、私の復讐の道具なのだ。
その血には、伯父の毒が流れている。
その毒を絶つために、私はこやつを生かし、ここまで育ててきた。
そして今、その時が来たのだ。
私の復讐心は遠く、小谷城の炎に遡る。
あの時、私はまだ幼かった。
五歳か六歳だったか、記憶は曖昧だが、炎の熱さと母上様の涙だけは鮮明に残っている。
父上様・浅井長政が伯父に裏切られ、浅井家が滅ぼされた日。
母上様・お市の方は、伯父の妹でありながら、その兄の手で夫を殺され、城を焼かれた。
私は母上様の腕の中で見た。
炎に包まれた小谷城。
赤と黒が混じり合った火の手が、天守を飲み込み、石垣を焦がす。
その光はまるで血のように私の目に映り、網膜に焼き付いた。
家臣たちが逃げ惑う叫び声が響き、風が炎を煽るたびに、熱風が私の頬を叩いた。
母上様の腕の中で、私は震えていた。
だが、母上様は私を強く抱きしめ、ただ一言、こう言った。
「茶々、生きなさい。強く生きなさい」
その声は震えていた。
母上様の瞳には涙が浮かび、頬を伝って私の髪に落ちた。
その冷たい滴が、私の肌に触れた瞬間、私は母上様の心の奥に燃える憎しみを感じた。
母上様は伯父を恨んでいた。
夫を奪われ、家を焼かれ、無力感に苛まれながら、それでも私を生かすために耐えていた。
その時、私は見た。
伯父の兵が父上様の首を掲げる姿を。
その首は血に濡れ、目を見開いたまま私を見つめていた。
母上様は声を殺して泣き、私をさらに強く抱きしめた。
その瞬間、私は思った。
この男が、私の全てを奪ったのだ。
父上様を、母上様の笑顔を、浅井家の誇りを。
そして、その血を私に残した。
私はその日から、伯父を憎んだ。
幼い心に芽生えたその感情は、年を重ねるごとに大きくなり、私を支配するようになった。
母上様は私に生きることを命じたが、その命は憎しみと共に育った。
私は強く生きると誓ったが、それは伯父への復讐を果たすためだった。
部屋の隅では侍女たちが泣き叫んでいる。
彼女たちは長年私に仕え、そばにいた者たちだ。
お菊、お松、そして名も知らぬ若い娘たち。
彼女たちの顔には恐怖が浮かび、涙が頬を濡らす。
その声は煙に混じり、かすれて私の耳に届く。
だが、私は冷たく思う。
そなたらもこの呪いの連鎖の一部だ。
伯父の血が流れ、豊臣の名を支えた者たち。
その命もここで終わるのがふさわしい。
お菊が私にすがりついてきた。
「淀の方様、どうかお逃げください! まだ間に合います!」
彼女の声は震え、涙が私の着物の袖を濡らす。
その瞳には、かつて母上様の面影が重なる。
母上様が小谷城の炎の中で私を見つめた、あの悲しげな目。
だが、私はお菊の手を振り払い、冷たく言った。
「逃げん。この炎が全てを終わらせる。それが私の望みだ」
お菊は目を丸くし、なおも訴えた。
「淀の方様、秀頼様を・・・・・・せめて秀頼様だけでも!」
その言葉に私は笑った。
笑い声が喉の奥から漏れ、煙に混じって部屋に響く。
「秀頼が死ねば、伯父の血が終わる。それでよい。そなたらも、ここで死ね。それが定めだ」
侍女たちは互いに顔を見合わせ、絶望に沈んだ。
炎がさらに近づき、部屋の壁が赤く染まる。
熱が畳を焦がし、煙が視界を覆う。
その中で、お松が突然立ち上がり、叫んだ。
「淀の方様! わたくしどもは最後までお供します!」
彼女は短刀を手にし、自らの喉を刺した。
血が畳に飛び散り、お松は呻きながら倒れた。
その体が畳に沈む音が、煙の中で鈍く響く。
お菊が悲鳴を上げ、他の侍女たちも次々と短刀を手に取った。
一人が喉を掻き切り、一人が胸を刺し、血と涙が混じり合う。
部屋は死の匂いで満たされた。
私はそれを見て、心の中でつぶやいた。
そなたらの死も、伯父への復讐の一部だ。
この血が全て燃え尽きる時、私の呪いが解ける。
侍女たちの体が畳に重なり、息絶えた瞬間、私は秀頼に目を戻した。
炎が近づき、熱が肌を焦がす。
私は刀を手に持った。
秀頼の首を一閃で落とし、その後に私も喉をかっさばく。
それが最後の道だ。
「秀頼、そなたを先に逝かせてしまうのは、母として辛い。だが、これで伯父の血が終わる。許せ」
刀を構える。
秀頼は目を閉じ、静かに頷いた。
こやつは、最後まで私の子だった。
その瞬間、私は一瞬だけためらった。
刀の刃が薄明かりに反射し、秀頼の首筋に影を落とす。
その白い肌に、幼い頃の記憶が重なる。
秀頼がまだ乳飲み子だった頃、私はこやつを抱きながら、秀吉と共に笑っていた。
あの時、秀吉は言った。
「茶々、この子がわしの跡を継ぐ。豊臣の名を永遠に残すんじゃ」
その言葉に、私は微笑んだ。
だが、心の奥では、伯父の血がこの子に流れている事実が、私を刺すように疼いていた。
秀吉の笑顔を見ながら、私は思っていた。
この子が育ち、豊臣を継ぐ日が来れば、伯父の野望が再び息を吹き返すのではないか、と。
その恐れが、私を夜ごと苛んだ。
秀頼が眠る横で、私は目を閉じ、伯父の顔を思い浮かべた。
あの冷たい目。
小谷城で父上様の首を掲げた時の、無感情な笑み。
その顔が、秀頼の寝顔に重なるたび、私は布団の中で震えた。
私は秀頼を愛していた。
母として、こやつを守りたいと思った。
だが、同時に、こやつを憎んでいた。
その血が、私を苦しめる呪いの根源だったからだ。
そして今、その呪いを終わらせる時が来た。
刀を握る手が微かに震える。
だが、その震えを抑え、私は目を閉じた。
その時、扉が叩かれ、大野治長の声が響いた。
「殿! 御方様、お逃げください! まだ道があります!」
私は刀を下ろし、秀頼を見た。
逃げる? 笑止千万だ。
だが、治長の必死な声に、少しだけ心が揺れた。
私は秀頼に尋ねた。
「母上様?」
秀頼が小さな声で言う。
その瞳には、私への信頼と、かすかな希望が宿っている。
私は笑った。
「行くか。だが、逃げ切れんでも構わん。どうせ終わりは同じだ」
立ち上がり、治長の後に続いた。
煙の中を走り、隠し通路を抜ける。
熱が背中を焼き、咳が止まらない。
通路の壁は熱で膨張し、木が軋む音が響く。
足元は不安定で、石の隙間から熱風が吹き上げる。
その風が私の髪を乱し、着物の裾を焦がす。
治長が前を走り、時折振り返って私を見る。
その顔には汗と血が混じり、必死さが滲んでいる。
「御方様、こちらです! 急いで!」
私は息を切らせながら、秀頼の手を引いて進む。
こやつの手は冷たく、しかししっかりと私の手を握り返す。
その感触に、私は一瞬、母としての疼きを感じた。
だが、すぐにそれを振り払う。
逃げた先に何があろうと、私の目的は変わらない。
秀頼が死に、私が死に、伯父の血が終わる。
それが私の望みだ。
通路の先で、光が見えた。
だが、その光は希望ではなく、死の予兆だった。
徳川の兵が待ち構えていた。
鉄砲の銃口がこちらを向き、兵たちの目が冷たく光る。
治長が刀を抜き、叫びながら斬りかかった。
「御方様を逃がせ!」
その声が響くや否や、鉄砲の音が鳴り響いた。
治長の体が震え、血が飛び散る。
彼の体が私の足元に崩れ落ち、血が私の足を濡らす。
その温かさが、私の肌に染み込む。
私は一瞬、目を閉じた。
治長の死に顔を見たくなかった。
彼は最後まで忠義を尽くした。
だが、その忠義も、この炎の中で灰になる。
秀頼が私を庇うように前に出た。
「母上様、逃げてください!」
その声に、私は冷たく笑った。
「逃げん。そなたと共に行く。それが私の望みだ」
鉄砲の音が再び鳴り響き、秀頼の体が震えた。
血が流れ、私の着物を染める。
秀頼は私の腕の中で息を引き取った。
その瞳が閉じる瞬間、私はこやつの顔を見つめた。
幼い頃の笑顔が、戦乱の中で硬くなった表情が、私の脳裏をよぎる。
「秀頼、そなたで終わりだ。伯父・織田信長の血が、野望がここで途絶えた」
私は微笑みながら、こやつを抱きしめた。
鉄砲の弾が私にも当たる。
痛みはない。
ただ、解放感が広がる。
炎が近づき、煙が視界を覆う。
私は秀頼を抱きしめたまま動けなくなった。
だが、その瞬間、記憶が私の心を攫った。
遠く、小谷城の炎が再び私の目に映る。
私が茶々と呼ばれていた頃、私はまだ幼かった。
浅井長政の娘として生まれ、母上様・お市の方の腕の中で育った日々。
小谷城は、父上様の誇りが宿る場所だった。
石垣は苔に覆われ、風が吹くたびに松の葉がそよぎ、城下からは家臣たちの笑い声が聞こえてきた。
私は母上様の手を引かれ、城の庭を歩いた。
その手は柔らかく、温かく、私を包むように守ってくれた。
母上様はよく、私に飯を握ってくれた。
白い飯に、梅の赤が映える小さな握り飯。
それを手に持たせ、私の髪を撫でながら言った。
「茶々、この飯を食べれば、そなたは強くなる。父上様の娘として、立派に育つのだぞ」
その飯の味は、ほのかな塩気と梅の酸味が混じり合い、幼い私には少し大人びた味だった。
だが、母上様の笑顔を見ながら食べると、それが何よりも美味に感じられた。
父上様が時折、馬に乗って戻ってくる姿を眺めながら、私は母上様の膝に凭れ、飯を頬張った。
父上様の甲冑が陽光に反射し、馬の蹄が土を叩く音が響く。
その音は、私に安心を与えた。
だが、その平穏は長くは続かなかった。
伯父・織田信長が、父上様を裏切ったのだ。
小谷城が炎に包まれた日、私は母上様の腕の中で震えていた。
空が赤く染まり、風が炎を煽るたびに、熱風が私の頬を叩いた。
家臣たちの叫び声が響き、鉄砲の音が耳を劈く。
私は母上様にしがみつき、何が起こっているのか分からなかった。
ただ、母上様の腕が私を強く抱きしめ、その震えが私に伝わってきた。
「茶々、目を閉じなさい。何も見なくてよい」
母上様の声は震えていた。
だが、私は目を閉じることができなかった。
炎が天守を飲み込み、石垣を焦がす光景が、私の目に焼き付いた。
その時、私は見た。
伯父の兵が父上様の首を掲げる姿を。
その首は血に濡れ、目を見開いたまま私を見つめていた。
母上様は声を殺して泣き、私をさらに強く抱きしめた。
その瞬間、私は思った。
この男が、私の全てを奪ったのだ。
父上様を、母上様の笑顔を、浅井家の誇りを。
そして、その血を私に残した。
炎が収まった後、母上様は私とお初を連れて、小谷城を去った。
焼け落ちた城の残骸を見ながら、私は母上様の手を握った。
その手は冷たく、汗で湿っていた。
母上様の顔は青ざめ、瞳には深い悲しみが宿っていた。
だが、その奥に、私は何かを見た。
憎しみだ。
伯父への、深い憎しみ。
「母上様、どこへ行くのです?」
私が問うと、母上様は一瞬、私を見下ろした。
そして、静かに言った。
「茶々、生きなさい。強く生きなさい。それが、私にできることだ」
その言葉が、私の胸に刺さった。
生きる?
強く生きる?
私はその意味を理解できなかった。
だが、母上様の声に込められた覚悟が、私に何かを植え付けた。
それは、憎しみの種だった。
その後、私たちは伯父の庇護の下に置かれた。
母上様は伯父の妹として、安土城で暮らすことを余儀なくされた。
私は伯父の顔を見るたび、胸が締め付けられる思いだった。
あの冷たい目。
無感情な笑み。
父上様の首を掲げた時の表情が、私の脳裏に焼き付いて離れなかった。
ある日、母上様が私とお初を連れて、城の厨房を訪れたことがあった。
そこでは、飯が炊かれ、魚が焼かれていた。
木のまな板には、鯛の切り身が並び、炭火の上で焼かれるその匂いが漂っていた。
母上様は私に小さな包みを渡した。
それは、飯に海苔を巻いたものだった。
「茶々、これを食べなさい。そなたとお初が生きる力になる」
私はその包みを受け取り、口に運んだ。
飯の温かさと海苔の香ばしさが広がり、一瞬だけ、幼い頃の平穏を思い出した。
だが、その味はすぐに苦さに変わった。
伯父の存在が、私の全てを歪めていたからだ。
母上様は私を見つめ、静かに言った。
「茶々、そなたは私の子だ。だが、そなたの中には、あやつの血も流れている。それを忘れるな」
その言葉に、私は目を丸くした。
伯父の血?
私の体に、その毒が流れているというのか?
その瞬間、私の中で何かが芽生えた。
憎しみだ。
伯父への、そして私自身への憎しみ。
心が大坂城に戻る。
私は秀頼の亡骸を抱きしめたまま、煙の中で立ち尽くしていた。
徳川の兵が近づいてくる。
鉄砲の音が響き、弾が私の体をかすめる。
だが、私は動かない。
痛みはない。
ただ、解放感が私の心を満たしている。
私の復讐は、ここで果たされた。
伯父が始めたこの血の連鎖が、秀頼の死で終わる。
秀吉が築いた豊臣も、ここで滅びる。
徳川家康が勝ったと思うがよい。
だが、私の望みは叶った。
私は目を閉じ、記憶を遡る。
秀吉との日々。
あの男は、私を愛し、私を側室とした。
秀頼が生まれた時、秀吉は笑顔で言った。
「茶々、この子がわしの跡を継ぐ。豊臣の名を永遠に残すんじゃ」
その言葉に、私は微笑んだ。
だが、心の奥では、伯父の血がこの子に流れている事実が、私を刺すように疼いていた。
秀吉の笑顔を見ながら、私は思っていた。
この子が育ち、豊臣を継ぐ日が来れば、伯父の野望が再び息を吹き返すのではないか、と。
その恐れが、私を夜ごと苛んだ。
秀頼が眠る横で、私は目を閉じ、伯父の顔を思い浮かべた。
あの冷たい目。
小谷城で父上様の首を掲げた時の、無感情な笑み。
その顔が、秀頼の寝顔に重なるたび、私は布団の中で震えた。
私は秀頼を愛していた。
母として、こやつを守りたいと思った。
だが、同時に、こやつを憎んでいた。
その血が、私を苦しめる呪いの根源だったからだ。
私は秀頼の亡骸を抱きしめたまま、煙の中で立ち尽くしていた。
炎が私の髪を焦がし、熱が肌を焼く。
徳川の兵が近づいてくる足音が聞こえる。
鉄砲の音が響き、弾が私の体をかすめる。
だが、私は動かない。
痛みはない。
ただ、解放感が私の心を満たしている。
私の復讐は、ここで果たされた。
伯父・織田信長が始めたこの血の連鎖が、秀頼の死で終わる。
秀吉が築いた豊臣も、ここで滅びる。
徳川家康が勝ったと思うがよい。
だが、私の望みは叶った。
私は目を閉じ、記憶を遡る。
秀吉との日々が、私の脳裏に浮かぶ。
小谷城が焼け落ちた後、母上様は私とお初を連れて、伯父の庇護の下に身を寄せた。
安土城での暮らしは、私にとって耐え難いものだった。
伯父の冷たい目を見るたび、父上様の首が掲げられた光景が蘇り、胸が締め付けられた。
だが、母上様は私に言った。
「茶々、生きなさい。それが、私にできることだ」
その言葉に従い、私は生き続けた。
だが、その命は憎しみと共に育った。
やがて、母上様は秀吉と再婚し、私はその男の側に引き取られた。
豊臣秀吉。
あの男は、伯父とは異なる笑顔を持っていた。
丸みを帯びた顔に、柔らかな瞳。
その笑顔は、まるで陽光のように私を包んだ。
だが、その笑顔の下に、私は何かを感じていた。
野心だ。
伯父と同じ、燃え盛る野心。
秀吉との暮らしは、安土城とは異なる色彩に満ちていた。
聚楽第の庭には、桜が咲き乱れ、風が吹くたびに花びらが舞った。
秀吉は私を膝に抱き、よくこう言った。
「茶々、お前はわしの宝じゃ。そなたのような娘がそばにおれば、わしは何も怖くない」
その言葉に、私は微笑んだ。
だが、心の奥では、冷たい刃が疼いていた。
この男は、母上様を伯父から奪い、私をこの乱世に縛り付けた。
そして、その血には、伯父の影が潜んでいる。
秀頼が生まれたのは、そんな日々の中だった。
産屋の空気は湿り気を帯び、汗と血の匂いが混じり合っていた。
私は痛みに耐えながら、秀吉の手を握った。
その手は大きく、温かく、私を支えるように力強かった。
やがて、産声が響き、秀頼が私の腕に渡された。
小さな体。
柔らかな肌。
その瞳は、まだ何も見ていないかのように澄んでいた。
秀吉は笑顔で言った。
「茶々、この子がわしの跡を継ぐ。豊臣の名を永遠に残すんじゃ」
その言葉に、私は微笑んだ。
だが、心の奥では、伯父の血がこの子に流れている事実が、私を刺すように疼いていた。
秀吉の笑顔を見ながら、私は思っていた。
この子が育ち、豊臣を継ぐ日が来れば、伯父の野望が再び息を吹き返すのではないか、と。
その恐れが、私を夜ごと苛んだ。
秀頼が眠る横で、私は目を閉じ、伯父の顔を思い浮かべた。
あの冷たい目。
小谷城で父上様の首を掲げた時の、無感情な笑み。
その顔が、秀頼の寝顔に重なるたび、私は布団の中で震えた。
私は秀頼を愛していた。
母として、こやつを守りたいと思った。
だが、同時に、こやつを憎んでいた。
その血が、私を苦しめる呪いの根源だったからだ。
秀頼が成長するにつれ、秀吉は私に多くのものを与えた。
絹の着物、黄金の髪飾り、聚楽第の広間での宴。
ある日、秀吉は私を連れて、厨房を訪れた。
そこでは、鯉が焼かれ、飯が炊かれていた。
炭火の上に置かれた鉄串には、鯉の身が滴る脂と共に焼かれ、その匂いが漂っていた。
秀吉は私に一欠けを差し出し、言った。
「茶々、食べてみい。この鯉は、わしが自ら釣ったんじゃ。そなたに食わせたくてな」
私はその鯉を受け取り、口に運んだ。
皮はパリッと焼き上がり、身は柔らかく、ほのかな甘みが広がった。
秀吉は私の顔を見て、満足げに笑った。
「どうじゃ? 美味いじゃろ?」
私は頷き、微笑んだ。
だが、その味は、私の胸に冷たい刃を突き刺した。
この男の優しさが、私を縛る鎖だったからだ。
秀吉は私を愛し、秀頼を愛した。
だが、その愛は、伯父の血を私の子に受け継がせた。
秀吉が死に、私は秀頼と共に大坂城に移った。
こやつは、幼いながらも、豊臣の跡継ぎとしての覚悟を見せていた。
ある日、秀頼は私にこう言った。
「母上様、わしは父上の遺志を継ぐ。豊臣を再び強くするんじゃ」
その言葉に、私は目を細めた。
こやつの瞳には、秀吉の優しさと、伯父の鋭さが混じり合っていた。
私は微笑みながら、心の中で思った。
そなたが強くなればなるほど、伯父の血が色濃くなる。
そして、私の復讐が遠ざかる。
部屋の隅で、侍女たちの声が再び響いた。
お菊、お松、そして名も知らぬ若い娘たち。
彼女たちは煙の中で泣き叫び、私にすがりついてきた。
「淀の方様! お逃げください! まだ間に合います!」
お菊の声は震え、涙が私の着物の袖を濡らす。
その瞳には、かつて母上様の面影が重なる。
母上様が小谷城の炎の中で私を見つめた、あの悲しげな目。
私はお菊の手を振り払い、冷たく言った。
「逃げん。この炎が全てを終わらせる。それが私の望みだ」
お菊は目を丸くし、なおも訴えた。
「淀の方様、秀頼様を・・・・・・せめて秀頼様の遺体を!」
その言葉に、私は笑った。
笑い声が喉の奥から漏れ、煙に混じって部屋に響く。
「秀頼が死ねば、伯父の血が終わる。それでよい。そなたらも、ここで死ね。それが定めだ」
侍女たちは互いに顔を見合わせ、絶望に沈んだ。
炎がさらに近づき、部屋の壁が赤く染まる。
熱が畳を焦がし、煙が視界を覆う。
その中で、お松が突然立ち上がり、叫んだ。
「淀の方様! わたくしどもは最後までお供します!」
彼女は短刀を手にし、自らの喉を刺した。
血が畳に飛び散り、お松は呻きながら倒れた。
その体が畳に沈む音が、煙の中で鈍く響く。
お菊が悲鳴を上げ、他の侍女たちも次々と短刀を手に取った。
一人が喉を掻き切り、一人が胸を刺し、血と涙が混じり合う。
部屋は死の匂いで満たされた。
私はそれを見て、心の中で呟いた。
そなたらの死も、伯父への復讐の一部だ。
この血が全て燃え尽きる時、私の呪いが解ける。
侍女たちの体が畳に重なり、息絶えた瞬間、私は再び秀頼に目を戻した。
炎が近づき、熱が肌を焦がす。
私は刀を手に持った。
秀頼の首を一閃で落とし、その後に私も喉をかっさばく。
それが最後の道だ、と私は思っていた。
だが、その時、別の声が響いた。
「姉上様!」
煙の向こうから、お初が現れた。
妹のお初は、息を切らせながら私に駆け寄ってきた。
その顔は煤に汚れ、瞳には涙が浮かんでいる。
「お初、どうしてここに?」
私が問うと、お初は私の腕にしがみついた。
「姉上様を置いて逃げられません! 母上様が生きなさいと仰った。その言葉を、私は守りたい!」
お初の声には、幼い頃の純粋さが残っていた。
私は一瞬、目を閉じた。
母上様の言葉が、私の耳に蘇る。
「茶々、生きなさい。強く生きなさい」。
その言葉が、お初にも刻まれていたのだ。
「お初、そなたは生きろ。私はここで終わる。それが私の定めだ」
私は冷たく言い、お初の手を振り払った。
だが、お初はなおも私にすがりついた。
「姉上様、私には姉上様しかいない! お江は徳川に嫁ぎ、私は姉上様と共にある。それを奪わないでください!」
その言葉に、私は一瞬、心が揺れた。
お初の瞳に、母上様の面影が重なる。
あの優しい目。
小谷城で私を抱きしめた時の、温かい腕。
私はお初を見つめ、静かに言った。
「お初、そなたは生きろ。私の分まで生きて、母上様の願いを叶えろ。私はもう、生きる意味を失った」
お初は涙を流しながら、私の手を握った。
その手は震え、熱い涙が私の肌に落ちる。
「姉上様・・・・・・」
その声が、煙の中でかすかに響いた。
私はお初の手を振り払い、刀を構えた。
炎が私の髪を焦がし、熱が私の体を包む。
徳川の兵が近づいてくる。
私は笑った。
「伯父、お前が始めたこの血の連鎖が、ようやく終わる。秀吉、お前が築いた豊臣も、ここで滅びる。徳川家康、お前が勝ったと思うがよい。だが、私の復讐は果たされた」
刀が私の喉に近づく。
だが、その瞬間、お初が私の腕に飛びついた。
「姉上様、やめてください!」
その声に、私は一瞬、手を止めた。
お初の瞳が、私を強く見つめている。
その瞳に、私は母上様を見た。
そして、幼い頃の自分を見た。
お初の瞳が、私を強く見つめている。
その瞳に、母上様の優しさが宿り、幼い頃の私が映っている。
私は一瞬、刀を握る手を緩めた。
煙が私の喉を締め付け、炎が私の髪を焦がす。
徳川の兵が近づいてくる足音が、耳に届く。
鉄砲の音が響き、弾が私の着物の裾をかすめる。
だが、私は動かない。
お初の手が、私の腕にしっかりと絡みついている。
「姉上様、やめてください! 私には姉上様しかいない!」
お初の声は震え、涙がその頬を濡らす。
その涙が、私の着物に落ち、熱い煙の中で冷たく感じられた。
私はお初を見つめ、心の中で呟いた。
そなたは、私の妹だ。
母上様の血を引き、浅井家の最後の灯だ。
だが、私にはもう、生きる意味がない。
秀頼が死に、伯父・織田信長の血がここで途絶えた。
私の復讐は果たされたのだ。
「お初、そなたは生きろ。私の分まで生きて、母上様の願いを叶えろ。私はここで終わる。それが私の定めだ」
私は冷たく言い、お初の手を振り払おうとした。
だが、お初はなおも私にしがみついた。
「姉上様、私を置いていかないでください! 母上様が生きなさいと仰った。その言葉は、姉上様にも届いているはずです!」
その言葉に、私は目を細めた。
母上様の声が、私の耳に蘇る。
「茶々、生きなさい。強く生きなさい」。
その言葉が、私をここまで導いてきた。
だが、その生きる意味は、伯父への復讐だった。
復讐が果たされた今、私には何が残っているというのだ?
「お初、母上様の願いは、私には重すぎた。そなたがその願いを引き継げ。私はもう、疲れたのだ」
私の声は、煙に混じってかすかに響いた。
お初は唇を噛み、私の手をさらに強く握った。
「姉上様が疲れたなら、私が支えます。私がそばにいる。それでいいでしょう?」
その純粋な言葉が、私の胸を刺した。
私は一瞬、目を閉じた。
お初の瞳に、母上様の面影が重なる。
あの優しい目。
小谷城で私を抱きしめた時の、温かい腕。
私はお初を見つめ、静かに言った。
「お初、そなたは強くなったな。母上様に似てきた」
お初は涙を流しながら、微笑んだ。
その笑顔が、私の心に小さな灯をともした。
だが、その灯はすぐに消えた。
徳川の兵が煙の向こうから現れ、刀を構えた。
鉄砲の銃口が私とお初に向けられる。
「淀の方様、ここで終わりだ!」
兵の一人が叫び、刀を振り上げた。
私はお初を庇うように前に立ち、刀を構えた。
その瞬間、私は思った。
お初を死なせるわけにはいかない。
母上様の願いを、そなたが生きて叶えるのだ。
「お初、逃げろ!」
私は叫び、お初を突き飛ばした。
お初はよろめきながら、私を見た。
その瞳には、恐怖と悲しみが混じり合っていた。
「姉上様!」
お初の声が響く中、私は徳川の兵に向かって刀を振った。
刃が空を切り、敵の刀とぶつかる。
火花が散り、煙の中で一瞬だけ光った。
鉄砲の音が鳴り響き、弾が私の肩を貫いた。
血が流れ、痛みが私の体を走る。
だが、私は笑った。
「伯父、お前が始めたこの血の連鎖が、ここで終わる。秀吉、お前が築いた豊臣も、ここで滅びる。徳川家康、お前が勝ったと思うがよい。だが、私の復讐は果たされた」
刀が私の手から落ちる。
徳川の兵が再び刀を振り上げ、私の胸を貫いた。
血が流れ、視界が暗くなる。
私は倒れながら、お初を見た。
お初は煙の中で立ち尽くし、私を見つめていた。
その瞳に、涙が溢れている。
「お初、生きろ・・・・・・」
私の声は、煙に混じってかすかに響いた。
お初は頷き、隠し通路の奥へと走った。
その背中が、煙の中で小さくなる。
私は微笑んだ。
そなたが生きれば、母上様の願いが叶う。
それでよい。
私は畳に倒れ、血が私の体から流れ出る。
炎が私の周りを包み、熱が私の肌を焼く。
煙が私の喉を締め付け、息が苦しくなる。
だが、私は痛みを感じない。
ただ、解放感が私の心を満たしている。
秀頼の亡骸が、私の横に沈んでいる。
その冷たくなった体が、私の腕に触れる。
私はこやつを見つめ、心の中で呟いた。
そなたが死に、私の復讐が果たされた。
伯父の血が、ここで終わる。
それでよい。
遠くで、大坂城の天守が崩れ落ちる音が響く。
その音は、まるでこの城が最期の息を吐いているかのようだ。
灰が私の髪に降り積もり、着物を汚す。
その灰は、かつて小谷城で見た灰と同じだ。
あの時も、こうして風が炎を煽り、すべてを焼き尽くした。
私は目を閉じ、記憶を遡る。
小谷城の炎。
母上様の涙。
父上様の首を掲げる伯父の冷たい目。
その全てが、私をここまで導いてきた。
私は生き続けた。
強く生き続けた。
だが、その生きる意味は、復讐だった。
復讐が果たされた今、私には何も残っていない。
いや、一つだけ残っている。
お初だ。
私の妹。
母上様の願いを引き継ぐ者。
そなたが生きれば、私の死にも意味が生まれる。
私は微笑んだ。
炎が私の体を包み、熱が私の意識を奪う。
徳川の兵が私の周りに集まり、刀を構える。
だが、私は動かない。
私の復讐は果たされた。
私の呪いは解けた。
「伯父、お前が始めたこの血の連鎖が、ようやく終わる。秀吉、お前が築いた豊臣も、ここで滅びる。徳川家康、お前が勝ったと思うがよい。だが、私の復讐は果たされた」
私の声は、煙の中でかすかに響いた。
刀が私の喉を貫く。
血が流れ、視界が暗くなる。
私は自由だ。
ようやく、自由になれた。
私の意識が薄れていく中、風が吹いた。
その風は、炎を煽り、煙を散らす。
私の髪が揺れ、灰が舞い上がる。
その灰は、まるで私の魂が天に昇るかのように、風に乗り遠くへ運ばれていく。
私は目を閉じ、最後の記憶を辿った。
母上様の腕の中で見た、小谷城の炎。
あの赤と黒が混じり合った焰は、私の全てを奪った。
父上様を、母上様の笑顔を、浅井家の誇りを。
だが、その焰は、私に生きる力を与えた。
母上様の言葉が、私を支えた。
「茶々、生きなさい。強く生きなさい」。
その言葉が、私を復讐へと駆り立てた。
秀吉との日々。
あの男は、私を愛し、秀頼を愛した。
聚楽第の庭で、桜が舞う中、秀吉は私に笑いかけた。
その笑顔は、まるで陽光のようだった。
だが、その陽光の下に、伯父の影が潜んでいた。
秀頼が生まれ、育ち、豊臣の跡継ぎとして立つ。
その全てが、伯父の血を私の子に受け継がせた。
私は秀頼を愛していた。
母として、こやつを守りたいと思った。
だが、その愛は、伯父の血を絶つための刃でもあった。
秀頼が死に、私の復讐が果たされた。
その瞬間、私は自由を感じた。
お初の背中が、煙の中で小さくなる。
そなたは生きろ。
私の分まで生きて、母上様の願いを叶えろ。
そなたが生きれば、私の死にも意味が生まれる。
私はそなたを信じる。
炎が私の体を焼き尽くす。
熱が私の意識を奪い、煙が私の息を止める。
だが、私は笑っていた。
私の復讐は果たされた。
私の呪いは解けた。
私は自由だ。
遠くで、お初の足音が聞こえた気がした。
隠し通路を抜け、炎の外へと走る音。
そなたは生きるのだ。
母上様の願いを、浅井家の灯を、そなたが守るのだ。
私はそなたに全てを託した。
私の体が灰になる。
その灰が風に舞い、空に消える。
私は自由だ。
ようやく、自由になれた。
エピローグ
◆◇◆◇お初◆◇◆◇
大坂城が燃え尽きた。
天守は崩れ、石垣は熱でひび割れ、庭の松は灰となった。
徳川家康の軍勢が勝利を宣言し、豊臣の名は歴史から消えた。
だが、その炎の中で、一つの命が生き延びた。
お初は、隠し通路を抜け、煙の外へと逃れた。
彼女の手には、母上様が遺した小さな短刀が握られていた。
その短刀は、かつて私が手に持ったものと同じだ。
お初は涙を拭い、空を見上げた。
灰が舞う空に、姉の笑顔が浮かんだ気がした。
「姉上様、私は生きるよ。母上様の願いを、あなたの願いを、私は守る」
お初は短刀を袂にしまい、歩き出した。
その背中は、炎の残り香を背負いながら、強く、まっすぐだった。
彼女は生きる。
浅井家の灯を、母上様の願いを、茶々の復讐を胸に刻みながら。
大坂城の灰が風に舞う。
その灰は、遠くの空に消え、やがて静寂が訪れた。