宰相の告白
「王宮の部屋に戻られるとのことですが、我が公爵家で何か失礼でもありましたか?」
そんな問いかけに私は心底驚いた。
ええ!?
いやいや、何も不満はないし、むしろ良くしてもらい過ぎていると思ってるんだけど!
「そんなことはありません。ただ、理由もなくずっとお邪魔し続けるのは良くないと思いまして」
「理由ならあるでしょう?」
「ヴァニタス家の事件については処罰も終わりましたし、このところの様子を見てももう心配はないと思います」
そこまで言って、私は紅茶を飲むと喉を潤した。
言い出しにくいことを言おうとしている自覚がある。
「事件の方がついたのであれば私がべラルド家にお世話になり続けるわけにはいきません」
人が何かしてくれる時というのはその時々で何かしらの理由があるからだと思う。
例えば利害関係であったりとか、してもらったことに対するお返しやお礼だとか。
今回で言えば宰相としてはヴァニタス家の罪を暴き不正を正せたこと、べラルド卿個人としてはレイラ嬢からの望まない婚姻希望を退けられたことに対して感謝してくれているのかなと思う。
しかしそれも刑が執行された今終わったことだと言えた。
「では、ナツメ殿が納得できる理由があればいいと?」
「……まぁ、そうですけど……」
そこにどんな含みがあっての言葉なのかがわからず、私は若干曖昧な返答をした。
そして私の答えを聞いたべラルド卿は一つ頷くと思ってもみない言葉を続ける。
「私はナツメ殿に、今後も私のそばにいて欲しいと思っています」
「え?」
目の前のべラルド卿はいつもと比べるとどことなく落ち着かない様子に見える。
すべてのコース料理が出された後ということもあり、周りには給仕もおらずこの優美な空間に二人きり。
何となくべラルド卿から醸し出される雰囲気が甘い感じがして戸惑った。
「あなたのことをもっと知りたい、そして私のことも知って欲しい。だから、公爵夫人になりませんか?」
…………ええーー!?
『コウシャクフジンニナリマセンカ』
すべての言葉が外国語のように頭の中に響いた。
え……どういうこと?
『コウシャクフジン』ってことは『公爵夫人』で、それはつまりべラルド卿の奥さんということで?
「混乱させてしまい申し訳ありません。先ほども申し上げたように私はあなたのことをもっと知りたいと思っています。そして同時にあなたのことが心配でもある」
あーー……はい。
そうですね。
たしかに私はカノンちゃんと違って後ろ盾がある訳ではない。
王家から認められているとはいえ実際的には弱い立場ともいえた。
「今回の事件があって痛感しました。あなたにはもっと安全なところにいて欲しいと。そしてそれは私のそばであって欲しい」
だからって『公爵夫人』になるっていうのは飛躍しすぎなのでは?
「えっと、そもそもべラルド卿と私は恋人ではないですよね?」
「ええ、そうです」
「私は恋人になりたいんですけどね」なんて、そんな言葉を続けられて私はさらに混乱する。
「あの、そんな理由をつけなくても、どうしてもというのであれば他のそれらしい理由をつけてべラルド家にお世話になりますが!?」
混乱の結果、さっきお暇すると言ったばかりの言葉を撤回してしまったのは仕方ないだろう。
「どんな理由をつけようとも、使用人ではないご婦人がずっと滞在していれば口さがない者たちがいろいろと陰口を叩きます」
まぁ、そうよね。
ましてや相手は社交界でも人気のトルス国の宰相さま。
「私はそんな立場にあなたを置きたくはない。もちろん、あなたが私をそういった対象として見られないというのであれば諦めますが、可能性があるのならチャンスが欲しい」
サファイヤブルーの瞳がじっとこちらを見つめている。
その青に魅せられたかのように目を離すことができない。
「急に公爵夫人というのが難しければ婚約者でもかまいません。私はべラルド家の当主としてあなたを守りますし、あなたは我が家の家名を利用すればいい」
「利用だなんて……私が悪用したらどうするんですか?」
「あなたはそんなことはしないでしょう?」
その信用はいったいどこからくるのよーー!
そう心の中で叫びつつも、信じてもらえていることに殊の外嬉しさを感じる。
「レグルスくんが何て言うか……」
「レグルスは応援してくれています」
え……すでに息子公認ということでしょうか?
「ソレイユ殿下とか、反対するのでは?」
「殿下にもちゃんと掴まえておけと言われましたね」
殿下は私のことが気に入らないんじゃなかったのーー!?
まぁ、最近は悩み事相談にも来ていたからそうではないのかもしれないけど。
……外堀が埋められてるじゃないの。
そう思ったけれど、それが決して嫌ではなくて。
わかっている。
そもそもこの世界に来た時から、一貫して私を支えてくれたのはべラルド卿だ。
恋人どころか一足飛びに結婚の申し込みをされたことには本当に驚いたけれど、そもそもが政略結婚が当たり前の世界。
そして家門の名前が幅を利かせる世界でもあることを考えれば、べラルド卿の申し出はおかしなことではないのかもしれない。
私はどうしたいのだろう?
そっと心の中に問いかけて。
自分の中にその答えを探したのだった。
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