求職
「仕事ですか!?」
「そうです」
「いやしかし……」
「働かざる者食うべからずというでしょう? 働かなければ無収入。生きていけないじゃないですか」
とはいえ、トレス国の女性が家の中のこと以外の仕事をしているかはわからない。
家の内向きのことや夫とコミュニケーションを取ったり社交をすること、そして一番の仕事は後継者を産むことだと言われたとしても私は驚かないだろう。
外で働くなんて平民のやることだ、とかって高貴な女性は言いそうだよね。
リリアがこなしているような侍女の仕事ならあるかもしれないけれど、この国の常識を知らない私には荷が重い。
え?
そうなると私にできる仕事って何があるんだろう?
思わぬところで自分の無能さと向き合う羽目になりそうだった。
日本ではブラック企業の給与部というハードな仕事をしていたけど。
人ってあれよね。
お金が絡むと本当に性格が変わるから。
常日頃穏やかな人だって凶暴になったりする。
ふと頭の中に、本人のせいで給与の振り込みができなかったのに怒鳴り散らしてきた人の顔とかが浮かんでしまい、私は思い出したことを忘れるために緩く首を振った。
「トレス国において貴婦人は外で仕事をしません」
あー……やっぱり?
「基本的に女性は成人として認められる十五歳からだいたい十八歳頃までには結婚し、家を守ることが主な役割となりますので」
成人、十五ですか!?
早い!
じゃあ召喚された女子高生ですら成人扱いになってしまうということ?
いや、それよりも何よりも。
十八歳頃までには結婚するって……私ほぼその倍の年なんですけど?
行き遅れという言葉すら適さないくらいの行き遅れ感!
……思わず取り乱してしまった。
「そっ……そうなんですか……」
答える声が多少上擦ってしまったことは見逃して欲しい。
だって今まさに四面楚歌状態なんだもの。
外で仕事をする婦人がいないだなんて、孤立無縁じゃないの。
あれ?
でも待って。
今ベラルド卿は『貴婦人は』と言った。
ということは、平民の女性は働いているということよね。
……自分のことながら自意識過剰で少し恥ずかしい。
何がかって?
それは、ちゃっかり自分自身も『貴婦人』の枠に入っていると思い込んでいたことがよ。
考えてみれば日本では一般庶民。
こちらでも平民として生きていくのが妥当だろう。
なのでさっそく私は聞いた。
「平民の女性が従事している仕事を紹介していただくことは?」
そしてこの質問により、またしても私はベラルド卿に驚きの眼差しを向けられてしまうのだった。