宰相とのティータイム
『一人で立つ』ことと『誰にも頼らない』ことはイコールではない。
セラピアさんの言った言葉は私の中で大きな意味を持った。
どんなことも自己責任。
そう突きつけられることが多くあったこれまでで、気づけばだんだんと人に弱音を吐くことができなくなっていったのには覚えがある。
きっと上手に気持ちを吐露できる人は誰かとの未来を手に入れることができるのだ。
自分ではない誰かに心をあけ渡すことは怖いと、そう思った時点で私はあきらめてしまった。
自らが心を閉ざしているのに相手にだけ心を開いてもらおうなんて虫がいい話だろう。
「よくわかってるなぁ」
そう呟いたのは、セラピアさんが私の心情を理解していると思ったからだ。
もしかすると彼女もまた私と同じ気持ちを抱いたことがあったのかもしれない。
医師として私の気持ちを根掘り葉掘り聞くのではなく、過去の話をしてくれたのは彼女からのヒントだったのか。
少なくとも、彼女と話して気持ちが少し落ち着いたのはたしかだった。
夕闇を越え夜を迎えた部屋の中で、私は自分の心の中をのぞいている。
今日もまた眠ることのできない長い闇がやってくるのか。
どうすればいいのかもはや自分でもわかっていないのかもしれない。
コンコン。
そんな気持ちを抱えていたら、不意に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
「どうぞ」
「お休みのところ失礼します」
そう言って入ってきたのはリリアだった。
「どうしたの?」
「急ではありますが、べラルド卿がよろしければお茶をご一緒しませんかとおっしゃっています」
「べラルド卿が?」
べラルド卿と今日特に約束はしていない。
礼節を重んじるべラルド卿が先触れも無しに誘ってくることは珍しかった。
まぁ、突然の誘いが普通にあった世界から来た身としては、先んじて訪問の許可を得ないとお茶もできないことにむしろ戸惑いを覚えたものだけど。
「もちろん問題ないわ」
「ではそのようにお伝えします」
そう言ってリリアが部屋を辞してから、べラルド卿はそう時間をおかずにやってきた。
「急な誘いで申し訳ありません」
「いいえ。お気になさらず」
応接テーブルを挟んでべラルド卿が椅子に腰かける。
長い足を持て余すかのように組んだその姿は、改めて見ても目の保養になるくらいに整っていた。
テーブルの上にリリアが用意してくれたお茶と軽くつまめるクッキーや焼き菓子が置かれる。
何かを心得たかのように、リリアは用意を済ませると部屋から出ていった。
通常であれば誰が訪ねてきても彼女は自分の仕事が済めば部屋の隅で待機しているのに。
もしかするとべラルド卿からあらかじめ指示されていたのだろうか。
もちろん、いくら私がそこそこ年のいった女性であり、べラルド卿がすでに息子を持つ親であったとしてもそこは男と女。
あらぬ誤解を受けることのないように部屋のドアは少し開かれたままだ。
「セラピア様をご紹介いただきありがとうございます」
「ああ。身体的には特に問題はなかったと聞いているが……」
「はい」
「ただ……夜眠れていないのではないかとの報告を受けた」
「それは……」
咄嗟に『そんなことはない』と否定しようと思った。
今でも散々お世話になっているべラルド卿にさらに心配をかけるのは本意ではないし、これは自分の問題だと思っていたから。
でも。
『一人で立つ』ことと『誰にも頼らない』ことはイコールではない。
セラピアさんに言われたあの言葉がまた脳裏に浮かぶ。
今ここでべラルド卿の言葉を否定してもいいのだろうか?
私のことを心配してわざわざお茶の時間を作ってまで様子を見にきてくれた相手なのに?
ここで否定することはべラルド卿の気持ちをむしろ無下にしているのでは?
そんな考えが頭から離れなくなった。
何が正しいのかなんてわからないけれど。
べラルド卿の優しさが身に染みたから。
「実は……」
私は現状を伝えるために口を開いた。
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