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異世界に行った、そのあとで。  作者: 神宮寺 あおい@受賞&書籍化


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心の傷

「うう……」


 夢の中で、私は走っていた。

 後ろから追いかけてくる何者かから逃げるように。

 闇から浮かび上がる伸ばされた手が今にも私の肩をつかむ気がして私は一生懸命に走った。

 それなのに、恐怖に震えているのか覚束ない足を必死に動かして走ってもなぜか遅々として前に進まない。


 このままでは捕まっちゃう!


 そう思いながら、それでも必死に走る。


「……っひ!」


 後ろから迫ってくる何かにとうとう腕を掴まれた! と思ったところで、急に視界が反転した。

 驚きながら目を瞑り、バッと開けると目の前は暗闇に閉ざされている。


「……はっ! はっ!……」


 吸っても吸っても苦しい気がして呼吸が荒れた。

 異常なまでの速さで心臓が鼓動を刻んでいる。


「……あっ……はっ……」

 

 シンッとした静寂の中に私の荒い息遣いだけが聞こえてきた。


 苦しい。

 息ができない。


 そう思っている内に真っ暗闇だと思った視界にベッドの天蓋が映った。

 咄嗟に私は身を反転するとうつ伏せになる。

 そしてあえて意識をしながら息を吐き出した。

 

 吸って、吐いて、吐いて。


 吐くことに集中しながらリズムを大事に呼吸する。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 あれほど荒れていた呼吸がだんだんと落ち着きを取り戻していく。


「…………はぁ……」


 どうにか普通の呼吸ができるまでになって、私はもう一度辺りを見回した。


 私がいるのは公爵家の客室のベッドの上。

 誰も私を捕まえようとはしていないし追いかけてきているわけでもない。


 じっとりとした嫌な汗で濡れたナイトドレスが肌にまとわりつく。

 ひどく重く感じる体を持ち上げて身を起こすと、私はサイドテーブルの上に置かれた水差しからコップに水を入れてゆっくりと飲んだ。


「……夢?」


 飲んだ水で多少は潤わされたものの、カラカラに乾いた喉から掠れた呟きがこぼれ落ちる。


 夢……だ。

 何かに追いかけられる、夢。


 実際の私は誰に追いかけられることもなくベッドの上に座り込んでいるのだから。


「過呼吸?」


 今まで私自身が過呼吸になったことはない。

 それでも、見聞きしたことはあったから咄嗟に対処法を思い出したのだろう。

 正しい方法だったかどうかはわからないけれど、とりあえず呼吸が落ち着いてきたのはたしかだった。


 夢で過呼吸になるなんて思ってもみなかった。

 でも夢とは思えないくらいにリアルな恐怖を感じたから。

 

 なぜそんなことが起こったのかなんて、考えなくてもわかる。


「大丈夫だと思ったんだけどな……」


 小さなため息と共に呟きが溢れた。


 日中は大丈夫だったのに。

 事件の話をしても問題なかったのに。


『誘拐』という意味では私は稀なくらい実害を受けなかった方だと思う。

 薬を嗅がされて攫われたことは別として、それ以外では部屋の中でもウィラー青年の機転で手足が拘束されることもなかったし怪我をさせられたわけでもない。


「思った以上に、怖かったわけだ……」


 平和な日本でもさまざまなところで事件はあったしニュースでは見たり聞いたりしていた。

 それでも。

 実際に自分や自分の近しい人が暴力的な行為に遭遇することなんてなかったから。


 昨日の出来事は私の中に相当な衝撃を残したのだろう。


「……はぁ……どうしたらいいの……」


 重たいため息をついたところで現状は変わらず、でもだからといって誰かを呼ぶ気にもならなくて。


 私はベッドの上で膝を抱えてじっと蹲る。


 ただただ恐怖と向き合いながら。


 部屋が光を取り戻すまで。

 夜が明けるまで。


 まんじりともせずに光が闇を祓うのを待った。

数多の作品の中から読んでいただきありがとうございます。


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