べラルド家
「それはまぁ、そうなりますよ」
お見舞いがてら顔を出してくれたレグルスくんが、ベッド脇の椅子に腰掛けながら仕方のない人だとでもいうように言った。
「え? 何で?」
「ナツメさんは王宮の中庭で攫われたんですよ? 王宮内が決して安全ではないってことはわかりますよね?」
噛んで含むようにそう言われて「まぁたしかに」とは思う。
通常であれば王宮の中庭なんて安全でしかるべき場所だ。
そこで人が攫われただなんて近衛騎士団にとっては恥だろうし、王族にとっては身の安全が脅かされるほどの問題だろう。
「事件の首謀者であるヴァニタス卿が捕まったとはいえ、王宮内が安全であるとはまだ断定できていないんですよ。そんな場所にナツメさんを一人で居させるなんて危ないじゃないですか」
今のところ今回の事件はヴァニタス卿の単独犯だと言われている。
ただまだ調査中だから協力者がいたかもしれない可能性も否定できないらしい。
「その点この屋敷なら安全対策はどこよりも強固なので安心です」
そうか。
宰相ともなればそれこそ命を狙われることもあるのかもしれない。
トルス国最上位の公爵家でもあるわけだしそれを考えても安全対策はバッチリしていそうだ。
「べラルド家は有事の際は騎士を派遣する必要があるので騎士団を有してますし、その団員である者たちは国ではなくべラルド家、今であれば父上に忠誠を誓っている者たちです」
なるほど。
べラルド卿を裏切ることのない忠実な騎士たちが屋敷を守っている分、王宮よりも安全ということね。
今回だって結局のところヴァニタス家所属の近衛騎士たちが警備の持ち場を離れたことが事の発端だったけど、ここではそんなことは起こり得ないということだろう。
「それに……」
レグルスくんは自分の知っている秘密を打ち明ける悪戯っ子のような顔をして続けた。
「実は家で一番強いのは父上なんです」
「どういうこと?」
べラルド卿は宰相職につく人。
言ってみれば頭脳労働をする人だよね。
強いって、権力的に強いってことかな?
であれば当然だろう。
何と言っても当主なのだから。
「俺なんてまだ足元にも及ばないくらいに父上は強い」
……ん?
「いまだに打ち合いをして勝てたためしがないんです」
『強い』って、物理的に強いってことーー!?
「べラルド卿は……武芸にも秀でているの?」
「学園に在籍していた時は剣術の授業でアルファン卿と競っていたそうです。それに、今も家の騎士たちの誰も勝つことができない」
レグルスくんは誇らしそうにそう言った。
公爵家の当主で顔が良くて文武両道。
そりゃあいまだに多くのご令嬢やご婦人方から人気が高いのもわかるってものよね。
天は二物を与えずって言うけれどべラルド卿には当てはまらないらしい。
「なので、ナツメさんは安心して療養してください」
そう言うと「また様子を見に来ますね」と言ってレグルスくんは戻っていった。
療養と言われても、別に病気なわけでも怪我をしたわけでもないんだけど……。
とりあえず事件がある程度片づくまでは安全のためにもここにいろってことかな。
そう、思った。
本当の意味で療養が必要なのだと、気づくのはもう少し後のこと。
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