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召喚の理由

「それで、結局私はなぜこちらの世界に呼ばれたのでしょう?」


 リリアが持ってきてくれた膝掛けをかけ、さらには肩にベラルド卿のフロックコートを羽織った状態で私は聞いた。


 なぜベラルド卿の服を羽織っているかって?

 それは、ブラウスですら目のやり場に困ると『遠回しに』言われたからだ。

 紳士だからかハッキリとは言わなかったけれど。

 たしかに今日着ているブラウスはたまたま胸元の切れ込みが深めの物だ。

 でもこれくらい日本では普通だと思うんだけどね。


 とはいえ郷に入っては郷に従えとも言うので私は大人しくベラルド卿の上着を借りている。


 ……しかし、大きい服にすっぽりと包まれるのは安心を感じるものの無性に恥ずかしい。

 なぜこんな所でむず痒い思いをしなければならないのか。


 いささか八つ当たりじみた気持ちを抱えながら私はベラルド卿に向き直った。


「それにはまずトレス国の状況から説明する必要があります」


 そこで一息入れてベラルド卿が続ける。


「我が国は北と西は山脈に、南と東は海に面しています。そして国全体を聖女様の大きな結界が覆っている」

「聖女の結界……ですか?」


 いきなりスケールが大きい話になったよ。 


「はい。結界の向こうには多くの魔物が生息しています。その魔物たちから国を守るためにも結界は必須。歴代の聖女様は結界を維持管理して国を守る、重要な役割を担っているのです」

「その聖女が先ほどの少女ということでしょうか?」

「そうです」


 女子高生の彼女、求められる役割が重いよ。

 大丈夫なのかしらね。


「聖女様がご存命の間は良いのですが、その後は二百年ほどで結界は消えていきます。もちろん突然すべての結界が消滅するわけではありませんが」


 だんだんと薄くなるような感じなのだろうか。


「そしていよいよ結界の維持が難しくなる頃に神殿に予言がもたらされる」

「予言?」

「聖女様が降臨される時が知らされるのです。そのタイミングで我々は魔法陣を描き、聖女様をお迎えする準備をする」


 そして呼び寄せられたのがあの女子高校生というわけだ。


「でもそれは聖女様を召喚するためのものでしょう? 今回の聖女があの少女ならば、私が一緒に呼び寄せられた理由がわからないのですが?」

「それは……」


 つかの間ベラルド卿が言葉に詰まった。


「申し訳ありませんが今の段階では私にも原因がわかりません。神殿で調べるように指示は出しますが、いずれにせよあなたにはここに留まっていただくしかない」


 まぁ、ここで急に放り出されたら生きていける自信はないわね。


「だいたいの理由は理解しましたが……」


 当然、理解することと納得することは違う。


「いわばあなたたちは誘拐をした訳ですよね」

「誘拐!?」


 なんで驚くかな。

 突然連れ去るのは誘拐です。


「いやまぁ、たしかにそうとも言えるかもしれませんが」


 ベラルド卿は思ってもみない言葉を聞いたとでもいうような反応をする。


 だいたいにして、聖女と認定された女子高生は今後も厳重に守られた生活が保障されているのだろうけれど、おまけの私はどうなる。


「私のこれからの生活はどのようになるのでしょう?」


 これが、今一番気になることよ。


「それは国王陛下を含む貴族会と神殿との協議によって決まることになると思います」


 いや、そんなのんびりとしてる場合ではないでしょう?

 私にとっては死活問題。

 それに、詳しくはわからないものの、もし神殿に身を寄せることになったら自由がかなり制限されるのではないだろうか。


 神殿=修道院のイメージなのかもしれないけれど。


 それならば私が望むことはただ一つ。


「お伺いしたいのですが、私の希望を聞いていただくことはできるのでしょうか?」

「もちろん、できる限りのことは」


 そう言ってくれる割には召喚直後の対応は最悪だったよね。

 そんな風に思いつつ、しかし大事なのは今この場と思って私は言った。


 今後の自分にとって重要なことだから。

 はっきりと、言った。


「仕事を紹介してください」


 私の言葉を聞いたベラルド卿は驚いていたけれど。

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