宰相の焦り<一> Sideルシウス
「ヴァニタス家の所有する屋敷はどこにある?」
執務机の上に広げられた王都の地図を前にルシウスはアルファンに問いかけた。
ナツメが攫われてそろそろ半日が経とうとしている。
日は暮れ辺りはすでに闇に包まれていた。
ルシウスはリリアから報告を聞いてすぐに王宮を含む周辺の捜索の指示を出していたが未だ有力な情報はない。
そんな中、アルファンによって問い詰められた中庭の警備担当からいくつかの手がかりが得られた。
『持ち場を離れたのはレイラ嬢の落とし物を探していたからです』
入り口と出口、それぞれを警備していたはずの担当騎士は口をそろえてそう言った。
『勤務中に持ち場を離れるやつがあるか!』
アルファンはそう叱責していたが、彼らがどの家の出身かを考えればその理由もわかる。
今日に限って、二人ともがヴァニタス家に属する家の騎士だったからだ。
近衛騎士団にはさまざまな家門の令息が所属している。
どの家も嫡子は後継として、そして次男はそのスペアとして必要とされるが三男以降は自力で職を得なければならなかった。
そんな令息たちにとって近衛騎士の職は人気が高い。
騎士団長こそアルファン家の職務とされているが、それ以下はある意味実力がものを言う世界。
だからこそ近衛騎士団は家門を絞ることなく受け入れている。
そして多くの家の者たちが集まる職場だからこそ、警備にあたってのペアはあえて違う家門の者同士を組むことと決められていた。
そうやってバランスをとって警備担当を回しているはずなのだが。
「今日の中庭担当の一人が体調を崩し、その代わりがヴァニタス家の者だった」
悔やむようにアルファンはそう言った。
本来なら別の家門同士でペアを組むところも突然の欠員だとそれが難しい場合もある。
警備への支障を考えれば許可しないわけにもいかず、今までもそういったことはあった。
それが今回仇となった訳だ。
「二人ともがヴァニタス家の者になったと?」
「そうだ」
「彼らがナツメ殿を拉致したわけではないだろう?」
「ああ。彼らはあくまでレイラ嬢の依頼を遂行していただけ。つまり、レイラ嬢の一番の目的は中庭の警備を外させることだ」
(そして手薄になった中庭でナツメ殿を攫ったということか)
おそらく実行犯は荒事になれたその手の者たち。
(不審人物を王宮に招き入れただけでも重罪だがな)
「担当の騎士たちは家の力の関係上レイラ嬢のお願いを無視できなかったようだ」
担当騎士にとってレイラ嬢はある意味自身の家の生殺与奪権を握っているようなもの。
逆らいづらい事情は理解できるが、だからといって今回のことが許されるわけではない。
「どんな事情があろうとも、近衛騎士の仕事に就いている限り職務をまっとうすることが何にも勝ると、今一度徹底しろ」
「承知した」
ルシウスから発せられる静かなる怒気を感じながらアルファンは答えた。
「王都を出ていると厄介だが……。まずはヴァニタス家が所有する王都内の屋敷を探す方がいいだろう」
そして二人は王都の地図を確認したのだが。
「……ありすぎるな」
地図上にヴァニタス家が所有する屋敷をピン留めしていったところ、王宮の近くだけでも大小合わせて三軒はある。
王都内に範囲を広げればもっとあるだろう。
「虱潰しに捜索していったとしたらかなりの時間がかかる」
「ある程度絞り込むとして、どう取捨選択をするのか……」
アルファンがそう答えながら自身の顎に手を当て考え込んだ。
(大きい屋敷には使用人もそれなりにいる。それに不審な男たちが出入りしていたら誰かしらに目撃されるだろう)
人の口に戸は建てられぬと言うように、使用人が多ければ多いほど悪事が露呈する可能性が上がる。
(少しでもリスクを減らすためには大きな屋敷ではなく小さな屋敷を利用している可能性が高いな)
そう思い、ルシアスがアルファンに声をかけようとしたその時、執務室のドアをノックする音が聞こえた。
「誰だ?」
「ルシウス様へ至急の面会を希望している者がいるのですが」
「今は忙しい。後にするように」
侍従の問いかけにルシウスは素っ気なく答える。
「それが……ナツメ様について急ぎお知らせしたいことがあると申しておりまして」
「何だと?」
地図を見つめていた視線を上げ、ルシウスはアルファンと目を合わせた。
「わかった。面会を許可する」
「かしこまりました。すぐにお連れします」
そう答えると侍従の気配がドアから離れていく。
「罠か?」
「話を聞いてみなければわからないな」
アルファンの問いかけにルシウスが答えた。
面会者が持ってくる情報が吉と出るか凶と出るか、今の時点では予想できなかった。
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